南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

#詩

良くも悪くも

良くも悪くも良くも悪くも 自分は自分。愚かでも 弱くても 貧しくても それ以上でもそれ以下でもない。ぼんやり考え込んでいるうちにすっかり日は暮れて鏡に映るのは白髪しわだらけの老人だ。「時間を大切に!」と若者によびかけ自分は自分の日々を生きるた…

自分

自分 見えないのか 見ようとしないのか 最も近くて遠いもの 鏡は嘘つきで 写真は意地悪 ビデオは要注意 似顔絵は裏切者 自分を失いたくなければ 五割増しぐらいでいい 他人は五割引きなんだから

詩「関東大震災」

詩「関東大震災」

旧街道

詩集『エスの海』(昭和58年刊)より抜粋 第三詩集『エスの海』も私家版につき、ほとんどご覧になった方はいないと思います。 わずか10篇を収めた詩集ですが当時としては新しい書き方にも挑戦しています。 ======================…

孤愁

Loneliness comes to me suddenly, I hesitate to go to bed soon, How do I do with the solitude? No one can help me get out of myself. All I can do is to wait until I become sleepy. 孤愁 突然寂しさに襲われる すぐにベッドに行くことがためらわれ…

詩「歌」

詩集『レジリエンス』からー冒頭詩篇ー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 歌 粗密な天体の網状のからまり 鋏で切れるものは何ですか ミルフィーユを食べると夢見がいいです 乾いた涙を福笑いに貼り付けます 迷子になった子供は夜中に地図のお化け…

詩集『遡及2022』刊行のお知らせ

年末ぎりぎりになって新詩集『遡及2022』をKindle 版で出版しました。今年一年間に書いた短い詩62編を収めました。日々の思いを率直に書いた詩篇なので読みやすいと思います。通常300円でダウンロードできますが、正月3が日は無料キャンペーンを実…

新たな朝

新たな朝 今年もあと二日と思えば胸が騒ぐ。 やがてざわつきが収まり 諦めに似た気持ちになると 急に一年間に起きたことがハイライトとなって瞼を去来する。 それらが懐かしい思い出となってゆらめきながら消えていくと 代わって真っ青な空が限りなくひろが…

詩集つれづれ(2022.12)

『詩集つれづれ=問わず語り 』 2022年12月21日 1.南原充士詩集=わが既刊詩集15冊を振り返って これまでの詩集についてどんな思いで刊行したのか振り返ってみたい。 詩集『レジリエンス』は、詩集『思い出せない日の翌日』から7年ぶりに刊行し…

美容師

美容師 ある映画の原作を読んだら夢中になってしまった どんなに調べたり取材をしても限界があるから その先は想像力が勝負なんだろうね 美容師は話術に長けていて 見た目だけでなく内面を飾るのも巧みなので 世間話で盛り上がらせ かっこよくなったと満足さ…

詩集つれづれ=問わず語り2022.1.22

『詩集つれづれ=問わず語り 』 2022年1月22日 1.南原充士詩集=わが既刊詩集14冊を振り返って これまでの詩集についてどんな思いで刊行したのか振り返ってみたい。 詩集『滅相』は、詩集『時間論』に続いてKindle版で出版した2冊目の詩集…

詩集『滅相』目次

詩集『滅相』 目次 Ⅰ 生 相 滅相 伴奏 七夕 で、 ゲーム 小銭入れ 百歳 愛想の悪い隣人 さがしもの つぶやき 日々是好日 流域 かいりくくう 言葉を取り逃した日 振り子 シャーラップ シャドープレイ ろれつのお稽古 因果関係 三角関係 どっしっし まちがいさ…

詩集『滅相』出版のご案内

このたびKindle 版で詩集『滅相』を出版しましたので お知らせいたします。前詩集『時間論』に比べると言葉遊びやユーモア詩を 中心にしているのでとっつきやすいと思いますので、是非お気軽にご覧くだされば 幸いです。 ダウンロードは下記からお願いいたし…

2022年 年頭雑感

2022年 年頭雑感 南原充士 箱根駅伝 往路 まぶしい光にも濃い影がある 山を登る足取りは確かだ 気が付けば順位が入れ替わっている 筋肉の動きを見ると心が躍る この一瞬一瞬が冷気を切り裂く あらゆる角度から見守る視線 様々な叫びがはるか遠くへ響く …

時間論Ⅸ

時間論 Ⅸ 南原充士 むかしよく行った海辺の灯台にひさしぶりに行こうと思った 最寄のバス停から三十分ほど歩くと灯台へ通ずる細道の入り口まで着き そこからちょっと崖を上ったところに灯台はある 幸い空は真っ青に晴れて白い雲さえ浮かんでいたので なんと…

詩集『時間論』目次、あとがき等

詩集『時間論』 南原充士 目 次 時間論 0 時間論 Ⅰ 時間論 Ⅱ 時間論 Ⅲ 時間論 Ⅳ 時間論 Ⅴ 時間論 Ⅵ 時間論 Ⅶ 時間論 Ⅷ 時間論 Ⅸ 時間論 Ⅹ 時間論 ⅩⅠ 時間論 ⅩⅡ 時間論 ⅩⅢ 時間論 ⅩⅣ 時間論 ⅩⅤ 時間論 ⅩⅥ 時間論 ⅩⅦ 時間論 ⅩⅧ 時間論 ⅩⅨ 時間論 ⅩⅩ 時間論 ⅩⅩ…

詩「いいひと」

いいひと 南原充士 いいひとでいたいと おもうひとのどこかに いいひとになれないひとがいる みぬかれているのに どうしようもなく ざんこくなつめをたてるとかげ またみちばたで ふみまちがえたアクセルが こうふくなかぞくをころす しっとぶかいいでんしが…

詩「嘆きの壁」

嘆きの壁 南原充士 はるばるやってきた巨大な壁 名もない壁だけれども 知る人ぞ知る壁 ここではだれも言葉を交わさない 黙って佇んで 祈りを捧げるだけだ 地図にも載っていないが 口づてに伝わり 人けが絶えることはない 心にはめいめいが 収まりきれない悲…

新詩集『時間論』の出版について(お知らせ)

【お知らせ】 本日、わが13冊目の詩集『時間論』をKindle版で出版いたしましたのでお知らせいたします。詩集でははじめての電子書籍ですので是非ダウンロードのうえお読み下さいますようお願いいたします。 「時間」は身近なようですが意外と正体が不明で…

翼 子供たちが遊んでいるのを見る。 見守る大人を見る。 見知らぬ人々を見る。 木を見る。 空を見る。 夢を見る。 再び元のところを見るとだれもいない。 ほとんどは外からやってくる。 ちょっぴりの自分が 多くの素材によって 大きな翼を与えられる。 ゆっ…

詩「洗濯物」の英訳「Washing」

洗濯物 南原充士 強風が洗濯物を飛ばした 肌着はダリの絵のシャツように ストッキングは下半身だけのマネキンのように ハンカチは竿から外れた白旗のように めいめいの形に伸びたり縮んだりしながら あちこちへと飛んでいった あわてて近所をさがしてみたが …

洗濯物

洗濯物 強風が洗濯物を飛ばした 肌着はダリの絵のシャツように ストッキングは下半身だけのマネキンのように ハンカチは竿から外れた白旗のように めいめいの形に伸びたり縮んだりしながら あちこちへと飛んでいった あわてて近所をさがしてみたが どこへ行…

「不満」

不 満 南原充士 不満を感じ始めると増大する。 不満を言い始めるととめどなくなる。 不満は回りまわって自分に返ってくる。 不満は内部へ侵入して危害を加える。 不満はすっかり自分を乗っ取り 気が付けば 不満が自分を語らって 大威張りで往来を歩いている。

「笑う種」5

「笑う種」5 南原充士 お笑い塾では今日も 塾生たちが絞られていた ――笑いの壷を探してこい ――笑いの骨を拾ってこい 優等生は卒業して 次々と高座に上がった 落ちこぼれはやむなく お笑いの道を断念した 客席に入り浸って 笑い続ける者がいた 巧みな笑いが…

「笑う種」4

「笑う種」4 南原充士 長い舌を出して ―龍君どっちのベロが長いか比べてみよう そんな挑発には乗らずに ―蜥蜴君 どこまで登れるか比べてみよう ねじ曲がった老木を二匹は登って行った 天辺まで来たとき ―龍君 今度はどちらが先に下まで降りられるか そんな…

「笑う種」3

「笑う種」3 南原充士 笑う種の分析をした研究所は 笑いの成分を抽出して 抗うつ薬の製造にこぎつけた 笑いは免疫機能を活性化するという 研究結果は知られていたが 笑いを引き起こす薬は開発されたことがなかった 飲んだら気持ちが晴れ晴れとしたという 評…

「笑う種」2

「笑う種」2 南原充士 笑う種をまいたら 芽が出て茎が延びて 大きな木に成長した 人が近寄ると 葉がざわざわとして 人は思わず笑いだすのだった 秋になると丸い実が付いた 食べると口が真っ赤になり 笑っているように見えた 熟した実からは大きな種がとれた…

「笑う種」1

「笑う種」1 南原充士 このところ笑っていない 顔の筋肉がこわばってしまった 笑いの感情さえ忘れてしまった チンパンジーが腋の下をくすぐってきた 足の裏や首筋もこちょこちょしてきた もう我慢できない 思わず笑ってしまった チンパンジーにバナナをやっ…

「詩人の聲」

平成28年4月28日(木) 自由が丘のカシュカシュダールで「詩人の聲」のプロジェクトの一環として、詩集『永遠の散歩者 A Permanent Stroller 』の朗読を行った。 その経験から気づいたことを記しておきたい。 「1.日本人が英語で詩を書くということは…