南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

2020-01-01から1年間の記事一覧

シェークスピア ソネット 94

ソネット 94 W.シェークスピア ひとを傷つける力を持ったひとたちでも、実際に傷つけはしないだろういかにもやりそうに見えることでも実際にすることはないほかのひとたちの心を動かすことはあっても 自らは石のように無感動で冷たく誘いにもあまり乗らな…

『社会距離』(575系短詩)

『社会距離』 南原充士 こもりても 心うるおす 青時雨梅雨の入り 滅入るそぶりを つゆ見せず一日は 雨降りやまぬ ロ短調濡れる身を 心奮いて 乾かせりコロナ梅雨 見果てぬ夢の 濡れそぼる自嘲気味 鏡に映る 雨の外陽炎の 見下ろす微視の 社会距離嫌われて 梅…

『幻覚と妄想』(57577系短詩)

『幻覚と妄想』(57577系短詩) 南原充士 幻覚と 妄想の差は なんだろう 施設のひとと 話しつつ問うシーソーの 上がり下がりや ぶらんこの 行ったり来たり 人の気持ちはつらくても 薬物やらず 覚醒の 苦痛に耐えて 現実を見る囁きは 悪魔の仕業 眠らせ…

詩「ボール遊び」

ボール遊び 南原充士 広場ではいつまでも少年たちがボール遊びをしている空にはうっすらと三日月が浮かんでいる少しの間 目を離していたら すっかり暗くなっている家族が迎えに来たのだろう 名を呼ぶ声がこだまする見えないものを恐れながらも 足元は激しく…

57577系短詩

なぜ「57577系短詩」と言うのかと言えば、 1.5□7□5□7□7 のように各節の間は一字空ける。 2.現代的仮名遣いを基本とする。 3.現代語を基本とする。 ということを基本としているため、短歌とは一線を画していると考えているからです。 nambara…

575系短詩

なぜ「575系短詩」という言い方をしているのかと言えば、 1.5□7□5というように、各節間を一字空けとしていること。 2.現代的仮名遣いを基本としていること。 3.現代語を基本としていること。 4.季語にこだわらないこと。 5.切れ字は基本的に…

シェークスピア ソネット 93

ソネット 93 W.シェークスピア ということで、わたしは不実を働かれた夫のようにあなたが真にわたしを愛していると思いながら暮らしていくのだろうか?あなたが心変わりをしたとしてもわたしを愛する表情はいつまでも変わらないように見えるかもしれないあ…

梅雨入り(575系短詩)

梅雨入り(575系短詩) 南原充士 祈りへと 傾く気圧 雨期を押す 想像の 雨界を消して 空晴れる 嫌われて 梅雨前線 居座りぬ 陽炎の 見下ろす微視の 社会距離 自嘲気味 鏡に映る 雨の外 コロナ梅雨 見果てぬ夢の 濡れそぼる 濡れる身を 心奮いて 乾かせり …

シェークスピア ソネット 92

ソネット 92 W.シェークスピア だがあなたはわたしを捨てるなどいうひどいことをするでしょうかなぜなら生涯あなたはわたしのものでありあなたの愛が終わればわたしの命も終わるからですわたしの命はあなたの愛次第だからです、だからわたしは最悪の事態を…

『梅雨入り近し』

『梅雨入り近し』 南原充士 表現は 悩み苦しみ 躓けど 辛抱強く 水脈を追う 表現は こんがらかった 細糸を 辛抱強く ほぐすに似たり 表現は ひとりこもりて 営めど 他者につながる ときを待ちわぶ 相対の 靄に浮かんで 絶対の 生身を生きる 割れたる柘榴 コ…

表現について

表現は、 『表現したい』 と 『「表現できない」「表現すべきではない」「表現したくない」「表現を禁止されている」「表現技術が未熟である」「表現する価値に乏しい」「表現がだれかを傷つけるおそれがある」』 などのはざまにある。 自分としては、このよ…

幽囚

幽 囚 南原充士 果て知れぬ思いをかかえて有機的に暮らす 照葉の輝きに心は恥じらう寝違えた首筋が体のありかを知らせる こんなに胸騒ぎがするのに空腹はやってくる とらえどころのないものの中でただ失われ行くのは耐えられないと電柱の鴉に叫んでも底知れ…

写生

写 生 南原充士 喉元まで出かかった言葉を飲み込む爪先まで書きかけた言葉を書かない前頭葉に浮かんだイメージを描かない小耳にはさんだ噂を記録しないよくよく揉んでくちゃくちゃになったらおおよそは捨て去り消し去ってたまたま枝先に引っ掛かり枯れかかっ…

シェークスピア ソネット 91

ソネット 91 W.シェークスピア 栄光ある家柄、栄光ある技術栄光ある富、栄光ある強靭さけばけばしくはあるが最新流行の栄光ある衣裳栄光ある鷹や猟犬、栄光ある馬、あらゆる気質は ほかの喜びを上回る喜びをその中に備えているだがこれらの喜びはわたしの…

五月の終わりに

五月の終わりに 南原充士 五月の最終日と思えば暦が瞼に浮かんでくる六月へとめくられる景色しとどコロナを濡らす梅雨距離を保たなければ七月は来ない夜空を見上げれば満ち欠けする月じっととどまる八月 動き始める九月油断なく過ごす十月第二波、第三波を警…

シェークスピア ソネット 90

ソネット 90 W.シェークスピア それならお好きな時にいつでもなんなら今でもわたしを嫌いになってもいいのですよ今、世間の人々がわたしの行いを悪しざまに言いたがる時に意地悪な運命の女神に同調して、わたしを平伏させればいいのですただし、後で損を被…

途中

水平線の向こうを想像する 空の消えゆく先を想像する 記憶のうすれゆく縁を想像する かすかな風の音が途切れる丘陵を想像する すれ違ったひとのマスクを外した顔を想像する 窓辺に訪れたのはハクセキレイだったと想像する 走り去っていったのははだれの飼い…

危機

危 機 南原充士 外の景色を見ていると、時空のゆらぎは見えないが、心の揺らぎは感じる。子供たちが遊んでいるのを見ていると、自分の影は見えないが、未来を感じる。ひとりひとりの顔は見えないが、夥しい人々がこの世界に生きていることを想像する。どんな…

2020南原充士プロフィール

南原充士(なんばら・じゅうし) 1949(昭和24)年2月7日生、茨城県日立市出身1972(昭和47)年3月 東京大学法学部卒 日本詩人クラブ会員 詩、小説、575系短詩、57577系短詩、英詩翻訳、評論、エッセイ等幅広く手掛けていますのでどれかひとつでも…

ドッジボール

ドッジボール 南原充士 どっちみち当てるか当てられるかだ癖球をかわし速球をかわし上手くいけばナイスキャッチ波のように寄せては引いてどっちもどっちだ最後のひとりがかわしそこねる鈍重なのは情けない土性骨の座った燕小僧を味方に入れて今度こそ勝ちだ…

ヒタヒタ

ヒタヒタ 南原充士 何かが追いかけてくるヒタヒタ 急ぎ足になるヒタヒタ 道を曲がるヒタヒタ 無人小屋を突っ切るヒタヒタ 川を渡るヒタヒタ 丘を越えるヒタヒタ 谷底に落ちるヒタヒタ 地中に埋もれるヒタヒタ 正体不明だヒタヒタ 遡ってみるヒタヒタ 出発地…

シェークスピア ソネット 89

ソネット 89 W.シェークスピア もしあなたがなにかわたしのした過ちのためにわたしを見捨てることがあるとしたらわたしはその仕打ちについてじっくりと考えるだろうわたしの詩がお粗末だとあなたが言えばわたしはそのように書くだろうあなたが挙げる理由に…

風薫る

風薫る 我が里に つつじうぐいす ハナミズキ 月影冴える 八十八夜つまらない けんかをしては かえりみる おろかなじぶん かわりはしない すくなくも おろかであると しったうえ けんかをさける かしこさをしる けんかする パターンをしり あらかじめ あやう…

The Environment

I try to harmonize the change of the weather with going up and down of my feelings.A living body of mine consists of the body, mind and environment roughly speaking.A person is to blame for his or her vulnerabilityBut the weather is not in…

環境

環 境 天気がめまぐるしく変わるのを気持ちの浮き沈みと合わせてみる。わたしという生命体をおおざっぱにとらえてみれば体と心と環境だろうか?人は感情の起伏を責められるが天気は責任を問われない。あなたがわたしの環境であるようにわたしはあなたの環境…

夏の日は輝く

五月の暦さえめくりそこねていたのに 急激な気温の上昇は夏が来たことを肌で知らせる 家にばかりいるので自分自身には変化が少ないから ちょっとしたことが強烈な印象を与える 想像力は小さくなっていき 創造力は涸れてしまいそうだ 理屈をこねた口にお仕置…

どんなときも

どんなときも かわいくないひとと いつだって あいされるひととどちらかといえば すかれるひととどっちにしても かわりのないひとわらえるか なけるか ずっこけるかだれのせいでも ありゃしない

表情筋体操

表情筋体操 南原充士 心配しすぎては神経症になると長い喜劇映画を見始める映画専用チャンネルだけあって見たい作品がいくらでもある 笑うだけ笑って鏡を見ると表情筋がゆるんでいるのに気づくテレビのニュースをちらっと見ると病院に運び込まれる患者が映し…

自分の場所

危機にありて 知恵者は語る 愚者もまた わたしも語る 自閉を超えて ここにこそ わたしはいるが 叫ばない 空の彼方へ 愁いを飛ばす あなたとは 違う場所へと 煩いを 隠して今日も メールを送る

シェークスピア ソネット 88

ソネット 88 W.シェークスピア あなたがわたしを軽んじわたしの価値を蔑むようになる時が来てもわたしはあなたの側に立ってわたし自身を責めあなたが裏切ったとしてもあなたが有徳の士であることを証明するだろう、わたしは自分の至らなさをわきまえている…