南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

シェークスピア ソネット 120

 

ソネット 120

 

                                W. シェークスピア

 

かつてあなたにされたひどい仕打ちを今度はわたしがしてしまった

その時感じた自分の悲しみを思うと

今のわたしは罪の意識で頭を垂れるしかない

わたしの神経は真鍮でもなければ鋼鉄でもないのだから、

なぜなら もしあなたがわたしの裏切りによって動揺したのなら

かつてわたしがそうであったようにあなたは苦悶の日々を過ごしただろう

そして暴君であるわたしは かつてわたしがあなたの不実によって

どれだけ苦しんだかを考えてみることさえなかった、

おお!わたしたちの悲痛に満ちた夜は 真の悲しみがどれほどの苦痛を与えるかを わたしの心の最も奥深いところに思い起こさせたかもしれない

そしてすぐさまあなたに あなたがかつてわたしにしてくれたように 

傷ついた心を癒す謙虚な謝罪の言葉を捧げたのだった!

あなたの罪過が今わたしへの慰謝料となるのでなければ

わたしの罪過はあなたの罪過と相殺され 

あなたの罪過はわたしの今度の罪過と相殺されなければならない。

 

 

Sonnet CXX

 

       W. Shakespeare

 

That you were once unkind befriends me now,

And for that sorrow, which I then did feel,

Needs must I under my transgression bow,

Unless my nerves were brass or hammered steel.

For if you were by my unkindness shaken,

As I by yours, you've passed a hell of time;

And I, a tyrant, have no leisure taken

To weigh how once I suffered in your crime.

O! that our night of woe might have remembered

My deepest sense, how hard true sorrow hits,

And soon to you, as you to me, then tendered

The humble salve, which wounded bosoms fits!

   But that your trespass now becomes a fee;

   Mine ransoms yours, and yours must ransom me.

二条千河詩集『亡骸のクロニクル』

二条千河詩集『亡骸のクロニクル』。宇宙、時空、地球といった壮大な構図の中で人類の歴史が冷徹にとらえられる。ほとんど喜びや希望に満ちた情景は描かれず、科学館の展示を見るような視点から、無数の人々の骨片を踏み越えて行くしかない人間の冷厳な現実が示される。

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

宇佐見りん『推し、燃ゆ』。アイドルとファンの関係、女子高生の生理と心理、家族との関係等が、緻密な観察力と巧みな構成と文章力で描出されていて小説として申し分ないできばえだ。ただ、新たに推しを見出す以外に解決があるのだろうか?救いが見えにくいところに読者は戸惑いを感じてしまうのだが。

中村不二夫『現代詩NOWⅠ』

中村不二夫『現代詩NOWⅠ』。多くの優れた詩集を刊行する傍ら驚くべき質量の詩論集を刊行している。本書は、東日本大震災関東大震災と詩人の関係についての論考を初め、辻井喬他の詩人論、詩集評、詩誌評、講演等により、極めて広い視野から緻密な資料チェックに基づき現代詩を展望する貴重な労作。

『富沢智詩集』(砂子屋書房版 現代詩人文庫)

『富沢智詩集』(砂子屋書房版 現代詩人文庫)。膨大な詩篇と詩論・エッセイの執筆そして現代詩資料館『榛名まほろば』の運営、各種のイベントの開催など、類稀な行動力と大きな功績に接するとその情熱に頭が下がる。本詩集に収録された詩篇の中では、「黄泉の橋」のリアルなユーモアに強く惹かれた。

早矢仕典子詩集『百年の鯨の下で』

早矢仕典子詩集『百年の鯨の下で』。一見静かな筆致の中に浮かんでくるのは、研ぎ澄まされた感覚で捉えられた日常に潜む暗黒だ。漆黒の闇でこそ見えてくる光によって人は生かされるのだろう。たとえ時間が大切なものを奪っていくにしても、わたしたちは晴れ上がったそれぞれの空へ解き放たれるだろう。

長嶺幸子詩集『Aサインバー』

長嶺幸子詩集『Aサインバー』。12歳で父を亡くし、6人兄弟の長女として母を助ける。母は昼は畑仕事、夜はAサインバーに行って米兵相手に物を売る。沖縄での暮らしの様子が沖縄語を交えて懐かしく少し物悲しく語られる。戦争を経験しながらも助け合って健気に生きるウチナーンチュの姿が目に浮かぶ。