南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

二条千河詩集『亡骸のクロニクル』

二条千河詩集『亡骸のクロニクル』。宇宙、時空、地球といった壮大な構図の中で人類の歴史が冷徹にとらえられる。ほとんど喜びや希望に満ちた情景は描かれず、科学館の展示を見るような視点から、無数の人々の骨片を踏み越えて行くしかない人間の冷厳な現実…

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

宇佐見りん『推し、燃ゆ』。アイドルとファンの関係、女子高生の生理と心理、家族との関係等が、緻密な観察力と巧みな構成と文章力で描出されていて小説として申し分ないできばえだ。ただ、新たに推しを見出す以外に解決があるのだろうか?救いが見えにくい…

中村不二夫『現代詩NOWⅠ』

中村不二夫『現代詩NOWⅠ』。多くの優れた詩集を刊行する傍ら驚くべき質量の詩論集を刊行している。本書は、東日本大震災や関東大震災と詩人の関係についての論考を初め、辻井喬他の詩人論、詩集評、詩誌評、講演等により、極めて広い視野から緻密な資料チェ…

『富沢智詩集』(砂子屋書房版 現代詩人文庫)

『富沢智詩集』(砂子屋書房版 現代詩人文庫)。膨大な詩篇と詩論・エッセイの執筆そして現代詩資料館『榛名まほろば』の運営、各種のイベントの開催など、類稀な行動力と大きな功績に接するとその情熱に頭が下がる。本詩集に収録された詩篇の中では、「黄泉…

早矢仕典子詩集『百年の鯨の下で』

早矢仕典子詩集『百年の鯨の下で』。一見静かな筆致の中に浮かんでくるのは、研ぎ澄まされた感覚で捉えられた日常に潜む暗黒だ。漆黒の闇でこそ見えてくる光によって人は生かされるのだろう。たとえ時間が大切なものを奪っていくにしても、わたしたちは晴れ…

長嶺幸子詩集『Aサインバー』

長嶺幸子詩集『Aサインバー』。12歳で父を亡くし、6人兄弟の長女として母を助ける。母は昼は畑仕事、夜はAサインバーに行って米兵相手に物を売る。沖縄での暮らしの様子が沖縄語を交えて懐かしく少し物悲しく語られる。戦争を経験しながらも助け合って健…

八重洋一郎詩集『銀河洪水』

八重洋一郎詩集『銀河洪水』。宇宙的なスケールで人類の歴史を辿ると共に、南の島の情景や暮らしや哀感を描く時も絶えず浮かんでくる銀河のイメージや地上の壮大な生命の営みがダイナミックに溢れ出す。他方、「福への挨拶ー古老説伝」における「袖果報(ス…

シェークスピア ソネット 119

ソネット 119 W. シェークスピア 内部が地獄のように汚れたフラスコによって蒸留された サイレンの涙をわたしはどれほど飲んだのだろうか? 恐れを望みに 望みを恐れに塗布して 自分では手に入れたと思ってもいつも失い続けたのだった、 なんという拙い過ち…

シェークスピア ソネット 118

ソネット 118 W. シェークスピア わたしたちの食欲をさらに旺盛にするために わたしたちがわたしたちの味覚を強い薬で刺激するように 将来罹るかもしれない病気を予防するために わたしたちが今病気になることで将来吐き気を催さないようにするように、 わた…

田中眞由美詩集『しろい風の中で』

田中眞由美詩集『しろい風の中で』。なんという寂しげな心境だろう。<そこ>も<そのひと>もあいまいで、しろい風がくりかえされるしろい日をさらっていく。< そのひと>の語った言葉やしぐさが時や場所を超えて蘇るとき、だれにも<その時>が来ることを思わ…

シェークスピア ソネット 117

ソネット 117 W. シェークスピア こんなふうにわたしを責めてもいいですよ、すべてを蔑ろにしたと あなたの素晴らしい恩恵に報いるべきであったのに 日々絆によってわたしが結びつけられるべき あなたのこの上なく貴い愛を求めることを忘れてしまったと、 わ…