南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

575系短詩

春の空

春の空 口喧嘩 決裂までは 行かぬ春 言う言わぬ 齟齬の寒さも 春遠し 好きだよと 言ったことなし 春まだき ガムランの 夢に鳴るのか 時は春 どうしても おれは消せない 春の火事 そろそろと ドルチェの似合う 春近し 本当は 言えないことの 春クレド たいせ…

冬と春のスパイラル

冬と春のスパイラル 酔い覚めの 唯我独卑か 春の夢 世捨て人 眠る孤底の 水ぬるむ 夢先の 湖底に眠る 春の魚 飛び出して 名のみの春に すくむ足 冬の海 魚人となりて ひれを打つ 嘘ばかり 尽誠を吹く 春一番 化石似の アンコウ鍋に 時忘れ 疑似涙 仮病しりご…

2024年

奇跡には 年末年始も 構いなし

俳句『半夏生』

半夏生我流にも 手応えあれば 夏に沿ういっぱしの 夏の装い 風来坊地図もなく 迷い続ける 在の夏せせらぎに しばし涼とる 奥平敏感を 色に染め分け 夏の川遠雷に 読みふけりしは 夏の夜夏の午後 うつらうつらの 綿入子お互いに シカとしあって 夏ゆらり生体…

雛祭り

雛祭り 受動態 緩慢誘う 春霞 無に帰して 春の愁いを 葬りぬ 飴と鞭 桃の節句を 忘れまじ ひな人形 姿の見えぬ スナイパー 桃色の 影鮮やかに 尖る口 暖かな 春の日差しの 陰深し もうすこし 春に甘えて 無為夢想 目を閉じて 開いてみれば 春は来ぬ 赦されて…

紅葉映え

紅葉映え 無となりて いずこに行くか 秋の悲歌 固陋さえ 包む紅葉の 輝ける 孤愁にも 紅葉は来たり 照り勝る 共感を 超えても叫ぶ 秋の暮れ 共感を 得られなくとも 秋を詠む 好き嫌い 言いようのない 紅葉映え 無理解と 理解のあわい 紅葉愛 感性の 自由に任…

文化の日

文化の日 我が心 流しきれずに 紅葉川 かくばかり 訪ねて見れば 紅葉山 切なくも 覗きやまれぬ 紅葉谷 雲に乗る 心地を共に 秋の空 消去法 残った愛を 掌に 帰納法 いずこに行きし 栗ご飯 そうだねえ 自分勝手な 秋が好き それぞれに 好き嫌いあり 秋の味 去…

『オミクロンの秋』

『オミクロンの秋』(2022年9月) わりなくも 口喧嘩する 秋の精 信じれば 裏切られても 秋まかせ 掌を 返したのちは 秋に聞け 台風の 余波に濡れつつ どこへ行く 敬老を 忘るるほどに 何をする 放浪を 心に秘めて 秋と和す ずっとずっと あるもののよ…

一句

今時分 微分積分 春気分

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月)

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月) 南原充士 秋 神のいぬ 景色こぼれて ひとの声 モンキチョウ 追って走るは 三歳児 颯爽と 歩く女性に 注ぐ秋 スポーツの 秋の老女の 老いが取れ こだわりの そばを食して 秋は笑む 秋の日は 夜空に希望 手渡…

『春の夢』(俳句系)

『春の夢』 (俳句系) (2021年4月) 外よりも 内なる敵を 春散らせ 自滅気味 暗示のごとき 春の空 楽天に 振れる秤の 春うらら 自らを 納得させて 生きる春 歌うごと 調べ軽やか 春の川 自らを だまし励まし 春の風 地震来て 風雨も襲う 春に泣く 鬱…

『春暖』(575系)(2021.3)

『春暖』(575系) (2021.3) 春暖の すこし狂わす 身と心 近景と 遠景ありて 春朧 春雷を 風神雷神 叩く撥 春雷に 人事を乱す 内の神 珍しく 背中の張るは 春の乱 漏れ来るは 春の日差しか 戸惑いか 自らの 中のひとへと 春よ来い 寝返りを 打つ…

『2020年 オリオン座』(575系短詩)

『2020年 オリオン座』 (575系短詩(2020年12月) 新しい 暦を吊るす 心映え メリーX と 言われりゃ返す 無心人 訃報など 聞かずにいたし 年の暮れ はね返せ 氷の刃 毒の針 氷より 冷たいひとの 舌の先 無慈悲より 寒さ厳しき 無関心 やせ我慢…

『孤影となりて』(575)

『孤影となりて』(575系短詩 2020.11~12) かじかむ手 焚火を囲む 夢の中 氷雨降る 帰路はとぼとぼ 長い道 寝て覚めて 冷えたからだを 摩擦する なにゆえに 憎しみはある 氷点下 冬の日の 孤影となりて 沈みゆく 凍る無へ 手をさし込める 涙影…

『社会距離』(575系短詩)

『社会距離』 南原充士 こもりても 心うるおす 青時雨梅雨の入り 滅入るそぶりを つゆ見せず一日は 雨降りやまぬ ロ短調濡れる身を 心奮いて 乾かせりコロナ梅雨 見果てぬ夢の 濡れそぼる自嘲気味 鏡に映る 雨の外陽炎の 見下ろす微視の 社会距離嫌われて 梅…

575系短詩

なぜ「575系短詩」という言い方をしているのかと言えば、 1.5□7□5というように、各節間を一字空けとしていること。 2.現代的仮名遣いを基本としていること。 3.現代語を基本としていること。 4.季語にこだわらないこと。 5.切れ字は基本的に…

梅雨入り(575系短詩)

梅雨入り(575系短詩) 南原充士 祈りへと 傾く気圧 雨期を押す 想像の 雨界を消して 空晴れる 嫌われて 梅雨前線 居座りぬ 陽炎の 見下ろす微視の 社会距離 自嘲気味 鏡に映る 雨の外 コロナ梅雨 見果てぬ夢の 濡れそぼる 濡れる身を 心奮いて 乾かせり …

食事

うららかな 春は誘えど 自粛中 食卓に 陽光射して こもりびと 窓辺にて 霞は深し 山遠し

春の嵐

風の子の 駆けっこを追う 春一番 木葉舞う いかにも妖気 空模様 乱れるは 人の心か 春の風

想像力

寒き夜に 忍び寄る影 夢に咲く 花の名を 知らずに愛でて 温さ来る 昨年の 花影に立つ ひとはどこ

ベテルギウス

暗ずめば 冬の三角 異変予知

読まれない快適

七草を 食うこともない 時を過ぐ

第三日

錯乱も 稜線を越え 第三日

二日

惜しみない 日差したゆたう 第二日

元日

ただ青く たゆたえ海よ 元日も