南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2020-01-01から1年間の記事一覧

シェークスピア ソネット 102

ソネット 102 W. シェークスピア 見かけ上はわたしの愛は弱まっているように見えるかもしれませんが 実際は強まっているのです 表面的に弱まっているように見えても愛する気持ちは少しも弱まってはいないのです 商業的な愛ならば その持ち主が至る所でその極…

松尾真由美詩集『多重露光』

松尾真由美詩集『多重露光』。世界に一台しかない高性能カメラは、第一段階で現実の情景をさまざまに加工して細密な映像に作り上げ、第二段階でそれを光によって言葉に変換する。装飾的な様式美にこだわったポリフォニックで多彩で緻密な言葉の造形は、類例…

詩の推敲について(一考察)

詩の推敲について(一考察) 1.まず詩を書く。 2.書いた詩を読む。 3.書いた詩を推敲する。 具体的な推敲のステップ(一例) ①全体をチェック ・テーマがうまく表現できているか? ・テーマと文体が合致しているか? ・分量は適当か? ➁連レベルのチェ…

尾久守侑詩集『悪意Q47』

尾久守侑詩集『悪意Q47』(思潮社刊)について(感想) JK(女子高生)がひとつの通奏低音となって流れているところが特徴的だ。そこには若い女性歌手のグループから受けるような甘酸っぱいムードが充満しているので読者は浮ついた精神状態になって詩作品の展…

詩「ソーシャルディスタンス」

ソーシャルディスタンス 南原充士 それ以前から距離はとっていた それ以上近づけないから 諦めるしかないと感じていた あと一歩前へと 心の中で命じる声が聞こえても うっかり近づきすぎれば 傷つけあうふたりがいる この距離からでも それにふさわしい情愛…

詩「白い虹」

白い虹 南原充士 小さなトラブルでもショックは大きい。 大きな災いなら声も出ない。 中庸を行けと教えてくれた人はもういない。 かまびすしい世間で黙って生きていく。 自分だけが苦境にあるわけではないとわかっていても 躓き転べばひどく痛い。 曇り空の…

シェークスピア ソネット 101

ソネット 101 W. シェークスピア おお怠惰な詩神よ、美に染められた真実を蔑ろにしたことを どんなふうに償うというのでしょうか? 真実も美もわたしの恋人に依存し、 あなたもまた同様で、それによって尊厳を獲得するのです、 詩神よ、答えてください、おそ…

『喜望峰』について

小説『喜望峰』について 小説『喜望峰』では、南アフリカでの白金族金属の開発プロジェクトを中心として、ワインの会、合唱クラブを通した恋愛、友情、夫婦の形を描いています。南アフリカの人種問題やエイズなどの感染症の問題なども取り上げています。 南…

『喜望峰」(57577系短詩)

『喜望峰』(57577系短詩) 2020.9 甘えなど 許されないと 雷に 向かって走る 僧侶の如く あめんぼは 雨が降っても 晴れの日も 線形幾何学 すいすいと解く ころころと 坂を転がる 大玉の 張り子破れて 中身が漏れる 巣篭りて 文を鬻いで 過ごす日…

詩「砂漠」

砂 漠 南原充士 濡れている 拭き取る まだ濡れている ぬぐいとる くさい 消臭剤をふりかける 嗅ぐ 準備はととのった なんのための? 外出はしない どこかにこもるか なにかがやってくるか 早くしないと じわっと汗がにじんでくる ふと気が遠くなるような気が…

シェークスピア ソネット 100

ソネット 100 W.シェークスピア 詩神よ、どこにいるのですか? あなたのすべての力の根源である彼を そんなにも長い間詩に取り上げることを忘れてしまって あなたの詩才をなにかくだらない詩を作ることに費やし 卑しいテーマにばかり光を当てることであなた…

南原充士全集の構想

浅学菲才の小生ながら、小さな野心を持ちつつ創作活動を続けています。手掛けている範囲の広さを生かして、個人全集をまとめたいということです。 1.詩集(現在12冊) 2.小説(現在8冊) 3.57577、575系短詩 4.翻訳詩 5.芸術評論 6.…

Kindle版小説『喜望峰』の出版について(お知らせ)

本日、Kindle 版小説『喜望峰』が刊行の運びとなりました。 コロナの時代に「希望」を持てるといいですね! ぜひこの小説をお読みいただきあらたな「喜望」を見つけてくださいね! よろしくお願いいたします。 かんたんにダウンロードできます。 価格も最低…

こんにちは

こんにちは 南原充士 ほんとうに悲しいことを話すことができるだろうか? 深い悲しみについて口にし だれかに秘密の思いをささやくことが。 わたしにできることは静かにしていることだけだ。 沈黙を守り、激しい痛みに耐えることだけだ。 いつしか時は過ぎる…

シェークスピア ソネット 99

ソネット 99 W.シェークスピア 早咲きのすみれをわたしはこのように叱った、 優しい泥棒よ、おまえはどこからその甘い香りを盗んだのか わたしの恋人の香りから以外にはありえないよね? おまえの頬を粧う華麗な紫も おまえがわたしの恋人の血に浸ってたっ…

電子書籍小説『転生』

https://bccks.jp/bcck/139097/info

シェークスピア ソネット 98

ソネット 98 W.シェークスピア 色とりどりの4月が飾り立てた衣裳に身を包み あらゆるものに若さのエッセンスを吹き込む春の間 わたしはあなたのいない時間を過ごしてきた 暗鬱なサトゥルヌスさえ4月には笑って跳び跳ねたのだった、 小鳥の歌声も 様々な香…

詩「散歩」

散 歩 南原充士 晴れの恵み 夕刻の軽い散歩 気分転換 自分なりのリズム 平凡すぎる一日が無事終わることの非凡 すれ違うひとは老若男女すべてマスクをしている どことなく離れようとする心理 人と人との磁力は逆転してしまったか? 至近距離で接しているのは…

シェークスピア ソネット 97

ソネット 97 W.シェークスピア あなたと離れていた期間は、過ぎ去る年の愉悦を失い わたしにとってあたかも冬のような時期だった なんとも凍えるような寒さを味わい、暗い日々を過ごし いたるところに年の暮れ12月の荒涼とした景色を見たことであろうか! …

人影

人 影 南原充士 ちょっと元気のないひと それはあなただ ふきげんな自分をもてあますあなただ なぜこんなに気持ちが滅入るのか おおよそは感じているが はっきりそれだとはいいにくい こんな自分は本当の自分ではない ふと聞こえる小鳥の声に心惹かれるあな…

シェークスピア ソネット 96

ソネット 96 W.シェークスピア あなたの短所は若さだと言う者も、放蕩だと言う者もいる あなたの長所は若さと気品のある遊びだと言う者もいる 多かれ少なかれ長所も短所も愛される あなたは短所もまた自らの長所に変えてしまう、 王座に就いた女王の指には…

オプティミスト(57577系短詩)

オプティミスト(57577系短詩) 南原充士 空間の 脱ぎ替わりこそ 時間なら 巨大な皮を 剥ぎ取る鋏 いつのまに いらつくひとは だれだろう 鏡を見れば 見知らぬ顔よ わけもなく 大声を出し おどろいて 気まずくなれば 居場所に困る いくたびも 痛切に知…

「詩の評価」

自分なりに考え抜いて詩のテーマを見出し、それをとらえる自分なりの視点も見つけて、これ以上ないと思われる技巧を凝らして一篇の詩を書き上げ、さらに何度も推敲を重ねて完成したと思える詩について、どのような評価が得られるかは気になるところである。 …

詩のテーマ

詩の技術がなければいい詩は書けない。 ではなにを書いたらよいのか?という疑問が湧いてくるのは当然だ。 詩のテーマはなんでもよいしひとそれぞれ書きたいことを書けばよい。 喜怒哀楽のいずれの感情を主とするかとか、抒情性を強く打ち出すか 理屈っぽさ…

詩の技術

詩は言葉の技術の極致と言えるが、その技術の高さは一読しただけでは読み取りにくい。特に谷川俊太郎のようにわかりやすい詩を読むとそこに高度な言語技術が駆使されていることに気づきにくい。 詩の技術の核心は比喩である。なぜ比喩かと言えば、詩は身体と…

シェークスピア ソネット 95

ソネット 95 W. シェークスピア あなたは不名誉さえそんなにも甘く愛らしいものに変えてしまう!不名誉は香しいバラにとりつく病弊のように世に知られつつあるあなたの名声を損なうものなのだがおお、あなたはどんな甘味の中にあなたの罪を封じ込めようとす…

『達磨』(57577系短詩)

達 磨 南原充士 巣篭りて みんな自分に 向き合えば 告白気味の つぶやき増える そのへんに 光が射すを 喜びて このへんにいる 日陰のだれか 羨みも 妬みもあれど 吹き払い 達磨となりて 端然と座す こころには いやしき邪気の 住まいいて うらやみねたみ 嫉…

南原充士の電子書籍小説のご紹介!

『南原充士の電子書籍小説』の御紹介 1.BCCKS SF小説『転生』。宇宙飛行士の主人公が不時着したアレー星での主人公コータとアレー星人とのやりとりが目玉です。短編ですからすぐ読めますよ! bccks.jp 2.Amazon (Kindle版) ①小説『エメラルドの海』は…

詩「無頼」

無 頼 南原充士 気まぐれな浮遊子が無数に混じり合ってたまたま出会いぶつかりすれ違い引き合ったり反発したり無視し合ったりする確率論でできているとはなんとも歯がゆいが愛も憎しみも幸も不幸も喜びも悲しみも泡の如くかつ消えかつ結びてとどまるところが…

詩集つれづれ(2020年6月)

『 詩集つれづれ=問わず語り 』 2020年6月27日 1.南原充士詩集=わが既刊詩集12冊を振り返って これまでの詩集についてどんな思いで刊行したのか振り返ってみたい。 まず、詩集「思い出せない日の翌日」は、自分としてはきわめて「私的」な位置…