南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月)

 

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月)

 

               南原充士

 

     

 

神のいぬ 景色こぼれて ひとの声

 

モンキチョウ 追って走るは 三歳児

 

颯爽と 歩く女性に 注ぐ秋

 

スポーツの 秋の老女の 老いが取れ

 

こだわりの そばを食して 秋は笑む

 

秋の日は 夜空に希望 手渡して

 

ススキの穂 希望持ちたい 杖の先

 

秋草の なびく荒野に 老いて泣く

 

秋深し ひとり老いたる 顔洗う

 

秋暮れて 子供らの声 こだまする

 

脱コロナ 希望の粒よ 葡萄房

 

秋風に 紛れて忍ぶ 心の刃

 

なにかしら 支離滅裂な 秋の夕

 

骨格が つぎに肉付け 秋の画布

 

骨組みを ばらして抜いて 浮かぶ秋

 

言いたくて 言葉に詰まる 秋一色

 

秋鮭の 切り身ふっくら 思い出の

 

秋の夜 あれが木星 月火星

 

梨葡萄 柿栗林檎 早生蜜柑

 

泣き顔を 伏せたる夜長 遠い朝

 

夕ぐれに 一足蹴って 秋の庭

 

恋しくも ないとは言わぬ 月の影

 

大きめの 傘差し掛ける 秋の雨

 

小競り合い 大声出して 秋の風

 

空しくも ありぬべしとて 雨冷える

 

雨冷えの 近隣煙り 消える影

 

人恋し 天地茫漠 萱の原

 

お互いに 憎からず行く 秋の街

 

人恋し 秋ならもっと そばに来て

 

寂しさは 賑わいのあと 秋の風

 

落ち込んで 泣きそうになる 秋のひと

 

今夜また 秋を深める 夢の中

 

かあかあと 鳴く音も寂し 秋の暮れ

 

偏屈な 虚空となりて 秋の風

 

紅葉に 紛れるおれの 過半生

 

いいんだよ 紅葉の陰で 泣いたって

 

遣る瀬無い 巻積雲の 帰り道

 

飽きもせず 書籍鬻いで 日が暮れる

 

秋の日に 満ち足りて行く 散歩道

 

秋の日の 眠たさに負け 眠り込む

 

わけもなく けだるい真昼 秋光る

 

いかにして 再起動する 秋の午後

 

金星と 木星そして 秋の月

 

秋の日は 歩いているうち 暗くなる

 

足元は つるべ落としに ふらついて

 

責めるのは 人の常かと オリオン座

 

気が付けば 秋の日縮む きのうより

 

老夫婦 寿司握る秋 店の中

 

すれちがう ひとばかりいて あきほそし

 

冷涼の 孤毒に負けぬ 鍼を打つ

 

詠嘆を 捨てて固まる コンクリート

 

紅葉の 魔術通じぬ 老いの技

 

感動を 隠して過ぎる 秋の街

 

秋の夜に 聞こえる誰の すすり泣き

 

秋晴れに 心の愁い 吹き飛ばす

 

小春日に 紙飛行機の 夢飛ばす

 

思い出は 秋の心に 忍び入る

 

文豪の 顰を真似て 写る秋

 

小春日に 何万画素の 自撮り癖

 

月食を 隠す群雲 見上げつつ

 

永遠の 恋人と言う 秋狂い

 

海底より 噴き出す礫 秋を打つ

 

翌日に 繰り越す決意 秋深し

 

わが著書を 読書の秋の 読みふける

 

出てみれば 秋の光は 痛いんだ

 

ひとりいて ふと声が出る 秋の部屋

 

嘘つかぬ 嘘とは言わぬ 今日も秋

 

発するは 秋の夜長に 独り言

 

もどかしい すれ違いのみ 秋の街

 

人恋し それより寂し シジミチョウ

 

秋を抜け 無季の心で くつろいだ

 

秋鮭に おろしにご飯 御御御付

 

秋深し 南の島の 石敢當

 

思い出す 秋に潜った 碧い海

 

三線の 調べ懐かし 遠い秋

 

さまざまな 困難者いて 秋の計

 

予定とは 違う一日 秋嬉し

 

ほんとうは 秋の気まぐれ 困難者

 

人魚姫 ある秋の日の 白昼夢

 

眠りより 覚めて戻れば まだ秋か

 

秋深し 経年劣化を 思い知る

 

誇りより 埃の立つは 秋のわれ

 

おいおいと 言う間に秋は 暮れてゆく

 

おいおいと 泣くばかりなり 老いの秋

 

オイスター ワインをかけて 食ってやる

 

修理屋の 秋日を浴びて 飛び回る

 

遅れるは やむを得ないと 紅葉狩り

 

気温差に 振り回される 今日は秋

 

秋という 今日の方針 まとまらず

 

夜長には 妙な考え 思いつく

 

深更に 寝息を立てて 秋眠る

 

秋さんも いろいろあって くたびれる

 

今日もまた 読書の秋の 日よりとす

 

南北の 春を秋へと 反転す

 

美意識を 洗い晒して 秋の風

 

醜さを 忘れて歩く 秋の街

 

宇宙船 季語を選んで 秋の上

 

打ち上げる 人間ロケット 秋の夢

 

レモンより 大きな心 どこに置く

 

神妙に 生きるつもりよ 秋刀魚焼く

 

元気よく 秋冷飛ばす 園児たち

 

秋深し 年の差なんて ありました

 

秋深し 獣になって 吠えてみる

 

秋深し 今日も自分の 足で行く

 

小春日の 夢かと思う パラダイス

 

寝て覚めて 二度寝の秋の 朝遅し

 

結局は 一人だと知る 秋さやか

 

冷涼に 忍び入る陽の 熱を知る

 

何事も 突き詰めてみる 秋の空

 

晩秋の 夜空に光る 星の精

 

起きて見る 秋の星座の 回り方

 

見るたびに 位置を変え行く オリオン座

 

秋の空 光り続ける 星思う

 

 

     

 

凡人は 暖房コート 熱い風呂

 

予期しない 変異の冬を かわし越す

 

あいさつを 忘れた種族 冬の街

 

おんやまあ 師走の空は 暮れ急ぐ

 

地獄より 天国よ来い 年の暮れ

 

行く年も 見えぬ所で 来る年へ

 

時間論 日々唱えつつ 年暮れる

 

突かれても うまくかわして 暮れの舞

 

厳寒に ここまで鈍く 立ちまわる

 

骨までの くしゃみこらえて 寒沁みる

 

寒いねと 音波の届く ひとに問う

 

口喧嘩 林檎齧って 仲直り

 

年ごとに 味が良くなる 林檎の実

 

色香り 味に歯ごたえ 林檎好き

 

冬と言う 約束事を 楽しめる

 

我と言う 正体不明 もてあます

 

今日と言う 一日とする 師走から

 

遺伝子の 作る蛋白 凍えそう

 

冬の朝 体内時計 遅れがち

 

時間論 忘れて眠る 熊となる

 

月の伴 一番星に 冬見とれ

 

12月 そぞろ歩きの 日は暮れて

 

黄昏と しみじみ思う 冬の月

 

しつこさも ときには氷 溶かす熱

 

身は凍る 天気予報も 外気にて

 

ぬくぬくと 氷点下を見る 画面上

 

整理中 師走となった この一年

 

捨てるのが 苦手なままに 年の暮れ

 

一年の 区切りにあれば 流線形

 

色香にて 目くらまさない 防寒着

 

金欠の 夢のみ余る 年の暮れ

 

名誉欲 かすかに残る 十二月

 

一人行く 冬の夕ぐれ 無の極み

 

無無無無無 夢魔の雪平 荒煮出し

 

厳寒に 孤独の縁を こそげ取る

 

冬日射す 熱エネルギー 肌うれし

 

嗅覚を 研ぎ澄ます冬 花売り場

 

視聴覚 冴え冴えとする 冬の朝

 

あかぎれに つける薬を 買ったひと

 

オミクロン 小さな口で 白い息

 

幼児らが 追い越してゆく 真冬の背

 

殆どが 雑用ですよ 冬の風

 

冬晴れの 身を震わせて 沁みてくる

 

厳寒も 馴染めば温い リラックス

 

ともすれば ペシミスティック 柚子に聞く

 

気まぐれに 腹を叩いて 寒狸

 

口筋を ぐるりと回す 寒げいこ

 

自己流の 瞑想術に 耽る冬

 

泣きながら かすかに灯す 雪明かり

 

おれはおれ しっちゃかめっちゃか  年の暮れ

 

年の瀬に 小舟浮かべて 全廃棄

 

人知れず 焚火にくべる 悔いの枝

 

夢うつつ 寒気つんざく 消防車

 

師走とも なれば気がせく 脳体操

 

かんかんと 空耳の鳴る 冬の駅

 

あいさつを すれば嬉しい 良い年を

 

オミクロン 喜望を持って 年を越す

 

忘年会 たまには硬派 時間論

 

冬の手が わたしの首を 押さえつけ

 

じたばたと 冬将軍の 土俵上

 

年寄りの 寒中水泳 ボンファイア

 

密かなる アピタイザーは 寒げいこ

 

厳寒に かんかんかんと 踏み切った

 

冬曇り 心の空は 晴れ渡る

 

一顧客 年末セール 試飲会

 

未成年 同じ寒気に 紛れ入る

 

老年と 見れば凍える 年の暮れ

 

雑踏の 暗い喉元 冬の牙

 

あと三日 やるべきことに 時待たず

 

年の瀬を 裸足で渡る 鳥観図

 

ドローンに 冬枯れの国 見守らせ

 

悪寒など 吹き飛ばす意気 年を越す

 

混沌を 言葉に変えて 年過ぎる

 

この一年 ひとりよがりの 風任せ

 

万感の 募るあなたに 年の暮れ

 

共感を 伝えて黙す 冬心

 

涙する 見知らぬあなた 水凍る