南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2024-01-01から1年間の記事一覧

水田安則詩集『夏のこども』

水田安則詩集『夏のこども』。息子夫婦が別居して孫の姉弟がその母と暮らしはじめる。小学生の姉弟が次第に成長する姿が丁寧に描かれるが、その境遇に打ちひしがれるのは孫以上にジジである自分の方らしい。「夏のこどもはやがて/夏の若人へと羽ばたく/さ…

初夏に寄す

In early Summer 初夏に寄す Dogwoods are talking with cherry blossoms, Remembering an old story, Two countries presented each other their respective lovely trees. ドッグウッド 桜とかわす 物語 In early summer, A helicopter is flying over the…

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』。圧倒的な詩想の豊かさとそれを表現する知識や言葉の該博さに驚嘆する。「ヴォルフィー変奏」と「蛇足から」の二部構成。日常生活、歴史、文学、音楽、科学、哲学等大きな引き出しから文明批評、時代認識、未来予想等が箴言…

大家正志詩集『しずく』

大家正志詩集『しずく』。孫娘らしい「しずく」の0歳から7歳までの成長記録。日常生活の中でのしずくのしぐさや言葉を愛情深く見つめる祖父の視線とともに、著者自身の物理学的関心や人間存在や宇宙のさまざまな事象への深い問いかけを融合させた不思議な…

池田康詩集『ひかりの天幕』

池田康詩集『ひかりの天幕』。この世にあることの不安や不穏な感覚を縦横無尽のイメージと語彙と言葉遊びを駆使して詩に体現させている。どこか芝居の一場面のような情景の設定や見栄を切るようなセリフが深刻な中にも笑いを呼び起こす。幅広い知識と経験が…

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』。緻密な現実観察が幻想的イメージへと移っていく。知的で上品で想像力に富んだ詩の構成や豊富な語彙や言葉の使い方が読者を様々な世界へ連れて行く。キーツを始め英詩にも通じた教養の広さがロマンティックな詩空間を創り…

立花咲也詩集『光秀の桔梗』

立花咲也詩集『光秀の桔梗』。関西弁でなされる家族との会話がなんとも軽妙で思わず笑ってしまう。実際にあった話をもとに巧みに詩作品に仕上げてしまう力量は大したものだ。しかも笑いを通して感じられる人生の喜怒哀楽や生老病死への鋭い洞察にも感心させ…

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れ』

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れー』。「くそまじめな言葉の仕事から離れて、言葉と遊んでみたい、戯れてみたい」という意図の下、「悲遊曲」「かのん」「うた(立原道造へのオマージュ1~5)」「誕歌 嘆歌 啖呵」「主題と変奏」「路上(本詩取り…

大谷選手の結婚を祝って

『大谷選手の結婚を祝う』 春匂う ビッグ・ヴァレーの ファンファーレ そっと寄せたい 祝いの言葉 ある線を 超えればひとり 彷徨いて 疎外のグラフ 手探りで描く 感覚は 説明不能 デリケート 依拠するものは ほかになければ ただひとり 粋に感じる 色合いを …

春の空

春の空 口喧嘩 決裂までは 行かぬ春 言う言わぬ 齟齬の寒さも 春遠し 好きだよと 言ったことなし 春まだき ガムランの 夢に鳴るのか 時は春 どうしても おれは消せない 春の火事 そろそろと ドルチェの似合う 春近し 本当は 言えないことの 春クレド たいせ…

吉田隶平詩集『青い海を見た』

吉田隶平詩集『青い海を見た』。人生の終わりを意識しながらも紡ぎ出される言葉はおだやかだ。静かに自分の人生を振り返りさまざまな出会いや出来事を思い出す。「何かをしなくてはいけないか//森の木が/陽の光を浴び/風にそよぐように//ただいるだけ…

良くも悪くも

良くも悪くも良くも悪くも 自分は自分。愚かでも 弱くても 貧しくても それ以上でもそれ以下でもない。ぼんやり考え込んでいるうちにすっかり日は暮れて鏡に映るのは白髪しわだらけの老人だ。「時間を大切に!」と若者によびかけ自分は自分の日々を生きるた…

著書宣伝

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冬と春のスパイラル

冬と春のスパイラル 酔い覚めの 唯我独卑か 春の夢 世捨て人 眠る孤底の 水ぬるむ 夢先の 湖底に眠る 春の魚 飛び出して 名のみの春に すくむ足 冬の海 魚人となりて ひれを打つ 嘘ばかり 尽誠を吹く 春一番 化石似の アンコウ鍋に 時忘れ 疑似涙 仮病しりご…

自分

自分 見えないのか 見ようとしないのか 最も近くて遠いもの 鏡は嘘つきで 写真は意地悪 ビデオは要注意 似顔絵は裏切者 自分を失いたくなければ 五割増しぐらいでいい 他人は五割引きなんだから

2024年の詩集評

田中啓一詩集『愛の挨拶』。前詩集『弥生ちゃん』から2年余り。5年前に亡くなった妻のことが生き生きとだが寂しさと共に描かれる。ここまで一人の女性を愛し続ける気持ちにはただただ耳を傾けるしかない。ピアノの教師と生徒としての出会いから結婚した二…

2024年

奇跡には 年末年始も 構いなし