南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2021-01-01から1年間の記事一覧

田中啓一詩集『弥生ちゃん』

田中啓一詩集『弥生ちゃん』。最愛の妻に先立たれて3年。妻弥生と生きた日々の一瞬一瞬を蘇らせるために詩を書き詩集にまとめたと言う。出会ったときから弥生ちゃんが亡くなるまでの様々な思い出が、懐かしさと愛おしさと悲しみが胸に溢れる中で、丁寧に描…

南原充士 2021年 文学活動の記録

南原充士 2021年 文学活動の記録(2021.12) 1.詩関係 (1)詩集『時間論』をKindle版で出版。 (2)詩誌関係 ①詩誌「space」156号(時間論ⅩⅩⅨ) 157号(時間論ⅩⅩⅩ) 158号(結晶) 159号(薬医門) 160号(嘆きの壁) 161号(温泉) ➁ 詩誌…

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月)

『鳥瞰図』(俳句系)(2021年10~12月) 南原充士 秋 神のいぬ 景色こぼれて ひとの声 モンキチョウ 追って走るは 三歳児 颯爽と 歩く女性に 注ぐ秋 スポーツの 秋の老女の 老いが取れ こだわりの そばを食して 秋は笑む 秋の日は 夜空に希望 手渡…

『脳の洗濯」(短歌系)(2021年10~12月)

『脳の洗濯』(短歌系) (2021年10月~12月作) 南原充士 不可能と 思えばつらい 邂逅も 万が一でも ありうることと 嵐過ぎ 光まぶしき 秋景色 眺めているのは だれでしょう 挑発の 仕方忘れて 秋桜の そよぐ道辺を 休みつつ行く ひたすらに 読書の秋…

シェークスピア ソネット 134

ソネット 134 W. シェークスピア 今や彼があなたのものであり わたしがあなたの抵当に入っていることを認めた以上 わたしはわたし自身を失うだろうし、あなたはもう一人のわたし つまり彼をわたしに返してずっと安心させてくれるだろう、 いやあなたは返しは…

渡辺みえこ詩集『押し入れのひと』

渡辺みえこ詩集『押し入れのひと』。78歳までの来し方で最も印象深いのは家族、特に母のことのようだ。幼いころから母はずっと自分を守ってくれた。女性としてのアイデンティティに苦しみ、身体的な重さを抱えながら詩を書いたが、言葉を発しようとすると…

中澤清詩集『時間の遠近法は記憶の魔法―葉月長月2021』

中澤清詩集『時間の遠近法は記憶の魔法――葉月長月2021』。現実や情景や記憶や思索が様々な着想を導き知的なスタイルの詩篇へと結実する。時間へのこだわりが独特の詩の時空を開いて読者に不思議な体験を共有させる。とりわけ詩「記憶」における「生と死」へ…

楡久子詩集『北陸からやってきた』

楡久子詩集『北陸からやってきた』。武生市で育って中学三年の時に堺市に引っ越した著者が今日までの人生を手のひらで包むように大切に辿った詩集。家族や近所のひとびとや学校や小鳥や植物などごく身近な日常で見たこと感じたことを等身大の言葉で丁寧に掬…

神原芳之詩集『流転』

神原芳之詩集『流転』。生の流れの中で経験した多くの幸不幸の出来事を深い洞察眼が観察し、観照ともいえる視点から静かで正確ですこしユーモアと反骨精神を忍ばせた詩作品として差し出している。戦争、災害、親しい人の死、文学、動植物、自然の情景等走馬…

シェークスピア ソネット 133

ソネット 133 W. シェークスピア あなたの心はわたしの友人とわたしに深い傷を与えて わたしの心を呻かせるとはなんということでしょう! 愛する苦しみでわたしを苦しめるだけでは不十分で わたしの親友までも奴隷のように虐げられなければならないのですか…

大石聡美第七小説集『婚約』

大石聡美第七小説集『婚約』。34歳、バツイチの私と一つ年下の青年、間宮とのいかにもありそうな交際の流れと自然で生き生きとした会話が読ませる。あっけなく婚約に至るのももったいぶったところがなくていい。「元夫シリーズ」を書くのがライフ・ワーク…

シェークスピア ソネット 132

ソネット 132 W. シェークスピア あなたの目をわたしは愛しています、それらはわたしを憐み あなたの心が蔑みによってわたしを傷つけることに気づいており 黒い色で装う愛情深い弔問客であり わたしの痛みを哀れむやさしい目を注いでくれるのです、 そして実…

『うろこアンソロジー合本 2014-2020』

『うろこアンソロジー合本2014-2020』。WEB上の灰皿町の清水鱗造町長が毎年年末に町民からの詩を募ってまとめていたものを7年分まとめて紙の本として出版した。最近清水氏は詩や小説や評論を精力的に発表し書籍化している。わたしも灰皿町民の一人…

小島きみ子詩集『楽園のふたり』

小島きみ子詩集『楽園のふたり』。生死を直視する強靭な精神力と神話や古事記や聖書や哲学書や詩や音楽などの幅広い教養が、現実世界における出会いと別れの諸相を、様々な詩の形として生み出す。恰も巫女が此の世と黄泉の国の媒介をするかのように言葉の霊…

ヤリタミサコ詩集『月の声』

ヤリタミサコ詩集『月の声』。空想奇談とも言うべき語り口のおもしろさと人生経験の深さを踏まえたアフォリズムが、古い橋や月や不思議なカメラをめぐって卓越した詩の世界を生み出している。「住む」の発想もユニークだ。「橋」はすぐれた英訳も付されてい…

篠田翔平詩集『おくりもの』

篠田翔平詩集『おくりもの』。一見みずみずしい初恋の物語のように見えるが、よく読むと場面や時間が飛んでいたり、会話もとぎれとぎれになっていたり、登場人物も明確な像を持たなかったりと、複雑な構造を持つ超絶技巧が凝らされていることに気づく。儚い…

木葉揺詩集『アーベントイアー』

木葉揺詩集『アーベントイヤー』。奇想天外のドタバタ劇。コーヒーメーカーで切り刻んだ蟻の列が巨大な一匹の蟻になったり、両肩に絡まった柿木がフェリーから投身自殺したり、暖炉の前で死んだ熊を解体し火葬に付す等弾ける言葉による「冒険」は笑いが止ま…

川中子義勝詩集『ふたつの世界』

川中子義勝詩集『ふたつの世界』。猥雑で苦悩に満ちた世界が著者の濾過装置により澄み切って穏やかで懐かしい芸術世界に変換される。全編に詩的なノスタルジアが宗教音楽のように鳴り響き、言葉による美しい結晶として析出している。とりわけ「Ⅲミステルの旅…

シェークスピア ソネット 131

ソネット 131 W. シェークスピア あなたは暴君のようです、あたかも美女たちの誇るべき美貌が 彼女たちを残酷にさせるように なぜならわたしの切実な愛に溺れる心にとってあなたが最も美しく最も貴重な宝石であることを あなたはよく承知しているからです、 …

清水鱗造『彩りキノコ』

清水鱗造『彩りキノコ』。蛇腹畑線という鉄道沿線を舞台として繰り広げられるキノコ狩りの物語。登場人物も場面も行為も関心事も一風変わっていて、「彩りキノコ」とか「蛙地」等の駅名とか「滲出場所マニア」とかの独特のネーミングと相まって、ユーモラス…

時間論Ⅸ

時間論 Ⅸ 南原充士 むかしよく行った海辺の灯台にひさしぶりに行こうと思った 最寄のバス停から三十分ほど歩くと灯台へ通ずる細道の入り口まで着き そこからちょっと崖を上ったところに灯台はある 幸い空は真っ青に晴れて白い雲さえ浮かんでいたので なんと…

加藤思何理詩集『おだやかな洪水』

加藤思何理詩集『おだやかな洪水』。結婚、出産、性、仕事、母、家族、親友の病気、色々な思い出等暮らしの様々な情景が瀟洒なスタイルの詩へと変換される手際は見事だ。それは現実世界が濾過されて言葉で再構成された芸術世界であり、生のリアルな悲喜交々…

森雪拾詩集『ゆきふるよる』

森雪拾詩集『ゆきふるよる』。丁寧に選び抜かれた言葉が静かに並べられると、そこにはなつかしい自然の情景が瞼に浮かんでくるが、森や岸辺や海に木や花や鳥や船を見る目は生きる者の嘆きや幻影を見透している。安っぽい感傷に流れない上質の抒情詩集。特に…

シェークスピア ソネット 130

ソネット 130 W. シェークスピア わたしの恋人の眼は太陽とは程遠い 珊瑚は彼女の唇よりもずっと赤い 雪が白いとしても彼女の胸はなぜ灰色っぽいのだろう 髪の毛が糸だったとしたら彼女の頭には黒糸が生えている、 わたしはこれまでにダマスク色、赤色、白色…

詩集『時間論』目次、あとがき等

詩集『時間論』 南原充士 目 次 時間論 0 時間論 Ⅰ 時間論 Ⅱ 時間論 Ⅲ 時間論 Ⅳ 時間論 Ⅴ 時間論 Ⅵ 時間論 Ⅶ 時間論 Ⅷ 時間論 Ⅸ 時間論 Ⅹ 時間論 ⅩⅠ 時間論 ⅩⅡ 時間論 ⅩⅢ 時間論 ⅩⅣ 時間論 ⅩⅤ 時間論 ⅩⅥ 時間論 ⅩⅦ 時間論 ⅩⅧ 時間論 ⅩⅨ 時間論 ⅩⅩ 時間論 ⅩⅩ…

シェークスピア ソネット 129

ソネット 129 W. シェークスピア 恥ずべくして不毛な精力の浪費は 満たそうとする欲望であり 満たされるまでは欲望は 偽りであり殺人的であり血なまぐさく罪深く 野蛮で極端で野卑で残酷で信じられない、 欲望は満たされるや否やすぐさま軽蔑すべきものにな…

シェークスピア ソネット 128

ソネット 128 W. シェークスピア わたしの喜びの調べ、あなたのしなやかな指が 幸福な鍵盤に触れて楽の音を奏でる時 あなたの柔らかな動きが わたしの耳を魅惑する弦の調和を生み出す時、 キスを受けるはずのわたしの哀れな唇が 誇らし気な鍵盤を弾くあなた…

シェークスピア ソネット 127

ソネット 127 W. シェークスピア 昔は、黒は美しいとはされなかった あるいは仮に黒が美しかったとしても美という名前は持たなかった だが今では黒は美の跡継ぎだ そして美は私生児という呼ばれ方で貶められている、 なぜなら人はみなそれぞれに自然の女神の…

短歌系『ワクチン接種』(2021.5~9)

短歌系『ワクチン接種』(2021.5~9) 南原充士 おおよそは わかっていると 思ってた 動画を見れば 海馬が跳ねる 豆挽くも ほどよく挽けよ 苦ければ 香り立ち来て 舌先を刺す 全世界 ワクチン戦争 避けながら 億万回の 接種よ進め 食品の 値上げ相次…

詩「いいひと」

いいひと 南原充士 いいひとでいたいと おもうひとのどこかに いいひとになれないひとがいる みぬかれているのに どうしようもなく ざんこくなつめをたてるとかげ またみちばたで ふみまちがえたアクセルが こうふくなかぞくをころす しっとぶかいいでんしが…