南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

コロナ詩篇

広場で

広場で 広場では 子供たちが集まって 騒いでいる ボール遊びの合間に お菓子を分け合って食べたり いたずらをしたり くすぐりあったりしている 楽しそうに騒いでいる子供たちには 意地悪な風は感じられない どこかでじっと機会をうかがっている悪魔の視線な…

薬医門

薬医門 南原充士 明治時代には桃や梨の産地だった土地だとは 普段は思い出すこともないが こうして街中に小さな公園があって 紅しだれ梅 白しだれ梅 紅白梅と 咲き誇るところに差し掛かると ふと馬に乗って薬医門をくぐって往診に行った医師の姿が 思い起こ…

2021年 丑年

2021年 丑年 目覚めると あふれる光が 新しい年を知らせる 沖を行く老朽船の 針路を示す計器盤 電波は見えない 年を越せなかった命が 凍らせる背筋 生者は黙々と歩き出す どんなことがあっても 乗り越えていこう もぐもぐと草を食む牛の群れ

詩「餅」

餅杵と臼ぺったんぺったんつくごとに心は弾みよき年を願う気持ちがふくらんで白く尊い 餅となるお雑煮を一口食べればやわらかな深い味わい広がってやさしく強いひとになるそんな自信が湧いてくる

詩「花火」

花 火 南原充士 秋の日はたちまち傾き 公園にも暗闇が訪れる頃 しゅっと光るものがある かたわらを過ぎゆく人には それが花火だとわかるが ひとの姿は見えない 今年は大きな花火大会が中止になった 夏休みもぱっとしたことがなかった 大人も子供もどこかにく…

詩「日暮れ」

日暮れ 南原充士 日が暮れた空き地に 若者が群れている。 昼間は暑すぎるので 涼しくなってから 表に出てきたのだろうか? シルエットのひとたちが 通りを歩いていく。 蝉はおとなしく鳴いている。 鴉はいなくなった。 突然暴走族がやってきて あたりは騒音…

詩「鏡面」

鏡 面 南原充士 鏡面を磨く。 磨けば磨くほど 鮮明に像は映る。 自分の心が 映ることはないが 外界のようすを 鮮明に見ることができる。 愛する者の表情もくっきりと映る。 それ以上望むことはないと思うが 内面を見ることができないことに 次第に耐えられな…

詩「風」

風 南原充士 なんの先入観もなしに ひとやものを見る。 無になって こころが誘われるままに ひとに近づく。 もののかたちや重さを測る。 いろいろなことがあって ときおり可笑しくなったり 悲しくなったり怒ったりする。 言葉が零れることもあるが ただ黙って…

詩「やり直し」

やり直し 南原充士 秋晴れの空を見上げていると くよくよしていた自分をしばし忘れる まぶしい光がわたしの表面を暖め やがて内部へと沁みとおる 鉄塔がいくつも並んでいるのを辿ると 街のかたちが浮かんでくる いつか踏んだ踏み石はどのように 今日の足元に…

詩「ソーシャルディスタンス」

ソーシャルディスタンス 南原充士 それ以前から距離はとっていた それ以上近づけないから 諦めるしかないと感じていた あと一歩前へと 心の中で命じる声が聞こえても うっかり近づきすぎれば 傷つけあうふたりがいる この距離からでも それにふさわしい情愛…

詩「白い虹」

白い虹 南原充士 小さなトラブルでもショックは大きい。 大きな災いなら声も出ない。 中庸を行けと教えてくれた人はもういない。 かまびすしい世間で黙って生きていく。 自分だけが苦境にあるわけではないとわかっていても 躓き転べばひどく痛い。 曇り空の…

詩「砂漠」

砂 漠 南原充士 濡れている 拭き取る まだ濡れている ぬぐいとる くさい 消臭剤をふりかける 嗅ぐ 準備はととのった なんのための? 外出はしない どこかにこもるか なにかがやってくるか 早くしないと じわっと汗がにじんでくる ふと気が遠くなるような気が…

こんにちは

こんにちは 南原充士 ほんとうに悲しいことを話すことができるだろうか? 深い悲しみについて口にし だれかに秘密の思いをささやくことが。 わたしにできることは静かにしていることだけだ。 沈黙を守り、激しい痛みに耐えることだけだ。 いつしか時は過ぎる…

詩「散歩」

散 歩 南原充士 晴れの恵み 夕刻の軽い散歩 気分転換 自分なりのリズム 平凡すぎる一日が無事終わることの非凡 すれ違うひとは老若男女すべてマスクをしている どことなく離れようとする心理 人と人との磁力は逆転してしまったか? 至近距離で接しているのは…

人影

人 影 南原充士 ちょっと元気のないひと それはあなただ ふきげんな自分をもてあますあなただ なぜこんなに気持ちが滅入るのか おおよそは感じているが はっきりそれだとはいいにくい こんな自分は本当の自分ではない ふと聞こえる小鳥の声に心惹かれるあな…

詩「無頼」

無 頼 南原充士 気まぐれな浮遊子が無数に混じり合ってたまたま出会いぶつかりすれ違い引き合ったり反発したり無視し合ったりする確率論でできているとはなんとも歯がゆいが愛も憎しみも幸も不幸も喜びも悲しみも泡の如くかつ消えかつ結びてとどまるところが…

詩「ボール遊び」

ボール遊び 南原充士 広場ではいつまでも少年たちがボール遊びをしている空にはうっすらと三日月が浮かんでいる少しの間 目を離していたら すっかり暗くなっている家族が迎えに来たのだろう 名を呼ぶ声がこだまする見えないものを恐れながらも 足元は激しく…

幽囚

幽 囚 南原充士 果て知れぬ思いをかかえて有機的に暮らす 照葉の輝きに心は恥じらう寝違えた首筋が体のありかを知らせる こんなに胸騒ぎがするのに空腹はやってくる とらえどころのないものの中でただ失われ行くのは耐えられないと電柱の鴉に叫んでも底知れ…

写生

写 生 南原充士 喉元まで出かかった言葉を飲み込む爪先まで書きかけた言葉を書かない前頭葉に浮かんだイメージを描かない小耳にはさんだ噂を記録しないよくよく揉んでくちゃくちゃになったらおおよそは捨て去り消し去ってたまたま枝先に引っ掛かり枯れかかっ…

五月の終わりに

五月の終わりに 南原充士 五月の最終日と思えば暦が瞼に浮かんでくる六月へとめくられる景色しとどコロナを濡らす梅雨距離を保たなければ七月は来ない夜空を見上げれば満ち欠けする月じっととどまる八月 動き始める九月油断なく過ごす十月第二波、第三波を警…

途中

水平線の向こうを想像する 空の消えゆく先を想像する 記憶のうすれゆく縁を想像する かすかな風の音が途切れる丘陵を想像する すれ違ったひとのマスクを外した顔を想像する 窓辺に訪れたのはハクセキレイだったと想像する 走り去っていったのははだれの飼い…

危機

危 機 南原充士 外の景色を見ていると、時空のゆらぎは見えないが、心の揺らぎは感じる。子供たちが遊んでいるのを見ていると、自分の影は見えないが、未来を感じる。ひとりひとりの顔は見えないが、夥しい人々がこの世界に生きていることを想像する。どんな…

ドッジボール

ドッジボール 南原充士 どっちみち当てるか当てられるかだ癖球をかわし速球をかわし上手くいけばナイスキャッチ波のように寄せては引いてどっちもどっちだ最後のひとりがかわしそこねる鈍重なのは情けない土性骨の座った燕小僧を味方に入れて今度こそ勝ちだ…

ヒタヒタ

ヒタヒタ 南原充士 何かが追いかけてくるヒタヒタ 急ぎ足になるヒタヒタ 道を曲がるヒタヒタ 無人小屋を突っ切るヒタヒタ 川を渡るヒタヒタ 丘を越えるヒタヒタ 谷底に落ちるヒタヒタ 地中に埋もれるヒタヒタ 正体不明だヒタヒタ 遡ってみるヒタヒタ 出発地…

環境

環 境 天気がめまぐるしく変わるのを気持ちの浮き沈みと合わせてみる。わたしという生命体をおおざっぱにとらえてみれば体と心と環境だろうか?人は感情の起伏を責められるが天気は責任を問われない。あなたがわたしの環境であるようにわたしはあなたの環境…

夏の日は輝く

五月の暦さえめくりそこねていたのに 急激な気温の上昇は夏が来たことを肌で知らせる 家にばかりいるので自分自身には変化が少ないから ちょっとしたことが強烈な印象を与える 想像力は小さくなっていき 創造力は涸れてしまいそうだ 理屈をこねた口にお仕置…

どんなときも

どんなときも かわいくないひとと いつだって あいされるひととどちらかといえば すかれるひととどっちにしても かわりのないひとわらえるか なけるか ずっこけるかだれのせいでも ありゃしない

表情筋体操

表情筋体操 南原充士 心配しすぎては神経症になると長い喜劇映画を見始める映画専用チャンネルだけあって見たい作品がいくらでもある 笑うだけ笑って鏡を見ると表情筋がゆるんでいるのに気づくテレビのニュースをちらっと見ると病院に運び込まれる患者が映し…

コロナ雑詠

『コロナ雑詠』 2020年3~4月 リーダー リーダーを 責めるばかりは どうですか 虚心坦懐 よいことはよいと躊躇せず あらためるべきは あらためて 立場を超えて 助け合えたら 非常時は 問われるトップの 力量が 暮らし委ねて 命預けて家にいれば 怒りっ…

手を洗おう(幼稚園児向け)

手を洗おう 手を洗おう手を洗おう水道の水でごしごしと石鹸つけて手を洗おう 触っちゃいけない顔に手で手にはウイルスついているウイルス口から入るからマスクで防ごうウイルスを 外に行ったら手を洗おう触ったところ拭き取ろうお風呂に入ってきれいにね 混…