南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『梅雨入り近し』

   『梅雨入り近し』

 

        南原充士

 

表現は 悩み苦しみ 躓けど 辛抱強く 水脈を追う

表現は こんがらかった 細糸を 辛抱強く ほぐすに似たり

表現は ひとりこもりて 営めど 他者につながる ときを待ちわぶ

相対の 靄に浮かんで 絶対の 生身を生きる 割れたる柘榴

コロナ梅雨 早く過ぎゆけ 忍耐の マスクは苦し 巣ごもり辛し

コロナにて 気鬱のうちに 漏水の 気づかぬうちに 進行しており

調べれば 施工不良と 判明す 責任なけれど 動揺激し

なにごとも 不意に起こりて 追い詰める おまえはなにに 呻き苦しむ?

窮屈と 思えばそっぽ 向いたって 嫌いになった わけではないと

ゆるふわに つきあうことの ほどよさに 気づいてみれば ひとりほほえむ

だれかれに 一期一会と 気張らずに 時の流れに 任せて生きる

かわしたり 目くらましたり ひそんだり どうにもならぬ 秒読みの声

崖っぷちに ありても生きる 毎日は 相変わらずの 繰り返しのごと

異なるは 意外でもない ことなれど 心の奥を 見るは悲しき

通じ合う 事はできぬと あきらめて 疑似共感に 託す真実

なにゆえに わかりあえぬか ひととひと はかない命 認め合えども

暗闇に 光一筋 射しすぎる かすかな未来 感じ合うとき

ひっそりと 自ら思い 行うを 真率に述ぶ 危機にありても

あれこれと おもいわずらう だけじゃなく ひとつの歓喜 見つけてみたい

ドア越しに 顔を見るのも 五分間 受話器の声に 力が入る

施設から たまの面会 許されて 厳重武装で 玄関に入る

付き添いの 介護職員 黙々と ホイールチェアの 母を押し来る