「源氏物語の女たち」
『 源氏物語の女たち 』
源氏物語に登場する女性は数多く、個性的な女性が多い。ここでは主要な女性たちについて簡単な感想を書いてみたい。
1.光源氏をめぐる女性たち
① 紫の上
紫の上は、総合的に見て登場する女性たちのうちのベスト。美貌と教養。穏やかな性格。上品さ。人望。思いやりもある。
② 葵の上
つんとしてて近寄りがたい葵の上。六条の御息所のたたりで病死する。
③ 玉鬘
したたかなのは、玉鬘。さんざん面倒を見てもらっても、なんだかんだ言って、身を任せない。美貌という点では、ベストか。
④ 花散里
おっとりしているのは、花散里。癒し系。
⑤ 夕顔
かわいそうなのは、夕顔。せっかく光と結ばれたのに、物の怪のせいか、急死する。かわいい女性といった感じ。
⑥ 末摘花
不美人ながら、幸運にも光に面倒を見てもらうのは、末摘花。
⑦ 桐壺の更衣
光源氏の母、桐壺の更衣は桐壺帝の寵愛を受けたが故に嫉妬にかられた他の女房たちから陰湿ないじめにあって病気になり死んでしまう。あわれなイメージ。
⑧ 藤壺中宮
藤壺は、桐壺の更衣に面影が似ているいうことで、光が恋い慕い、ついに結ばれてしまうが、帝のことを考えると、罪の意識にさいなまれる。美しいかもしれないが、慎重すぎるところがいかがなものか?
⑨ 明石の君
明石の君は、しっかりしてはいるが、いつも自分があまり身分の高い家の出ではないことを気にかけ続ける。控えめと言えば控えめだが、ふっきれない感じが残る。
⑩ 女三宮
女三宮は、悲劇のヒロインといったイメージ。朱雀院の娘で、源氏に嫁したが若き貴公子、柏木に見初められ、ついに貞操を奪われる。びくびくしているだけの逢瀬は、ロマンティックでもエロティックでもない。しかし、薫をみごもってしまうというのも皮肉だ。
おまけに、紫の上は、女三宮が嫁してきたことで、思い悩み体調をくずしてしまう。源氏もなさけないと思うがどうしようもない。
⑪ 源の典侍
変り種は、源の典侍(げんのないしのすけ)。57,8歳の女官だが、色好みで、光を誘惑する。当時の女性は30代になると{床離れ}するのが一般的だったらしいので、顰蹙を買うことになる。
⑫ 六条の御息所
六条の御息所は、積極的な女性。光の年上の愛人。賀茂祭見物の際、葵の上と車を止める場所を争ったのは有名なエピソード。位の高い葵の上が勝ったが、のちに葵の上は出産のときに御息所の生霊にとりつかれて亡くなる。
⑬ 朧月夜
朧月夜は、光と恋仲になるが、あいにく政敵の右大臣の娘。それが発覚して、光は、結局は須磨流しとなる。いい女だが、親の立場が問題だった。
⑭ 朝顔
朝顔は、式部卿の娘。恋に消極的で、光が何度恋文を送ってもこたえない。いたしかたなし!
⑮ 秋好中宮
斎宮の女御(のち秋好中宮)は、六条の御息所の娘。光の求愛を受け入れない。御息所は、死に際して、光に「愛人ではなく娘として庇護してほしい」と要望。光は、養女とする。光源氏の口説きに落ちなかった女性の内のひとり。
⑯ 空蝉
空蝉は、受領の妻。光源氏が方違えで訪れた家で、空蝉を見かけて強引に物にする。しかし、人妻であることを意識して次は許さない。内心では、光に恋しながらも。のちに、空蝉は、夫の常陸の介が任地から戻るときに、石山寺に向う光一行と逢坂山で偶然出会うという場面が出てくる(16帖「関屋」)。懐旧の情にひたるが遂に再会することはなく、泣かせる。
⑰ 軒端の荻
軒端の荻は、空蝉の継娘。空蝉のもとへ三度目に忍び込んだときに、人違いで、光は軒端の荻を抱いてしまう。期待したが、その後光からのフォローはなかった。ちょっとかわいそうな役回り。
2.夕霧をめぐる女たち
男の登場人物としては、光源氏、頭の中将、夕霧、柏木、薫、匂宮などが主なものだが、光の息子である夕霧にもそれなりに恋する対象となる女性がいる。
① 雲居の雁
頭の中将の娘、雲居の雁は、夕霧との長年の恋が実って晴れて一緒になり、子供ももうけて、良妻賢母ぶりを発揮していた。ところが、夕霧が、柏木の未亡人、落葉の宮と親密になったのを知って激怒し実家に帰ってしまう。女性の嫉妬深さは当時も相当なものだったようだ。
② 落葉宮
夕霧は親友だった柏木の未亡人、落葉宮を気に入り、結ばれる。落葉宮は、自分が衰えていはしないかと気にする。女性の美へのこだわりが見て取れる。
③ 藤典侍
夕霧は、光源氏の従者惟光の娘、藤典侍と仲良くなる。
3.薫をめぐる女たち
薫は、柏木と女三宮との間の不義の子、表向きは、光源氏の子供となっている。恋愛には消極的で、仏の道に入ることばかり考えている、内省的な性格の持ち主なのだが・・・。
① 大君(八宮の娘)
かたくななのは八宮の娘、大君。薫の愛を最後まで受け入れない。若いまま亡くなる。歯がゆい。
② 浮舟
美貌ゆえ二人の男に愛されて苦しむのは、浮舟。薫と匂宮のはざまで失踪。あやうく一命を取り留めるが、男はこりごり。会おうともしない。
③ 女二宮
今上帝の皇女、女二宮は正妻ではあるが、あまりくわしい描写はなされていない。
4.匂宮をめぐる女たち
匂宮は、今上帝と明石中宮の間の皇子。女性に積極的なプレーボーイタイプ。
① 中の君(八宮の娘)
宇治に住んでいる、大君、中の君を 薫と争う。中の君を妻に迎える。大君も中の君も美貌で上品な女性。薫も、大君の死後、中の君に未練を感じて接触を図るがうまくいかない。
② 六の君
夕霧の希望で、その娘、六の君を妻に迎える。中の君は、有力者夕霧の娘には勝ち目がないと思うと気が気がじゃない。
③ 浮舟
薫と、大君、中の君の異母妹、浮舟を争う。
浮舟は、三角関係に疲れて失踪する。美貌と教養をそなえ、恋多きタイプで、源氏物語の中では、かなり魅力的なほうに数えられると思う。運命に翻弄される悲劇のヒロインの代表。
5.その他の女性たち
源氏物語にはきわめて多くの女性が登場するが、主役、準主役、脇役、チョイ役といった役回りの違いがあると思う。これまでは、主役級の女性を取り上げてきたが、以下は、準主役級の女性をとりあげてみたい。
① 髭黒の北の方
玉鬘を強引に妻にした髭黒は、恐妻家。その北の方は、あるとき玉鬘のもとへ出かけようとする髭黒に薫物の香炉の灰を浴びせかけてしまう。思わず現れた嫉妬心は強烈だ。
② 大君(玉鬘の娘)
玉鬘と髭黒の娘、大君は男たちにもてもて。冷泉院の妃になり一男一女をもうけるが、正妻の弘徽殿の女御の不興を買って実家に帰ってくる。女の嫉妬心の強さを示す例のひとつ。
③ 明石中宮
明石中宮は、光源氏と明石の君の間の娘で、紫の上の養女、かわいがられて育てられ、今上帝の中宮となり、匂宮の母となるといった輝かしい経歴の持ち主だが、恋物語の主人公ではないため、プレイボーイの息子匂宮のことを心配する場面以外はあまり目立たない。
④ その他
このほか、そのひととなりについてあまりくわしい言及がなされない女性たちとしては、玉鬘の娘、中の君、髭黒の娘、真木柱、紅梅(柏木の弟)の娘、大君などがいる。
以上のほか、主人公の男たちと、身分のそれほど高くない女官(小宰相、侍従など)たちとの恋愛関係もいろいろあったことがほのめかされているが、物語を進める上で重要でないとの判断からか、詳しいことは省かれている。
6.最後に
源氏物語にはきわめて多くの女性が登場するが、それぞれについての女性像が活き活きと描き分けられているのも、源氏物語の魅力のひとつだと思う。
たわむれに、縦軸に「愛情度」、横軸に「美貌度」をとって、女性たちをプロットしてみると、おもしろい分布図ができあがった。右上には、当然、紫の上が来る。平安時代の高貴な女性たちの群像だ。
源氏物語はいろいろな角度から読むことができると思うが、ここでは、「源氏物語の女たち」ということで、女性の登場人物についてさらっと触れてみた次第である。