南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

芸術評論

『カラヴァッジョ展を見て』

『カラヴァッジョ展を見て』 平成28年5月27日 国立西洋美術館において 1.カラヴァッジョの人物 1571年生まれ1610年没。 ミラノで絵の修業をしたあと1592年から1606年ローマで過ごす。 画家としては高い評価を得たが、刀剣の不法所持…

『若冲展』を見る

『生誕300年記念 若冲展』(2016.4.22~5.24 東京都美術館) 1. 伊藤若冲は、1716年京都の青物問屋「桝屋」の長男として生まれた。23歳の時父が亡くなったので家督を継いだが、画業への思いが高じて40歳の時に次弟に家督を譲り、…

「詩人の聲」

平成28年4月28日(木) 自由が丘のカシュカシュダールで「詩人の聲」のプロジェクトの一環として、詩集『永遠の散歩者 A Permanent Stroller 』の朗読を行った。 その経験から気づいたことを記しておきたい。 「1.日本人が英語で詩を書くということは…

「英詩の勉強会」

『英詩の勉強会』に参加して 平成26年11月8日自由が丘で開催された、『英詩の勉強会』に参加した。講師はヤリタミサコさんと南川優子さん。おふたりともよく勉強されていてきわめて刺激的で内容の濃いレクチャーだった。 ヤリタさんは、メキシコ系アメ…

「菱田春草展」を見て

「菱田春草展を見て」 平成26年10月3日、東京国立近代美術館で開催中の菱田春草展を見た。 その感想をすこし記しておきたい。 1. さまざまな描き方の試み 菱田春草は、それまでの日本画の伝統的な技法を問い直して新たな技法を追求しつづけた。 たと…

逆翻訳

『逆翻訳』 外国語を日本語に翻訳するという例はよく見られる。 日本の古典文学を現代語訳するという例もある。たとえば、源氏物語の現代語訳など。 同時代人の文章だって、実際には自分の言葉で置き換えているはずだから、それも一種の翻訳と言って良いだろ…

最近の詩集評

最近の詩集評(2) 倉田良成詩集「横浜エスキス」。エッセイの趣のある詩篇。赤煉瓦倉庫、チャイナタウン、港、博物館、美術館、ジャズ祭など横浜の各所をノスタルジックに描きつつ、著者の自伝的な回想や街やひとびとの喧騒をリアルに交え、さらに幻想に満…

「現代詩手帖現代詩年鑑アンソロジー145篇」から10篇

「現代詩年鑑アンソロジー145篇」を読んだ。いずれ劣らぬ力作ぞろいだが、特に心を惹かれたのは、原満三寿、伊達風人、川上亜紀、城戸朱理、日和聡子、望月遊馬、桑原茂夫、四元康祐、浜江順子、柴田千晶の各氏の作品です。物語性の強い作品に惹かれるのかも…

最近の詩集評

『最近の詩集評』 岡野絵里子詩集「陽の仕事」。人はどこから来てどこへ行くのだろう。秋、冬、春、夏、秋、と並べられた詩篇。人は痛みや悲しみをかかえながらも光を見出すことで歩み続ける。生と死への暗示が正確で穏やかで聖なる言葉を探り当てる。光は陽…

村上春樹「1Q84」BOOK 3

村上春樹「1Q84」BOOK3について 村上春樹「1Q84」BOOK3は、期待通りのできばえだった。 詳しいことはまた別な機会に譲りたいと思うが、とりあえず気の付いたことを挙げておきたい。 1.ハリウッド映画を見るようなビジュアルな描写、ストーリーの展開…

『 詩の批評の批評について 』

『 詩の批評の批評について 』 1.詩は小説ほど売れるものは少なく詩人もまた職業詩人と言えるものは少 ない。それでも詩は書かれ続けており、少ないながらも詩作に心血を注いでいるものもいる。 2.詩をめぐる状況の中で、気になることのひとつに、批評の…

『 自己を消すということ 』

『 自己を消すということ 』 =芸術表現の鍵としての= 1.芸術表現においてきわめて重要な視点のひとつに、「自己を消す」という ことがある。その理由は解明しきれていないが、これまで生み出されてきた傑作といわれる作品においては共通して「自己が消え…

『 芸術の論理 』

『 芸術の論理 』について 1.芸術の価値をどのように評価するかは難しい問題だ。 芸術は客観的な評価基準が確立されにくい。どうしても主観的な評価がなされやすい。それは往々にして好き嫌いという好ましくない評価基準に行き着く。 それではどうしたら、…

『 長谷川等伯展 を見て 』

『 没後400年特別展 長谷川等伯展を見て 』 昨日(平成22年3月14日)、東京国立博物館で開催されている「長谷川等伯展」を見た。 1.長谷川等伯は、天文8年(1539)、能登半島の七尾で生まれ、仏画を描いてその絵師としての評判を確立した。3…

『詩の批評の方法について』

『 詩の批評はどのように行われるか? 』=わたしの方法論 「詩の批評」は、実際にはどのように行われているのだろうか? いろいろな批評の仕方があると思うが、ここでは、わたしなりのアプローチの仕方を述べて議論の材料に供することとしたい。 わたしは、…

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』(その3)

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』(その3) 7.谷川俊太郎詩集「トロムソコラージュ」に即して これまで抽象論を展開してきたので、このへんで、具体的な作品をとりあげて論じてみたい。 やはり、詩は作品がすべてを語ると思うからだ。…

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』(その2)

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』(その2) 4.社会の変化と言葉の変化 言葉の本質が概念化にあるということを仮定すると、言語表現とは、点や線や断片を用いてデッサンを描くような作業だととらえることができる。 そこには余白をイメ…

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』

『文学における言葉の役割の再検証=詩を中心として』(その1) 1.言葉の限界 脳科学の発達で脳の機能についての研究が目覚しい進歩をとげている。 個人の心理や行動だけでなく、集団としての心理や行動についても、社会心理学や神経経済学といったジャン…

村上春樹「1Q84」を読む!

「村上春樹『1Q84』を読んで」 1.小説「1Q84」は、Book1と Book2の二巻からなり、それぞれ24章からなっている。主人公の、女性=青豆と男性=天吾が交互に登場するという構成がとられている。 なお、「1Q84」というタイトルは、有…

文学において『現代的』とはどういうことか?

「文学において『現代的』とはどういうことか?」 1.文学における現代性について、考えてみたい。 ここでいう「現代的」とは、感覚の現代性及び言語表現としての現代性という意味あいで用いている。時代の最先端である現在を基準座標として明確に意識する…

山本貴志ピアノリサイタル

昨日(平成21年10月8日)浜離宮朝日ホールで開かれた、山本貴志ピアノリサイタルは、若さとパワーと誠実さがミックスしたさわやかな演奏だった。 曲目は、ベートーヴェン後期の、30番、31番、32番のピアノソナタ。 難曲をそろえたピアニストの意…

「源氏物語の女たち」

『 源氏物語の女たち 』 源氏物語に登場する女性は数多く、個性的な女性が多い。ここでは主要な女性たちについて簡単な感想を書いてみたい。 1.光源氏をめぐる女性たち ① 紫の上 紫の上は、総合的に見て登場する女性たちのうちのベスト。美貌と教養。穏や…

「現代的」であるとはどういうことか?

「 芸術において『現代的』であるとはどういうことか? 」 1. イタリアのルネサンスは人間の解放を目指した表現スタイルを追求する運動であったと思うが、そ の芸術的な流れは数百年にわたり続いてきたと思う。 一言で言えば、人間らしい感動を超絶技巧に…

『 源氏物語 』 を読んで

『 源氏物語 』 を読んで 源氏物語を原文で読んだ。原文と言っても、草書体で書かれたものではなく、注釈付きの活字体であるので、厳密には原文ではないが、現代語訳でもない。 たった千年前の日本語の文章がここまで理解できないということに驚いたが、注釈…

『 声の幻 』=VOICE SPACE (芸大・現代詩研究会) 公演を聴いて

『 声の幻 』 (VOICE SPACE(東京藝術大学現代詩研究会)第一回公演) を聴いて 1.昨日(平成21年6月26日)、新宿文化センターにおいて、VOICE SPACEの公演「声 の 幻」を聴いた。(以下、敬称略) VOICE SPACEは、東京芸術大学…

『 マウリツォ・ポリーニ ピアノ・リサイタル(H21.5.15 サントリー・ホール) 』

『 マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル 』を聴いて 平成21年5月15日 サントリーホール リサイタルからはちょっと時間が経ったが、わが備忘録として残しておきたいと思う。 1.マウリツィオ・ポリーニは、まさに巨匠である。本年、4月26日に、同…

『 エフゲニー・キーシン ピアノリサイタル 』(H21.4.26サントリーホール)

『 エフゲニー・キーシン ピアノリサイタル 』 (H21.4.26 サントリーホール) 1.昨夜、サントリーホールは異様なほどの熱狂につつまれた。 約2時間リサイタルが終わっても、ほとんどの聴衆は席を立たない。万雷の拍手と怒号のようなブラボーの声…

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ 連続演奏会 第4回 』

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ 連続演奏会 第4回 』 (平成21年3月28日(土) 紀尾井ホール) 昨日、紀尾井ホールで、第四回が開催された。 四回にわたる演奏会の最終回。 今回も、フォルテ・ピアノとモダン・ピアノで弾き分けられた。 曲目は、…

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会 第3回 』

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会 第3回 』 H21年3月7日 於 紀尾井ホール 曲目 ピアノ・ソナタ 第15番 ヘ長調 KV533 ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 KV332 ピアノ・ソナタ 第7番 ハ長調 KV309 幻想曲 ハ短調 KV475 ピアノ・ソナ…

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会 』

『 菊池洋子 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会 』 平成21年1月24日、2月21日、3月7日、3月28日と4回にわたり、紀尾井ホールで、菊池洋子のモーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会が開催されている。 すでに2回開催されたが、とても味わ…