南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

夏の日は輝く

五月の暦さえめくりそこねていたのに

急激な気温の上昇は夏が来たことを肌で知らせる

家にばかりいるので自分自身には変化が少ないから

ちょっとしたことが強烈な印象を与える

想像力は小さくなっていき

創造力は涸れてしまいそうだ

理屈をこねた口にお仕置きをしようと

マスクを外してはならないと命じてみる

しだいにマスクは顔の一部になり

マスクを外した顔は恥ずかしくなるだろう

再放送ばかりのテレビを見ていると

自分の方向は後ろ向きになってくる

どこかに小さな安全地帯を作る

だれにも会わないからと言って

だれもいなくてもいいわけではない

ひとはなにを思うかを考えられなくなる自分がいる

時間がたてば空腹を覚えて

モラトリアム

食事をすれば自然が呼ぶ

用もないのに歩き回れば気分は変わる

だれかを思い出すがなにもしない

いろいろな情景がばらばらに浮かんでくるが過ぎて行ってしまう

どこかで通じ合えるような気がするが錯覚だと言うひとがいた

あまり期待しない方がいいらしい

どうにもならない自分をもてましているのがふつうだと言う人がいた

そんなにわりきれるものでもないらしかった

ちっぽけな現実と大きすぎる幻想

ねじられて痛がるはずみに手が出てひとの頬を打ってしまったりする

今日も終わりだ

筋書きはないが名前はある

力はないが腹は減る

金はないがほしい物がある

欲はあるが満足はない

巨大な空想のパノラマに貧相にこびりついているカスみたいなのが自分だと言うひとがいた

そんなことを言った人なんかいなかったかもしれない