南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

大家正志詩集『しずく』

大家正志詩集『しずく』。孫娘らしい「しずく」の0歳から7歳までの成長記録。日常生活の中でのしずくのしぐさや言葉を愛情深く見つめる祖父の視線とともに、著者自身の物理学的関心や人間存在や宇宙のさまざまな事象への深い問いかけを融合させた不思議な…

池田康詩集『ひかりの天幕』

池田康詩集『ひかりの天幕』。この世にあることの不安や不穏な感覚を縦横無尽のイメージと語彙と言葉遊びを駆使して詩に体現させている。どこか芝居の一場面のような情景の設定や見栄を切るようなセリフが深刻な中にも笑いを呼び起こす。幅広い知識と経験が…

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』。緻密な現実観察が幻想的イメージへと移っていく。知的で上品で想像力に富んだ詩の構成や豊富な語彙や言葉の使い方が読者を様々な世界へ連れて行く。キーツを始め英詩にも通じた教養の広さがロマンティックな詩空間を創り…

立花咲也詩集『光秀の桔梗』

立花咲也詩集『光秀の桔梗』。関西弁でなされる家族との会話がなんとも軽妙で思わず笑ってしまう。実際にあった話をもとに巧みに詩作品に仕上げてしまう力量は大したものだ。しかも笑いを通して感じられる人生の喜怒哀楽や生老病死への鋭い洞察にも感心させ…

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れ』

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れー』。「くそまじめな言葉の仕事から離れて、言葉と遊んでみたい、戯れてみたい」という意図の下、「悲遊曲」「かのん」「うた(立原道造へのオマージュ1~5)」「誕歌 嘆歌 啖呵」「主題と変奏」「路上(本詩取り…

大谷選手の結婚を祝って

『大谷選手の結婚を祝う』 春匂う ビッグ・ヴァレーの ファンファーレ そっと寄せたい 祝いの言葉 ある線を 超えればひとり 彷徨いて 疎外のグラフ 手探りで描く 感覚は 説明不能 デリケート 依拠するものは ほかになければ ただひとり 粋に感じる 色合いを …

春の空

春の空 口喧嘩 決裂までは 行かぬ春 言う言わぬ 齟齬の寒さも 春遠し 好きだよと 言ったことなし 春まだき ガムランの 夢に鳴るのか 時は春 どうしても おれは消せない 春の火事 そろそろと ドルチェの似合う 春近し 本当は 言えないことの 春クレド たいせ…

吉田隶平詩集『青い海を見た』

吉田隶平詩集『青い海を見た』。人生の終わりを意識しながらも紡ぎ出される言葉はおだやかだ。静かに自分の人生を振り返りさまざまな出会いや出来事を思い出す。「何かをしなくてはいけないか//森の木が/陽の光を浴び/風にそよぐように//ただいるだけ…

良くも悪くも

良くも悪くも良くも悪くも 自分は自分。愚かでも 弱くても 貧しくても それ以上でもそれ以下でもない。ぼんやり考え込んでいるうちにすっかり日は暮れて鏡に映るのは白髪しわだらけの老人だ。「時間を大切に!」と若者によびかけ自分は自分の日々を生きるた…

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冬と春のスパイラル

冬と春のスパイラル 酔い覚めの 唯我独卑か 春の夢 世捨て人 眠る孤底の 水ぬるむ 夢先の 湖底に眠る 春の魚 飛び出して 名のみの春に すくむ足 冬の海 魚人となりて ひれを打つ 嘘ばかり 尽誠を吹く 春一番 化石似の アンコウ鍋に 時忘れ 疑似涙 仮病しりご…

自分

自分 見えないのか 見ようとしないのか 最も近くて遠いもの 鏡は嘘つきで 写真は意地悪 ビデオは要注意 似顔絵は裏切者 自分を失いたくなければ 五割増しぐらいでいい 他人は五割引きなんだから

2024年の詩集評

田中啓一詩集『愛の挨拶』。前詩集『弥生ちゃん』から2年余り。5年前に亡くなった妻のことが生き生きとだが寂しさと共に描かれる。ここまで一人の女性を愛し続ける気持ちにはただただ耳を傾けるしかない。ピアノの教師と生徒としての出会いから結婚した二…

2024年

奇跡には 年末年始も 構いなし

2023年の詩集評等

2023年の詩集評等 南原充士 2023.12.31 高橋馨詩集『蔓とイグアナ』。第一部は、詩と写真の組み合わせ、第二部は、自由線画集、第三部はエッセイ『私のダロウェー夫人』。幅広い芸術への造詣や豊富な人生経験を踏まえた、鋭い社会洞察や風刺や…

山田兼士『谷川俊太郎全《詩集》を読む』

山田兼士『谷川俊太郎全《詩集》を読む』。昨年亡くなった著者の御夫人と御子息による刊行。谷川俊太郎という偉大な詩人の全詩集をコンパクトに紹介するという画期的な試みはいかにも著者らしい緻密で情熱溢れる努力の賜物で深い感動なしにページを繰ること…

泪橋

泪橋泪橋 こだわりの店 用水の ほとりに立ちて 順番を待つ付けたのは ホルター型の 記録計 臨床検査 技師の言うまま寄る辺なき 川虫けらの ため息に おのれの呻き 重ねつつ病む不覚にも 頭部裂傷 脳震盪 幻と見る 現世の揺らぎ運命を 聴きつつこなす 雑用に …

川井麻希詩集『滴る音をかぞえて』

川井麻希詩集『滴る音をかぞえて』。陣痛が来た時に書くことに決めたわが子とのこと。「忘れてしまえば消えるだけの日常」をしっかりと観察して丁寧に言葉に記していこうとする思いが、繊細で驚きに満ちたいのちの営みを精密な絵画や音楽のように記していく…

前野りりえ詩集『サラフィータ』

前野りりえ詩集『サラフィータ』。サラフィータは太宰府をイメージした造語。Ⅰ章は1月から12月までのサラフィータ詩篇。Ⅱ章は時空を超えて奔放に駆け巡る想像力の生みだした多彩な物語詩篇。空想好きの詩人ならではの意外性に富んだフィクションもいいが…

関谷ひいず詩集『月曜日の朝に』

関谷ひいず詩集『月曜日の朝に』。2018年9月、月曜日の朝、下野新聞のしもつけ文芸欄に掲載されていた一篇の現代詩が目に留まり自分も詩の投稿を始めた。同新聞に掲載された詩がまとまったので詩集にまとめたと言う。日常生活をしっかりと見つめてわか…

青山かつ子詩集『おじゃんこら』

青山かつ子詩集『おじゃんこら』。童心を忘れないのが本物の詩人だろう。実際に耳にした子供たちの言葉や情景が基本となって、大人の観点からの観察や子供の頃の思い出が加えられて独自の子供詩の世界が生まれている。心が和むような詩篇が並ぶ中、特に「虫…

小川三郎詩集『忘れられるためのメソッド』

小川三郎詩集『忘れられるためのメソッド』。 一見とっつきやすそうだが、よく読むと様々な仕掛けが凝らされていて深く研ぎ澄まされた詩篇であることがわかる。世界認識はニヒリスティックであったり反語的であったりするが、一方で、他者や自然を冷めた目で…

佐峰存詩集『雲の名前』

佐峰存詩集『雲の名前』。湧き出づる雲のようなポエジーを仔細に観察して見えてくるイメージを正確に言葉にしようとするとき、身体感覚、都市空間、スマホ、気象・海象条件、地層、歴史等極めて豊富で多彩な語彙が喚起され、複雑で高度な表現技巧は、超現代…

詩集の感想

珍しく、拙詩集を読んだ感想を寄せてくれた読者がいたので、嬉しくなりました。 「詩集『インサイドアウト』 →ハードボイルド的な鋭い文章に感じました。人間の感覚を文章にしているような、難しい表現を纏めているような、たぶん南原さんならではの表現なの…

秋の収骨

秋の収骨 二連続 ―母(2023.10.6逝去)と義弟( 2023.10.11逝去)― Born alone, Dies alone, In the late Autumn. ひとり来て ひとりで帰る 秋の暮れ 人により 顔を違えて 秋の風 冷涼は 我が世の秋か 野辺送り Putting a piece of the cremated bones and rem…

母に

久方の 光射し来る 秋の日に 白寿の母は 永遠に眠りぬ 頬に触れ 手を取り声を しぼれども まどろむままに 母は答えず 思い出は 川の流れか まどろみか 帰らぬ時を 遡る舟

新いきる詩集『死んだ女』

新いきる詩集『死んだ女』。亡夫への思いを繰り返し言葉にすることで救われる未亡人。高齢化社会を迎えて最愛の伴侶を失って一人暮らしを余儀なくされる老人が増えている。素直に自分の心の寂しさを訴え亡夫との思い出や会話を詩として表現することが新たに…

武西良和詩集『メモの重し』

武西良和詩集『メモの重し』。著者が故郷和歌山の高畑で農業を営む四季折々の畑の様子や過疎化している近隣のひとびとの暮らしが生き生きと描かれる。詩を生み出す力量は並のレベルではない。「知り合いが亡くなった知らせを受けて記したメモに昨日抜いた細…

冨上芳秀『スベリヒユの冷たい夏』

冨上芳秀詩集『スベリヒユの冷たい夏』。言葉遊びのかげに人間への深い洞察がある。「死への恐怖を回避するものとして詩があり、透きとおった白い肌を持つ美しい女(死)と夜ごと激しくセックスすることで『詩』を書くことができた」。エロティシズムは悲し…

田中眞由美詩集『コピー用紙がめくれるので』

田中眞由美詩集『コピー用紙がめくれるので』。新型コロナウイルスが多くの命を奪い人の流れを止めた。そんな中で詩人にも非日常を生きる中でたくさんの出会いと別れが訪れた。ともすれば暗いことばかり起きる身の回りだがさらに地球環境の破壊や戦争が輪を…