南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

こんにちは

 

     こんにちは

 

 

            南原充士

 

 

ほんとうに悲しいことを話すことができるだろうか?

深い悲しみについて口にし

だれかに秘密の思いをささやくことが。

 

わたしにできることは静かにしていることだけだ。

沈黙を守り、激しい痛みに耐えることだけだ。

 

いつしか時は過ぎるだろう

そしてわたしは頬笑もうとするだろう。

みんなに「こんにちは」と言うだろう。

シェークスピア ソネット 99

 

ソネット 99

 

                     W.シェークスピア

 

早咲きのすみれをわたしはこのように叱った、

優しい泥棒よ、おまえはどこからその甘い香りを盗んだのか

わたしの恋人の香りから以外にはありえないよね?

おまえの頬を粧う華麗な紫も

おまえがわたしの恋人の血に浸ってたっぷりと染まったからだ、

百合に対してもその手の白さを盗んだことを責めた

マジョラムの蕾はあなたの髪を盗んだのだった

薔薇と言えば不安に戦いていた

恥じらって赤らむものもあり、絶望して青白くなるものもあり

赤くも白くもなくその両方の色を盗んだものもあった

その上さらにあなたの香りさえ横取りしたのだった、

だがその盗みゆえに 薔薇は その花の盛りに

復讐の虫に蝕まれて枯れてしまうのだ

さらに多くの花をわたしは見てみたが、あなたからその甘い香りや色合いを

盗まなかった花など一本もないのだった。

 

 

 

Sonnet XCIX

 

        W. Shakespeare

 

The forward violet thus did I chide:

Sweet thief, whence didst thou steal thy sweet that smells,

If not from my love's breath? The purple pride

Which on thy soft cheek for complexion dwells

In my love's veins thou hast too grossly dy'd.

The lily I condemned for thy hand,

And buds of marjoram had stol'n thy hair;

The roses fearfully on thorns did stand,

One blushing shame, another white despair;

A third, nor red nor white, had stol'n of both,

And to his robbery had annexed thy breath;

But, for his theft, in pride of all his growth

A vengeful canker eat him up to death.

   More flowers I noted, yet I none could see,

   But sweet, or colour it had stol'n from thee.

シェークスピア ソネット 98

 

ソネット 98

 

      W.シェークスピア

 

色とりどりの4月が飾り立てた衣裳に身を包み

あらゆるものに若さのエッセンスを吹き込む春の間

わたしはあなたのいない時間を過ごしてきた

暗鬱なサトゥルヌスさえ4月には笑って跳び跳ねたのだった、

小鳥の歌声も

様々な香りや色合いを持つ花たちの甘い匂いも

わたしに楽しい話をする気にはさせなかったし

それらの花々が育った誇らしい土地から摘み取ることもしなかった、

また百合の白さに心を動かされることもなかったし

薔薇の深い紅を愛でることもなかった

それらはすべてあなたという原型をもとに描かれた

甘美さに過ぎず、喜ばしい模写に過ぎなかった、

あなたがいないのでまだ冬であるように思えた

あなたの影と戯れるかのようにわたしはこれらのものと戯れた。

 

 

 

Sonnet XCVIII

 

        W. Shakespeare

 

From you have I been absent in the spring,

When proud pied April, dressed in all his trim,

Hath put a spirit of youth in every thing,

That heavy Saturn laughed and leapt with him.

Yet nor the lays of birds, nor the sweet smell

Of different flowers in odour and in hue,

Could make me any summer's story tell,

Or from their proud lap pluck them where they grew:

Nor did I wonder at the lily's white,

Nor praise the deep vermilion in the rose;

They were but sweet, but figures of delight,

Drawn after you, you pattern of all those.

   Yet seemed it winter still, and you away,

   As with your shadow I with these did play.

詩「散歩」

 

    散 歩

 

           南原充士

 

晴れの恵み

夕刻の軽い散歩

気分転換

自分なりのリズム

平凡すぎる一日が無事終わることの非凡

すれ違うひとは老若男女すべてマスクをしている

どことなく離れようとする心理

人と人との磁力は逆転してしまったか?

至近距離で接しているのは子供たち

心に浮かぶ医師・看護師 レジ係、配達員の姿

しばらく景色の中へ迷い込んで

今我に帰る

シェークスピア ソネット 97

 

ソネット 97

 

                   W.シェークスピア

 

 

あなたと離れていた期間は、過ぎ去る年の愉悦を失い

わたしにとってあたかも冬のような時期だった

なんとも凍えるような寒さを味わい、暗い日々を過ごし

いたるところに年の暮れ12月の荒涼とした景色を見たことであろうか!

だが今過ぎ去ったのは夏という季節だ

豊かな実りの秋が訪れ 

主人を亡くした未亡人の子宮のように

青春の放蕩が実を結ぶ、

この豊饒な実りもわたしには

ただ孤児の出生見込みであり、父無し児の出産にしか見えなかった

なぜなら夏の季節とその賑わいはあなたにかしずき

あなたが不在の時は鳥たちさえもさえずることはないからだ、

あるいは鳥たちはさえずるとしてもいかにも生気を欠き

木の葉は冬の到来を恐れるあまり色を失ってしまう。

 

 

Sonnet XCVII

 

       W. Shakespeare

 

How like a winter hath my absence been

From thee, the pleasure of the fleeting year!

What freezings have I felt, what dark days seen!

What old December's bareness everywhere!

And yet this time removed was summer's time;

The teeming autumn, big with rich increase,

Bearing the wanton burden of the prime,

Like widow'd wombs after their lords' decease:

Yet this abundant issue seemed to me

But hope of orphans, and unfathered fruit;

For summer and his pleasures wait on thee,

And, thou away, the very birds are mute:

   Or, if they sing, 'tis with so dull a cheer,

   That leaves look pale, dreading the winter's near.

人影

   人 影

 

         南原充士

 

ちょっと元気のないひと

それはあなただ

ふきげんな自分をもてあますあなただ

なぜこんなに気持ちが滅入るのか

おおよそは感じているが

はっきりそれだとはいいにくい

こんな自分は本当の自分ではない

ふと聞こえる小鳥の声に心惹かれるあなた

窓から外を見るカーテンの向こうの人影

それはわたしだ