南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

「笑う種」4

 

   「笑う種」4

 

             南原充士

 

長い舌を出して

―龍君どっちのベロが長いか比べてみよう

 

そんな挑発には乗らずに

―蜥蜴君 どこまで登れるか比べてみよう

 

ねじ曲がった老木を二匹は登って行った

 

天辺まで来たとき

―龍君 今度はどちらが先に下まで降りられるか

 

そんな誘いには乗らずに

―蜥蜴君 空高く昇ってみよう

 

龍は雲の彼方に消えていった

 

蜥蜴はしょんぼりと降りてきて

ちょろちょろと舌を出したり引っ込めたりした

 

当代随一の絵描きが

―蜥蜴よ お前を立派に描いてやろう

 

蜥蜴は龍になった気持ちになって

木の天辺からジャンプした

 

頭の中では龍になった自分がいた

 

木の下を通りがかった絵描きは

舌を噛み切った蜥蜴を見やった後

 

木の幹に一枚の絵を立てかけた

風神雷神が金箔の空を飛んでいた