南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『オミクロンの秋』

 

『オミクロンの秋』(2022年9月)

 

 

わりなくも 口喧嘩する 秋の精

 

信じれば 裏切られても 秋まかせ

 

掌を 返したのちは 秋に聞け

 

台風の 余波に濡れつつ どこへ行く

 

敬老を 忘るるほどに 何をする

 

放浪を 心に秘めて 秋と和す

 

ずっとずっと あるもののよう あきさみよう

 

秋心 嫌いになるも やむなしと

 

飽きるのも 嫌うのもある 秋の味

 

秋を生み 時空の果てへ 飛ぶ軌跡

 

装いて ようやく生きる 老いの秋

 

あるがまま 醜く思う ヒトの秋

 

飽きっぽい 人の心は 秋好み

 

不審火の 付いた心で 燃える秋

 

そっぽむく 瞑想癖に 秋日指す

 

孤影行く 名残の炎暑 背に受けて

 

秋の空 進まぬ気持ち 拡散す

 

節穴の 猫の眼光る 秋の縁

 

相性の 合わぬ犬とは 秋の風

 

求めない と言った先達 思う秋

 

ものあわれ ひとはきまぐれ 秋の空

 

知らぬ間に 心の底に 沈む秋

 

気がつけば 深い底より 浮かぶ秋

 

接しても 隙間は消えぬ 秋の肌

 

遅れずに ついていけるか 月の相

 

現代の バエル満月 みなスマホ

 

映える月 億万画素の 連写音

 

名月は 時代のピント 合わせ得ず

 

現代の 月見の仕方 考える

 

名月と 言ったとたんに 時が飛ぶ

 

この月を 見上げる気持ち 激写する

 

諦めを 煌めきにして 秋来たる

 

あきらめを きらめきにして あききたる

 

名月に 季節遅れを 修正す

 

名月を ひっくり返す 鉄板屋

 

名月を ひっくり返す カレンダー

 

虫の音の 合唱を聴く 草の影

 

夕日には 大きすぎるか 赤い月

 

下戸なりに 盃一杯 新酒汲む

 

腹いっぱい 光る新米 食べつくす

 

胸いっぱい 秋の空気を 吸って吐く

 

あきらめを きらめきにする 秋来たる

 

ささやかな さいわい来たる 秋の谷

 

つまずけば まじないひとつ 秋地蔵

 

種なしと 思えば嚙んで ゲン直し

 

相対の 陥穽に落つ 白い秋

 

ひまわりの 蜂蜜舐める パンの耳

 

今日からは さわやかになる 秋の風

 

はじめての ふるえをいくつ わが九月

 

故郷の 無花果の木は もう折れた

 

寝転べる 草生求めて 秋の空

 

百面相 秋の湖面に 跳ね返る

 

今日もまた 大谷選手 秋天使

 

悲鳴より 秋風に似た 話し声

 

秋風に ならいて忍ぶ 叫び声

 

秋らしい 自分着ている サイズ感

 

秋と知る 古人の耳を そばだてて

 

秋の日の 果て無き地平 忍び泣く

 

秋風は 忘れたころに 吹いてくる

 

この道は どこに続くか 秋を発ち

 

凡作も 傑作もある 本の秋

 

節穴も 炯眼もあり 読書灯

 

よき著者も よき読者なく 秋寂し

 

卑小なる 粒子に潜む 収穫期

 

災害の 映像見つつ 知るを知る

 

迷い鳥 翼は秋の 歌の中

 

こまでも ひとりで来たが もう九月

 

大震災 後藤新平 奮闘す

 

九月かと 思えば見える 風の音

 

妄執も ぽきっと折れそな 秋来たる

 

暦剥く 八月光 九月闇