南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

旧街道

 

詩集『エスの海』(昭和58年刊)より抜粋
 第三詩集『エスの海』も私家版につき、ほとんどご覧になった方はいないと思います。
 わずか10篇を収めた詩集ですが当時としては新しい書き方にも挑戦しています。
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旧街道
 
特異な体質を利用して闇に紛れ去ろうとするもの
暗さは冷たさを育て烈風の往来から還り来る
着換えはめまぐるしい
肌は幾たびも洗われ
剥きだされるのは熟れ切った虚のからだ
つかみかかる手は群雲から突き出され
盲滅法夜の裸体をまさぐる
過ぎ去る時は花の中の白骨
握ろうとすれば粉塵
恋人よ わたしは見ている
広大な原野を疾駆する馬を
限りない強さで打ち込まれた楔
巨木を一気に電撃する眼で
恋人よ わたしは断ち切る
痛い土につまずき なお進み行くのが
だれでもないただわたしのからだであると
雨は降り注げ
傷つきさすらうわたしの頭上に
とどまることも知らずに ぬかるみを
旅ではない ただ行き過ぎる日々となって
わたしはかぎろい 空を逃れて急ぐ道行き
この痛みに溢れる血は常に洗われ
花を咲かす間もなく 根絶やしにされ
ゴムびきの合羽のごときものを纏って
一切の淫らな体液の記憶を踏みにじる
旧街道