南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

大家正志、小説『食べてしまいたいほどかわいい』

 

大家正志 小説『食べてしまいたいほどかわいい』。地方の印刷会社の営業職として30年あまり働いた後再雇用されて同人誌や自分史などの小規模出版を手掛けながら、自分でも同人誌に小説を発表している主人公。友人の脇田がやっている居酒屋によく顔を出すが、そこの女の子が新しくなった。かずちゃんはあまりしゃべらないが料理は上手だ。主人公が食事に誘ううちにお礼がしたいと言うことで、ある時ホテルに行くことになった。その時の様子が「食べてしまいたいほどかわいい」という表現で表されている。著者の経験をもとにフィクションとして仕上げたのだと思われる。自分史を本に出したい実業家の心理や同人誌をやりながら受賞を目指す物書きの心情などが巧みに描かれており、小説のはじめと終わりに「食べてしまいたいほどかわいい」が置かれている構成もうまい。長年詩と小説を書き、出版業も行ってきた著者の筆力が十分にうかがえる作品となっており、推薦するに足りる出来栄えとなっている。

水田安則詩集『夏のこども』

水田安則詩集『夏のこども』。息子夫婦が別居して孫の姉弟がその母と暮らしはじめる。小学生の姉弟が次第に成長する姿が丁寧に描かれるが、その境遇に打ちひしがれるのは孫以上にジジである自分の方らしい。「夏のこどもはやがて/夏の若人へと羽ばたく/さびしく老いぼれてゆくぼくらをしり目に」。

初夏に寄す

In early Summer
初夏に寄す
Dogwoods are talking with cherry blossoms,
 Remembering an old story,
Two countries presented each other
their respective lovely trees.
ドッグウッド 桜とかわす 物語
In early summer,
A helicopter is flying over the sky,
Along the edge of uneasiness.
初夏の 不安の縁を かわすヘリ
The summer shines over the park,
Mothers are talking.
And children are having fun.
夏日射す 空き地ママ友 子は騒ぐ
Spring has gone,
Summer has come.
Children are running around
春過ぎて 夏来たる裸子 駆け回る
Stops a moment.
In front of a fence,
Along which Spirea flowers are in bloom.
こでまりの 垣根のそばで 立ち止まる

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』。圧倒的な詩想の豊かさとそれを表現する知識や言葉の該博さに驚嘆する。「ヴォルフィー変奏」と「蛇足から」の二部構成。日常生活、歴史、文学、音楽、科学、哲学等大きな引き出しから文明批評、時代認識、未来予想等が箴言のような趣のある詩篇として繰り出される。

大家正志詩集『しずく』

大家正志詩集『しずく』。孫娘らしい「しずく」の0歳から7歳までの成長記録。日常生活の中でのしずくのしぐさや言葉を愛情深く見つめる祖父の視線とともに、著者自身の物理学的関心や人間存在や宇宙のさまざまな事象への深い問いかけを融合させた不思議な世界を創り出した魅力的な詩集となっている。

池田康詩集『ひかりの天幕』

池田康詩集『ひかりの天幕』。この世にあることの不安や不穏な感覚を縦横無尽のイメージと語彙と言葉遊びを駆使して詩に体現させている。どこか芝居の一場面のような情景の設定や見栄を切るようなセリフが深刻な中にも笑いを呼び起こす。幅広い知識と経験が詩に深さと厚みを与えていて読み甲斐がある。

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』。緻密な現実観察が幻想的イメージへと移っていく。知的で上品で想像力に富んだ詩の構成や豊富な語彙や言葉の使い方が読者を様々な世界へ連れて行く。キーツを始め英詩にも通じた教養の広さがロマンティックな詩空間を創り出している。「松煙の聲」に特に惹かれた。