南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『孤影となりて』(575)

 

『孤影となりて』(575系短詩 2020.11~12)

 

 

 

かじかむ手 焚火を囲む 夢の中

 

氷雨降る 帰路はとぼとぼ 長い道

 

寝て覚めて 冷えたからだを 摩擦する

 

なにゆえに 憎しみはある 氷点下

 

冬の日の 孤影となりて 沈みゆく

 

凍る無へ 手をさし込める 涙影

 

身は凍え 心は折れて 隠れ住む

 

前を向き 後ろを向けば 冬踊る

 

国債に 年越し託す コロナ危機

 

風寒し 砲弾に似て 子は走る

 

冷や水に 喝を入れたし 滝の壷

 

雑用を 済ましてみても うそ寒い

 

見えぬまま 変わり続ける 寒気団

 

押し合って へし合ってほら 冬が来た

 

寒くって 暗くて狭い 冬眠へ

 

寒中の 散歩の後は 茶一服

 

明け方の 月冴え冴えと 凍る空

 

思いつく 吐く息白く 忘れ去る

 

ぬくぬくと 冬と思えぬ ひなたぼこ

 

厄多き 年を返して 福となす

 

はさぶさ2 歓喜の帰還 年の暮れ

 

皮膚よりも 薄い尊厳 凍り付く

 

マニュアルの ツボを外して 冬の空

 

寒冷期 温い孤独の 影となる

 

底冷えて 探さぬ神の ぼんのくぼ

 

襟立てて コートで隠す ぼんのくぼ

 

はやぶさ2 歳暮はるかに 持ち帰る

 

夢遥か 冬の砂漠の 上を飛ぶ

 

寒けれど つぶやく言葉 人に向け 

 

薄くとも 人の背に掛く 防寒着 

 

まずくとも ともに食する 鍋が好き

 

鼻歌に 心ゆるませ 厳冬期

 

暖房と 土産の茶まん 茶一服

 

はやぶさの 帰還は砂漠 冬の裏

 

べりりんと 屋根を引ん剝く 寒気団

 

背筋より 剥がす膏薬 かじかむ手

 

嫌われて ここは吹雪の 吹き溜まり

 

師走へと つむじ曲がりの 風が飛ぶ

 

振り向けば もう冬の日は 沈んでる

 

意地悪な 木枯らしとなり 吹き荒れる

 

苛立ちも 寒さをしのぐ 浅い知恵

 

悪霊を 背負って走るや 年の暮れ

 

待ちぼうけ 忘れはしない 冬の駅

 

ワクチンを 祈りの先に 灯す冬

 

物忘れ 凍てつく過去へ 置いてくる

 

氷雨降る 夜陰にまぎるる 人の影

 

流れ星 われを導く 冬の空

 

To do list 書き上げて見る 外は冬

 

なにほどの 害も加えず 早師走

 

コロナ禍は 嫌いな言葉 冬ごもり

 

かじかむ手 詰まらないから つままない

 

風怒る 雨泣き忍ぶ 日は詰まる

 

てやんでえ コロナの年も 押し詰まり

 

変間を 時間と分けて 師走来る

 

結局は わが世の冬に 紛れ込む

 

さはされど 強がってみる 寒げいこ

 

だれだって とっつきにくい ぬれ落ち葉

 

付き合いが 苦手と言う間に 年の暮れ

 

ほほえみが へたなまんまで 冬支度

 

わが著書を 読まずに秋に 去りし友

 

邑久生まれ ブドウの友も 今は亡し

 

あの丘で みかん狩りした 大三島

 

生食も 煮ても美味なり リンゴ園

 

からからと 回る風車よ 紅葉丘

 

秋の日の 翳ろうマント 肩にかけ

 

目が回る でんぐり返しの 枯葉舞う

 

見えぬ影 追われて走る 秋の暮れ

 

じんじんと 痛む歯茎よ 風寒し

 

じわじわと 細る首筋 マフラーす

 

じろじろと 見つめはしない しもやけも