南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

シェークスピア ソネット 122

 

ソネット 122

 

                                 W. シェークスピア

 

あなたの贈り物、ノートブックはわたしの頭の中にあります

いっぱいに書き込まれた忘れ難い記憶は

いつまでも、というより永遠に

様々な雑多な書き込みによって残っていくでしょう、

あるいは少なくとも頭と心が

与えられた能力を持ち続ける限り

そのいずれかがあなたの記憶を奪われるまでは

あなたの記録は決して失われることはありません

その小さなノートブックにはそれほど多くを書き込めないでしょう

またあなたの大切な愛を数える割符は必要ないでしょう

だからわたしは自信を持ってそのノートブックを手放したのです

わたしの頭の中のノートブックはあなたのことをより多く書き込めるからです

あなたを思い出すためのよすがとしてなにかを持っているなんて

わたしがあなたのことをすぐ忘れてしまうということになってしまいます。

 

Sonnet CXXII

 

       W.Shakespeare

 

Thy gift, thy tables, are within my brain

Full charactered with lasting memory,

Which shall above that idle rank remain,

Beyond all date, even to eternity:

Or, at the least, so long as brain and heart

Have faculty by nature to subsist;

Till each to razed oblivion yield his part

Of thee, thy record never can be missed.

That poor retention could not so much hold,

Nor need I tallies thy dear love to score;

Therefore to give them from me was I bold,

To trust those tables that receive thee more:

   To keep an adjunct to remember thee

   Were to import forgetfulness in me.

大家正志『袋あるいは身のまわりにおきたこと』

大家正志『袋あるいは身のまわりにおきたこと』。『袋』はバイトの運転手が運んでいる袋の中身にこだわって夜の工場に忍び込む話。『身のまわりにおきたこと』は夫や娘や自分に起きる意外なできごとに翻弄される45歳の主婦の心理や行動を描いた話。いずれも猥雑さと不条理に満ちた魅力的な小説だ。

シェークスピア ソネット 121

 

ソネット 121

 

         W. シェークスピア

 

放埓でないのに放埓だと非難されるとき

放埓だとみなされるより実際に放埓である方がましだ

自分の感覚ではなく他者の見立てで判断されるなら

自分が正しい行いをしているという喜びさえ失われる、

なぜ他者の偽りにして淫らな目が

わたしの好色な気質に挨拶をするのだろうか?

あるいはわたしが良いと思うことをその性向上悪と考えるような

わたしより誘惑に弱いスパイたちがなぜわたしを責めるのだろうか?

いや、わたしはこのとおりのわたしだ、わたしの放蕩を批判するかれらも

さんざん放蕩に耽っている

かれらが斜に構えたとしてもわたしはまっすぐな姿勢でいるだろう

かれらの卑しい見方でわたしの行為が世間に示されてはならない、

ひとはすべて悪人であり悪行を積み重ねているという

悪の一般性をかれらが主張するのでなければ。

 

 

Sonnet CXXI

 

         W. Shakespeare

 

'Tis better to be vile than vile esteemed,

When not to be receives reproach of being;

And the just pleasure lost, which is so deemed

Not by our feeling, but by others' seeing:

For why should others' false adulterate eyes

Give salutation to my sportive blood?

Or on my frailties why are frailer spies,

Which in their wills count bad what I think good?

No, I am that I am, and they that level

At my abuses reckon up their own:

I may be straight though they themselves be bevel;

By their rank thoughts, my deeds must not be shown;

   Unless this general evil they maintain,

   All men are bad and in their badness reign.

詩「嘆きの壁」

 

   嘆きの壁

 

        南原充士

 

はるばるやってきた巨大な壁

名もない壁だけれども

知る人ぞ知る壁

 

ここではだれも言葉を交わさない

黙って佇んで

祈りを捧げるだけだ

 

地図にも載っていないが

口づてに伝わり

人けが絶えることはない

 

心にはめいめいが

収まりきれない悲しみを

かかえているらしい

 

曇った空から

ぽつりぽつり雨が落ちてくる

土砂降りになっても帰らない

 

だれにも居場所はないから

壁にやってくるのだろう

ここから迷路に迷い込むとしても

 

ここで斃れるとしても

立ち尽くす生者の思いに

無数の死者の思いが共鳴する

 

夜通し雨が降り続き

ずぶぬれになったまま

無声の合唱を歌い続けたのち

 

気が付けば

朝明けの中を静かに

去っていく人影が見える

 

小鳥のさえずりが

嘆きの壁にこだまする

強風が木々の枝を揺らす

 

ひとり去り

ひとりがやってくる

分からないぐらいの目礼を交わす

 

幼い子供を見かけたとき

ふと心の靄が晴れたような気がした

解けない謎はあっても

 

たとえ壁が崩れたとしても

どこかに記憶のかけらが残るだろう

地下深く埋まっても

 

精密なセンサーが探り当てるだろう

名もない合唱団の聖歌が

喜びさえ伝えようとしたことを

 

今古びた壁はたしかに聳え立っている

ここを去る前にじっと見ようとすると

幻のように消え去りそうで怖くなる

 

ここからはなぜか遠くが見えない

ただ小さな竜巻の中に浮かぶように

来る者も去る者もふいに現れて消える嘆きの壁

 

 

 

 

 

広場で

    広場で

 

広場では 子供たちが集まって 騒いでいる

ボール遊びの合間に お菓子を分け合って食べたり

いたずらをしたり くすぐりあったりしている

楽しそうに騒いでいる子供たちには

意地悪な風は感じられない

どこかでじっと機会をうかがっている悪魔の視線などに

だれも気付かない

さ、はやく、しろよ!

日原正彦詩集『はなやかな追伸』

日原正彦詩集『はなやかな追伸』。人間の生死や動植物やさまざまな物への思いを澄んだ目でとらえ、込み上がる感情を肩の力が抜けた言葉のスケッチとして自在に描いている。豊富な人生経験に基づく深い洞察力と優れた表現力と巧まざるユーモアは、悲喜こもごもの人生を感動的な詩集として結実させた。

Kindle版小説『喜望峰』あらためてご紹介

 

新型コロナウイルス禍のもと、小説『喜望峰』を読んで希望を持ちましょう?』

 

                          南原充士

 

1.はじめに

 

昨年8月にKindle版小説『喜望峰』を出版してからまもなく1年が経過します。幸い読者の方からは好評をいただいております。この際あらためてその概要をまとめてみましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。

 

2.小説『喜望峰』について

 

⑴あらすじ

 

大手商社に勤務する尾形雅輝は、南アフリカの白金族金属の探査・開発プロジェクトを担当していた。カナダに本社のあるビクトリア・マイニング社との協力のもとにこのプロジェクトを推進するため、出資の実現に向けて社内外への調整に忙しい日々を送っていた。

そんな中で、尾形が付き合っているワイン仲間と会ったときに、このプロジェクトがうまく行ったらみんなで南アフリカに旅行に行こうという話が出てきた。また合唱クラブで一緒の高宮キャロルとも次第に親しくなっていった。

何百億円もの出資を進めるべきかどうかについては社内でも賛否両論が激しく対立し、尾形はなんとか説得力のある理屈付けができないかと頭を悩ますのだった。だが尾形としては、このプロジェクトには海外投資機構も関心を示して一定の金額の出資を検討していたし、この白金族金属プロジェクトは有望だという信頼筋からの報告もあったのでなんとかなるのではないかという見方をしていた。はたして尾形はうまく出資にこぎつけることができるだろうか?

 

⑵読者からの反応

 

 読者から、「企業経済小説と恋愛小説の両面があり、おもしろかった」という感想や「企業内でいろいろ懸案を解決していく企業戦士の頑張りが自分の経験からも共感できる」とか「企業内で問題解決に努めながら恋愛にも情熱を傾ける主人公の姿がよく書けている」とか「物事の決まり方が役所と似ている」とか「ワインを飲む場面が多く出てくるのでワインを飲みたくなった」とか「コロナ禍の中でハーピーエンドのストーリーに救われた」などという感想が寄せられました。

 

⑶『喜望峰』の狙い

 

 日本と南アフリカの関係を考えるとき、資源開発プロジェクトは重要なテーマだと考えて総合商社の白金プロジェクトをめぐるストーリーを作ってみたいと思いました。

 出資についての多くの関係者との折衝のプロセスを詳しく描くことを主な筋書きとしながら、主人公の商社マン尾形の合唱仲間のキャロルとの恋愛、ワインクラブの活動、商社の南アフリカ駐在の白川夫妻のエイズとの闘いなど、いくつかの筋書きを重ねて物語を展開させました。

 紆余曲折の後、物語はケープタウンの南端にある喜望峰でエンディングとなりますが、どのようなかたちで最後の場面を迎えるのか是非ご期待ください。

 

Kindle 本のダウンロードの方法

 

 電子書籍はまだまだなじみのない方も多いかもしれませんので、簡単にダウンロードの仕方をご紹介しますので、よろしくお願いいたします。

 

Amazonのページにアクセスして下さい。

(例えば下記のページは、南原充士(なんばら・じゅうし)の電子書籍小説『喜望峰』のページです。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08G4PM9W1/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1

 

②先ず、上記ページの上方にある「Kindle無料アプリ」をクリックしてダウンロードして下さい。

Kindle本を無料で読むためのアプリは、パソコン、タブレット端末またはスマホ用があるので、いずれかをダウンロードして下さい。

 

➂次に、上記ページに戻って、右方にある「注文を確定する」をクリックしてください。その後、クレジットカードによる決済手続きを済ましてください。

 

➃先にダウンロードをしたKindle無料アプリを開いて『喜望峰』をクリックすると電子書籍の読書が開始します。

 

⑸抜粋(尾形とキャロルのデートの場面)

 

《土曜日、キャロルは出勤日だったので、比較的遅い時間に待ち合わせをしていたが、それでも約束の時間に少し遅れて現れた。

「ごめんなさい。常連のお客さんにいろいろ聞かれちゃってなかなか帰れなくなっちゃったの」

「なんのなんの、仕事だからしょうがないよ」尾形は上機嫌で迎えた。

「プラチナプロジェクトはうまく行ってるの?」キャロルは尾形に対して以前よりずいぶん砕けたようすで接するようになっていた。

「うん、急に話が前に進むような感じになっているよ」

「それはよかった。じゃあ、とりあえず成功を祈って乾杯しましょうか?」

 二人は燃え上がりつつある恋の炎の中に飛び込んだような強烈な喜びを分け合っていた。

 ワインを飲み肉や野菜を食べ、おしゃべりをして、お腹が痛くなるほど笑い合った後は、暗黙の快楽の時間が待っている。お互いの目を見つめ合いながら瞳の奥に潜むめらめらとした炎を確かめ合うのだった。

「実はね、プロジェクトがうまく行ったら、ワインの会の仲間と南アフリカに旅行に行こうという話をしていたんだ。ひょっとすると近いうちに実現するかもしれない」尾形がそう言いながらキャロルの顔を見た。

南アフリカ?いいわね。わたしも行きたいな」

「そうか。じゃあ、キャロルも一緒に行こうよ」

「いつごろ行く予定なの?仕事が休めるかどうかチェックしなくちゃいけないから」

「まだはっきりした日程はきまっていないんだ」

「そう。じゃあ、決まりそうなときに言ってくれる?参加できるかどうか考えてみるから」

「わかった」》

 

⑹プロフィール

 

わたしは南原充士(なんばら・じゅうし)というペンネームで詩や小説を発表していますので、お時間のある時でもご覧いただければ幸いです。

 

日本詩人クラブ会員 既刊詩集13冊 既刊電子書籍小説8冊)