『 マウリツォ・ポリーニ ピアノ・リサイタル(H21.5.15 サントリー・ホール) 』
『 マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル 』を聴いて
平成21年5月15日 サントリーホール
リサイタルからはちょっと時間が経ったが、わが備忘録として残しておきたいと思う。
1.マウリツィオ・ポリーニは、まさに巨匠である。本年、4月26日に、同じ場所でエフゲニー・キーシンのピアノ・リサイタルを聴いたばかりだったので、どうしても、二人を比べたくなった。
キーシンのリサイタルの感想はすでに書いたとおりであり、熱狂的なファンでホールが異様な興奮に包まれた。ポリーニの場合も、類稀な演奏技術により世代を超えた多くの聴衆を魅了し、ホールはいつまでも称賛の拍手が鳴り止まなかった。ただ、二十歳以上の年齢差のせいか、ポリーニの場合は、キーシンの場合ほど若い女性たちからの異様な反応や花束攻勢は見られなかったようだ。キーシンと同じ年齢の頃のポリーニならキーシンに劣らずに若い女性ファンの喝采を浴びたのではないだろうか。
天才ピアニストも、年齢によって演奏の質が変化していくのは自然だと思える。おそらく、ポリーニも若い頃に比べれば、スピード、パワー、正確さなどは落ちたのではないだろうか?そのかわり、人生経験や演奏経験を重ねたことによって得た精神性の深さや力みの無い安らぎを表現することにおいては、現在のポリーニのほうが上回っているのではないだろうか?老いがすべての面で輝きを失わせるはずはないと信じたい。
2.この日のポリーニはオール・ショパン・プログラムだった。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタの強烈な強弱のつけ方に慣れた耳には、ややおとなしいタッチで演奏ははじまったような気がした。しかし、時間が経つにつれ、持ち前のパワーが随所に発揮され、休憩を挟んで、後半は、道を究めた者のみが身につけうる自在さが感じられる演奏でうるさがたの聴衆も十分納得できるものとなった。
特に、アンコールでは、聴衆が立ち上がって拍手喝さいをしたので、ポリーニも感激したらしく、何度もステージを往復し、五曲も演奏してそれに応えた。
曲目を見るとわかるように、アンコール曲も、プログラム曲目に劣らない内容で、しり上がりにエキサイトしていく演奏は、客席と演奏家が呼応して感極まる雰囲気をかもし出していた。
しみじみ思ったのは、ピアニストの品格や風格ということだった。ポリーニの音楽は信頼できる。その演奏を生で聴くことのできる歓びを心の底から感じたのだった。こういう集中力をいつまで維持できるかは神のみぞ知るだが、できるだけ長く第一線で活躍して欲しいと、小柄で背中が丸くなったピアニストを間近に見ながら思った。
その後も、ポリーニとキーシンのCDを繰り返し聴いては、リサイタルの時の興奮を思い出している次第である。まさにこの上ない音楽の贈り物であった。
(参考)
2009年5月15日(金)
<大ホール>マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル
曲目
ショパン
:前奏曲 嬰ハ短調 op.45
:バラード第2番 ヘ長調 op.38
:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.35
:スケルツォ第1番 ロ短調 op.20
:4つのマズルカ op.33
:子守歌 op.57
:ポロネーズ第6番 変イ長調 op.53 「英雄」
アンコール曲
ショパン
:練習曲ハ短調op.10-12「革命」
:バラード1番ト短調op.23
:練習曲嬰ハ短調op.10-4
:前奏曲変二長調op.28-15「雨だれ」
:スケルツオ第3番嬰ハ短調op.39