【アンスネス ピアノ・リサイタル (平成20年10月27日東京オペラシティ)】
1970年ノルウェー生まれの、レイフ・オヴェ・アンスネスは、日本でもその実力が高く評価されていると思う。昨日の、ピアノ・リサイタルも、盛況で、万雷の拍手に応えて、アンコール曲も3曲演奏した。
終演後のCDのサイン会にも長蛇の列ができていた。
芸術の極意は、単純だ。洞察力と表現技術だ。しかし、それを正確に行うことは至難の業だ。
アンスネスは、それを身に着けた稀有な例だ。
生演奏を聴いたのはこれが二回目だが、期待を裏切らなかった。
小生の個人的な好みかもしれないが、ポリーニとバレンボイムとアンスネスが特に気に入っている。
ポリーニは強烈さに、バレンボイムは正確さに、そして、アンスネスはみずみずしさに、惹かれる。
曲目は、
ヤナーチェク 霧の中で
シューベルト ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958
ドビュッシー 前奏曲集より
第二集より第三曲 ビーノの門
第一集より第七曲 西風の見たもの
第二集より 第五曲 ヒースの茂る荒れ地
第一集より第九曲 とだえたセレナード
第二集より第八曲 オンディーヌ
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 「月光」
アンスネスは、作曲家の特徴をとらえて音色を自在に変えることができる。
ヤナーチェクの憂鬱な心境に合わせた暗い音色。
シューベルトの控えめさびしくてやや単調なトーンに合わせた抑えた音色。
ドビュッシーの複雑で華麗なきらめきに対応した宝石のような音色。
ベートーヴェンの重厚にして繊細でもある名曲に合わせた縦横無尽の変化に富んだ音色。
おそらく、アンスネスほど、多彩できらびやかでしかも重厚さや抒情性を表現できるピアニストはまれであろう。
アンコール曲は、
ドビュッシー 前奏曲集 第一集より アナカプリの丘
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第13番より 第三楽章・第四楽章
スカルラッティ ソナタ ニ長調
アンコール曲もかなりの熱演で、いつまでも拍手がなりやまなかった。
スカルラッティのソナタも、新しい感覚の演奏によってその魅力を十分に引き出していた。
まだ30代のアンスネス。これからのピアニストのトップランナーとして大いに活躍することを祈りたい。CDやDVDもどんどん制作して入手できることもあわせて望みたい。
とにかく、この夜のアンスネスのピアノ・リサイタルは、極上の演奏を生で聴く至福の時間であった。