昨日(平成21年10月8日)浜離宮朝日ホールで開かれた、山本貴志ピアノリサイタルは、若さとパワーと誠実さがミックスしたさわやかな演奏だった。
曲目は、ベートーヴェン後期の、30番、31番、32番のピアノソナタ。
難曲をそろえたピアニストの意気込みがうかがわれるものだった。
山本貴志は、1983年長野県生まれの20代半ばの元気一杯のピアニストだ。
ワルシャワ・ショパン・アカデミーに学び、2005年にはショパン国際ピアノコンクールで4位入賞を果たしている。まさに、新進気鋭のピアニストだ。
ステージでの態度がきわめて礼儀正しいのも好感がもてた。
ピアノを弾き始める前に、独特の「儀式」を行うのが目に付いた。
いすに座り、一呼吸おく。スーツのボタン付近をさわる。髪にさわる。ハンカチで手を拭く。鍵盤を拭く。ハンカチをピアノの上におく。鍵盤に顔をちかづけながら、手をそっと構える。
そんな感じだ。大リーグのイチローも、バットをピッチャーのほうに伸ばし、左手の指でユニフォームの右肩にふれる、というような癖があるが、スタイルというものは集中力を高めるのに効果があるのだろう。
さて、演奏だが、30番は、比較的おとなしく弾いたと思う。その日の調子をさぐるように。
31番は、徐々に調子に乗ってきた。
32番は、2楽章しかないが、最初から最後まで気の抜けない難しい曲だ。これはかなり気合が入って、緊張感を保ちながら弾ききったという感じだった。
わたしは、この3曲を、ポリーニなどのCDで、あるいは生演奏で、なんども聴いたことがあり、32曲のベートーヴェンのソナタの中でも特に気にいっている曲だが、山本貴志はわたしの期待に十分こたえてくれたと思う。
やや残念だったのは、アンコールで弾いたショパンのノクターン第2番が平凡なできだったことだ。アンコールということでリラックスして弾いたためか、あるいは、ベートーヴェンのソナタのあとでは弾きにくかったのか、その辺の事情は知る由も無いが、聴衆としてはアンコールにも期待していることを忘れないでほしいと思った。
いずれにしても、日本人ピアニストで世界的に活躍しているものは少ないと思うので、山本貴志の今後のますますの活躍を期待したいと思う。