南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2020-01-01から1年間の記事一覧

『2020年紅白を聴く』(57577系短詩)

『2020年紅白を聴く』(57577系短詩) だれもみな バイアスの罠 陥りて 呻吟しつつ 光をつかむ 誰の言 信ずべきかは 自らの 身を切るごとき 精進の果て 轟轟の 幾万人の 叫喚に 真実告げる 沈黙を聞く 年の瀬は 心静かに 窓辺にて 日に当たりつつ 海…

詩「餅」

餅杵と臼ぺったんぺったんつくごとに心は弾みよき年を願う気持ちがふくらんで白く尊い 餅となるお雑煮を一口食べればやわらかな深い味わい広がってやさしく強いひとになるそんな自信が湧いてくる

南原充士 2020年の文学活動

南原充士 2020年 文学活動の記録(2020.12) 1.小説関係 Amazon Kindle版電子書籍で7冊目の小説『喜望峰』出版(2020年8月) (参考) 既刊電子書籍小説 BCCKS 『転生』 Amazon 『エメラルドの海』 『恋は影法師』 『メコンの虹』 『白い幻想…

詩「花火」

花 火 南原充士 秋の日はたちまち傾き 公園にも暗闇が訪れる頃 しゅっと光るものがある かたわらを過ぎゆく人には それが花火だとわかるが ひとの姿は見えない 今年は大きな花火大会が中止になった 夏休みもぱっとしたことがなかった 大人も子供もどこかにく…

『2020年 オリオン座』(575系短詩)

『2020年 オリオン座』 (575系短詩(2020年12月) 新しい 暦を吊るす 心映え メリーX と 言われりゃ返す 無心人 訃報など 聞かずにいたし 年の暮れ はね返せ 氷の刃 毒の針 氷より 冷たいひとの 舌の先 無慈悲より 寒さ厳しき 無関心 やせ我慢…

『2020年 コロナに暮れる』(57577系短詩)

『2020年 コロナに暮れる』 (57577系短詩(2020年12月)) これもそれ あれも乗り越え ここにいる ようやくにして 小人ひとり 山谷を 超えて到れる 人の世に 魑魅魍魎と なりてはびこる あと一歩 ひとへの道を 踏み出さん 餓鬼道を抜け 人非…

「笑う種」5

「笑う種」5 南原充士 お笑い塾では今日も 塾生たちが絞られていた ――笑いの壷を探してこい ――笑いの骨を拾ってこい 優等生は卒業して 次々と高座に上がった 落ちこぼれはやむなく お笑いの道を断念した 客席に入り浸って 笑い続ける者がいた 巧みな笑いが…

シェークスピア ソネット 106

ソネット 106 W. シェークスピア 過去の年代記を見ると 極めて美しい人々の記述があることに気づく 美の叙述が作り出す美しい古代の韻文は 貴婦人や愛すべき騎士たちを称賛している、 そして とびきり素敵な美男美女の 手や足や唇や目や眉を描く筆致を見ると…

「笑う種」4

「笑う種」4 南原充士 長い舌を出して ―龍君どっちのベロが長いか比べてみよう そんな挑発には乗らずに ―蜥蜴君 どこまで登れるか比べてみよう ねじ曲がった老木を二匹は登って行った 天辺まで来たとき ―龍君 今度はどちらが先に下まで降りられるか そんな…

「笑う種」3

「笑う種」3 南原充士 笑う種の分析をした研究所は 笑いの成分を抽出して 抗うつ薬の製造にこぎつけた 笑いは免疫機能を活性化するという 研究結果は知られていたが 笑いを引き起こす薬は開発されたことがなかった 飲んだら気持ちが晴れ晴れとしたという 評…

「笑う種」2

「笑う種」2 南原充士 笑う種をまいたら 芽が出て茎が延びて 大きな木に成長した 人が近寄ると 葉がざわざわとして 人は思わず笑いだすのだった 秋になると丸い実が付いた 食べると口が真っ赤になり 笑っているように見えた 熟した実からは大きな種がとれた…

「笑う種」1

「笑う種」1 南原充士 このところ笑っていない 顔の筋肉がこわばってしまった 笑いの感情さえ忘れてしまった チンパンジーが腋の下をくすぐってきた 足の裏や首筋もこちょこちょしてきた もう我慢できない 思わず笑ってしまった チンパンジーにバナナをやっ…

志村喜代子詩集『人隠し』

志村喜代子詩集『人隠し』。時間は過ぎ去りすべては失われる。ここにはここにはいない者への眼差しがある。時は人隠しの魔として君臨する。人間は、抗いようもない時間や逃げようのない運命に翻弄され、現実を直視しつつ生きざるを得ない。冷徹な目で描かれ…

詩「日暮れ」

日暮れ 南原充士 日が暮れた空き地に 若者が群れている。 昼間は暑すぎるので 涼しくなってから 表に出てきたのだろうか? シルエットのひとたちが 通りを歩いていく。 蝉はおとなしく鳴いている。 鴉はいなくなった。 突然暴走族がやってきて あたりは騒音…

海東セラ詩集『ドールハウス』

海東セラ詩集『ドールハウス』。知的な企みと抒情性に満ちた散文詩集。建築家のような視線で専門用語を駆使し詩作品ごとに気の利いた引用を付加している。緻密な観察は印象派の画家のようでもあり構造的なアプローチと相俟って瀟洒な詩の家を建てている。ド…

『孤影となりて』(575)

『孤影となりて』(575系短詩 2020.11~12) かじかむ手 焚火を囲む 夢の中 氷雨降る 帰路はとぼとぼ 長い道 寝て覚めて 冷えたからだを 摩擦する なにゆえに 憎しみはある 氷点下 冬の日の 孤影となりて 沈みゆく 凍る無へ 手をさし込める 涙影…

『はやぶさ2の帰還』(57577)

『はやぶさ2の帰還』 (57577系短詩 2020.11~12) いるだけで 傷つけあうは 定めなら お茶を濁して のらりくらりと おちょやんの 子役はうまい 毎田暖乃 台詞ぽんぽん おもろいほんま 我が心 星に託して 空を飛び 忘れたころに 帰る喜び こ…

シェークスピア ソネット 105

ソネット 105 W. シェークスピア わたしの愛を偶像崇拝と言わないでほしい あるいはわたしの恋人が偶像のようだと なぜならわたしのソネットや称賛はいつも似ており ただひとつのことをいつまでも述べ続けるからだ、 わたしの愛は今日も優しく明日も優しい …

神品芳夫著『木島始論』

神品芳夫著『木島始論』。1928年生2004年没の詩人木島始の生涯と活動をつぶさにまとめた労作。広島の原爆に象徴される戦争への思い、黒人文学の紹介、ジャズ評論、詩劇、詩画集、絵本、訳詩等多岐にわたる木島の全体像に迫る中で示される木島への溢…

苅田日出美詩集『草茫茫』

苅田日出美詩集『草茫茫』。コロナ危機に陥っても一定の距離を置いて現実を観察しそれをユーモアに満ちた言葉に変えてしまう。1938年岡山生まれの詩人はかつて空襲も経験し、様々な出来事に遭遇したのだろうが、それらに屈せずに情熱を込めて書かれてき…

『牛のペニス』(57577系短詩)

『牛のペニス』(57577系短詩)(2020秋) そっぽむく そっぽむかれる ひととひと 皮膚の下には 赤子の笑顔 詩神には 見放されても 人情の 機微ひろいつつ 拙く綴る 好き嫌い 激しすぎれば 瞑想の 河原に座して 呪文を唱う じわじわと 締め付けられて…

シェークスピア ソネット 104

ソネット 104 W.シェークスピア 美しい友よ、わたしにとってあなたが年老いるなんてありえないことです なぜならはじめてわたしがあなたと目を合わせた時から あなたの美貌はいつまでも変わらないからです、三度の冷たい冬が 三度の夏の盛りを森の枝から揺…

詩「鏡面」

鏡 面 南原充士 鏡面を磨く。 磨けば磨くほど 鮮明に像は映る。 自分の心が 映ることはないが 外界のようすを 鮮明に見ることができる。 愛する者の表情もくっきりと映る。 それ以上望むことはないと思うが 内面を見ることができないことに 次第に耐えられな…

詩「風」

風 南原充士 なんの先入観もなしに ひとやものを見る。 無になって こころが誘われるままに ひとに近づく。 もののかたちや重さを測る。 いろいろなことがあって ときおり可笑しくなったり 悲しくなったり怒ったりする。 言葉が零れることもあるが ただ黙って…

最近の心境

以下は、私の最近の心境です。 詩を書き始めて50年余。 詩が自分の原点だという意識はある。 最近ようやく詩が自分に根付いたという感じがする。 極く自然に詩と付き合えそうな感じが。 楽しみながらね! 小説を書き始めて50年。 と言っても本格的に書き…

シェークスピア ソネット 103

ソネット 103 W. シェークスピア ああ!わが詩神はなんと貧しい詩しか生み出さないのでしょうか、 その詩才を存分に発揮し得る広範なテーマがあるというのに、 わたしが付け加える称賛の言葉などないほうが 詩の対象はより価値あるものとなるのです! おお!…

一表現人として

一表現人として 同じ物事も人によって違って見える。 正邪。好悪。愛憎。快不快。立場。育ち。環境。敵味方。 自分の見方が絶対ではありえない。 相対性のくびきの中で いかに正義に近づけるか 知恵と忍耐と努力が求められる。 ただ批判し続けるだけでは 解…

詩「やり直し」

やり直し 南原充士 秋晴れの空を見上げていると くよくよしていた自分をしばし忘れる まぶしい光がわたしの表面を暖め やがて内部へと沁みとおる 鉄塔がいくつも並んでいるのを辿ると 街のかたちが浮かんでくる いつか踏んだ踏み石はどのように 今日の足元に…

ルイーズ・グリュック「夏の公園」(試訳)

夏の公園(試訳) ルイーズ・グリュック 何週間か前にわたしは母の写真を発見した 母は日射しを浴びながら座っていて、その顔はなにかを成し遂げたかあるいは勝ち得たかのように紅潮していた。 太陽が照っていた。犬たちが 母の足元で眠っていた、そこでは時間…

ルイーズ・グリュック「夏の公園 第4連」(試訳)

夏の公園(試訳) ルイーズ・グリュック 4 ベアトリスは子供たちをシーダ―ハーストの公園に連れて行った。 太陽が照っていた。飛行機が 頭上をあっちこっちへと過ぎていった、平和に、なぜなら戦争が終わっていたから。 それは彼女の想像の世界だった。 真偽…