南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

風薫る

 

風薫る


我が里に つつじうぐいす ハナミズキ  月影冴える 八十八夜
つまらない けんかをしては かえりみる おろかなじぶん かわりはしない 

すくなくも おろかであると しったうえ けんかをさける かしこさをしる

けんかする パターンをしり あらかじめ あやういふちに ちかづきはせぬ
ひととびに 夏日となりて かく汗は  千筋となりて わが身を伝う
冷汗を なめる唇 塩辛く 今日もささいな いさかいに泣く
コロナとて 自粛で過ごす 日常に 忍び寄る影 長くたゆたう
頼らねば 生きていけない 者同士 ののしりもまた 愛護のごとし
見えもせぬ 驟雨のごとき 襲来に 覚めても消えぬ 桎梏の夢
悪疫は うつつ跋扈し 跳梁す 無情の滝よ したたかに打て
今夜には 心をこめて おやすみを 明日の朝には おはようを言う
明日の朝 おはよう言うと 誓っては 今夜はそっと おやすみと言う
おやすみと 言えば明日は やってくる こんやは深い 眠りの園へ
めざめれば 今日もうれしい ことがある かなしいことに さよならをして

おはようと くちずさんでも とどかない 声のかわりに こころを送る
曇り空 晴れ行く先を 見上げては 湧き来る思い 気球に飛ばす
くやみつつ おろかなことを くりかえし これが自分と 途方に暮れる
いたわりを 宗としつつも われしらず 口を出るのは 暴言ばかり
苦しみを おおきな愛に 包み込み 自粛の窓辺 みんなは祈る
いつのまに ひとを避けつつ 歩くわれ 触れてはならぬ 話してならぬ
みつめつつ ささやくひとと 出会えずに 嘆きの壁に こうべを垂れる
あたらしき スキンシップの 発明を ためしてみたい わくわくしたい
長袖を 半袖にして 初夏の 日射し浴びれば 体が火照る
夏らしい 子供の日だと 気が付いて なぜか幼い 自分に戻る
老人と なりたる自覚 足らずして 鏡の中に いるのはだあれ?
いつのまに こんな姿に なったのか 孫に向かって 笑うのはだれ?
晴れた空 甘い空気に 誘われて 出かけてみれば 夕立の降る
現実が ストレスフルと 知りつつも ステイホームで 空想が飛ぶ
だれもみな 不意の嵐に あおられて  浮足立つも 立ち止まり見る
真夜中に 緊急地震 警報の けたたましくも 鳴りて響きぬ
そのときに 目覚めし子らは 母の手に 泣きべそかいて すがりつきけむ
こんな時 泣きっ面に 蜂かもと 不気味な揺れの 収まるを待つ
予期しない 便りを読めば なぜかしら 心は弾む ボールのように
だれのため 雲一つない 空の下 なにをするため わたしはいるか
そんなにも 考えすぎては 身の毒と そこいらへんを ひとまわりして
無になって 空気になって ふわふわと 透明人間 大空翔ける
月齢の 日めくり見つつ 見上げれば 月影さやか 天頂に満つ
スケボーで 並んで走る 少女たち リズムに乗れば 天使の舞へ
ストレスを 化学反応 瞬間に そよ風にして 飛ばしてあげる
これ以上 できないぐらい やってみる あとはたとえば ひねもすのたり
心配も くたくたになり ぼろきれの しぼりねじれば からからと鳴る
てやんでえ 言ってはみても あとはない 風に任せて さすらいびとよ