南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『2020年紅白を聴く』(57577系短詩)

 

 

『2020年紅白を聴く』(57577系短詩)

 

 

だれもみな バイアスの罠 陥りて

呻吟しつつ 光をつかむ

 

誰の言 信ずべきかは 自らの

身を切るごとき 精進の果て

 

轟轟の 幾万人の 叫喚に

真実告げる 沈黙を聞く

 

年の瀬は 心静かに 窓辺にて

日に当たりつつ 海苔餅を食う

 

さびしさを にぎわいに変え 悲しみを

喜びにする 魔法がほしい

 

そのひとの 機嫌の悪さ 気づかずに

不機嫌のまま 年を越せない

 

ちょっぴりは 口げんかして 仲直り

できるうちなら 幸せ者よ

 

ねたみなど もたないつもり みちたりた 

ミニマムあれば よしと思って

 

花屋には 滅多に行かない 暮れなれば

正月用の 花束を買う

 

花の名は 知らぬカタカナ 覚ええず

和名に変えて 持ち帰る道

 

はるばると 来ぬと思えば いとしさも

一入なりと 聞く鐘の音

 

わはは鳩 からから鴉 へへへ蛇

さよなら子年 笑うっしっし

 

ひとはみな かわいい生まれ ナルシスの 

幻影映る 水辺に群れる

 

紅白を 見てきた自分 振り返る

 よくも悪くも 日記の一部

 

美と醜は メビウスの輪か くっきりと

裏と表を 剥がしきれぬか

 

年ごとに 先ゆく時に 遅れるを

気づかぬままに 迷い歩くか

 

時代とは 見えない川か 流れつつ

人も事物も 置き去りにする

 

だれひとり 狂乱の渦 避けきれず

悲鳴は裂けて 光は消える

 

一個人 無限の後に 生まれ来る

まだ見ぬ宙に 思いを馳せる