南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

コロナ雑詠

『コロナ雑詠』      2020年3~4月

リーダー

リーダーを 責めるばかりは どうですか 虚心坦懐 よいことはよいと
躊躇せず あらためるべきは あらためて 立場を超えて 助け合えたら 
非常時は 問われるトップの 力量が 暮らし委ねて 命預けて
家にいれば 怒りっぽくなる 家族とも けんかをしちゃう ごめんね自分
できるだけ 心静かに 深呼吸 人にやさしく できたらいいね
ぐちばかり 言えば心も 落ち込んで 怖いウイルス はねかえせない
とにかくも 落ち込む気持ち 励まして 歌い踊ろう 食べて歩こう
だれよりも 深い洞察 超絶の 技巧無くして 風刺は成らず
悪口を 言うのが人の 常ならん 赤裸々露骨 喝采し合うが
嘲笑や 蔑視まで行く 心根を さし控えるは 無用の用か
ユーモアも エスプリサタイア コメディーも ソーシャルにして 各自のマナー

手紙

在宅の アルピニストの 言うことにゃ 家を掃除し 手紙を書こう   
そう言えば メールばかりで 手で書いた 手紙はがきを 出すのもまれだ
悪筆は 直らぬけれど 自分なりに 一字一字に 思いを込める
声かける 電波に乗せて 笑う顔 エレクトロマグネティックの在宅だ
読むと書く 見ると見られる 声かける 知ると覚える 忘れてしまう
鼻歌も 貧乏ゆすりも 筋トレも ちょっぴりハイに なれる七癖
毎日が 何事もなく 過ぎていけ 奇跡とは 平穏無事と知る

新 生      

世の中は 変わってしまった われわれも 変わらなければ 生きてはいけぬ
なんという 不自由世界 なにびとも 疑心暗鬼に 遠ざけ合って
新しい 生き方に慣れ お互いを 守り合いつつ 希望見出す
ツイートは 癖になるんだ つぶやきは ぶつぶつ言えど 流れて消える
一瞬の ひらめきよりは 言の葉の 思いつくまま 並べてつなぐ
独り言 呟く我に 呆れつつ 飽きるまで言う 今日も愚かに
愛らしく なれぬものかと 自らの 顔を眺めて 思案投げ首
だれもみな 自分で思う それよりも はるかに頑固 偏屈至極
ひきこもる この危機をこそ 奇貨として 素直になろう やさしくしよう


押し寄せる 情報洪水 春もがく
霞濃し 吹き飛ばせよと 合唱す
ほとばしる 春遡り 堰を閉め
かかかかか 頑固人心 春愁う
昨日今日 春とは言えど 大違い
つぶやきは 春の朧の 寝言かと
つつじ咲く 昨日は晴れて 今日は雨
ああここは 山吹の道 誰と来た


一日を 千年と思う 日は過ぎて 明日をも知れぬ わが身を思う
いつまでも あると思えぬ この命 不信を去りて 憎悪を捨てる
押し寄せる 情報の波 溺れつつ 真偽わからず 藁をもつかむ
今日もまた 終わりつつある 目を閉じて 夢に誘う 妖精を待つ
どこまでも 続くこの道 はかなさを 知りつつついに 信ずることなし
感染の 危機にありても 罵りは 収まらずして 亀裂は深し
罵詈雑言 浴びせて生きる 遺伝子を 痛めつけるか コロナウイルス
分別も 良識もある 善人が 互いにどこまで 憎み合うのか
晴れ上がる 空の彼方に なにが住む 幸い住むと 言える時待つ
在宅に マスク手洗い 防護服 アビガン呼吸器 ワクチン開発
人類は 一網打尽 おのがじし 忍者となりて 網を抜け出す
ひととひと スキンシップを 避けつつも  電子接触 バーチャル会話

春の雨

雨は降る 景色は煙り 風も吹く 家々に聞く ため息深し
この雨も やがては上がる 空晴れて 窓より遠く 稜線を見る
くつろいで 過ごすつもりの 一日も 明日の予定が 立たぬ苛立ち
くりかえし 沈む気持ちを 励まして 浮かぶ不安を 笑い飛ばそう 

嘆きつつ 憂いを流す 春の雨
この道は いつか来た道 ハナミズキ
親密に なれない世間 八重桜
鶯の 声をまた聞く 兎坂

ぬかるみを 歩き続けて 日は暮れる 春の嵐に 芯から冷える
強風と 大雨の降る 予報あり 身を縮めこめて ひっそり暮らす
荒れ模様 過ぎれば嬉し のびやかな 春の日差しを 浴びてくつろぐ
うららかな 春は満ち来る わが家にも まぶしき光 消えることなく
目を閉じて 夢みる人は ふわふわと 無菌の園へ 誘われていく
ありえない これが現実 迫りくる 危機は過ぎよと ただ祈るのみ
春の風 肌寒く吹く 山野辺に 隠れ花咲く 離れ里あり
おだやかな 晴れの日のあと 風強く 一時雨降り 曇りの空へ
常ならば 目は口よりも 物を言う ゴーグルした目と マスクした口
心配に 押しつぶされる 心肺の 鼓動激しく 息吐かんとす

小さな息

大声で 叫ぶ人あり ひっそりと 歩む人あり ささやく人も
真実は 届きにくいが 良心は 小さな息に 乗って運ばる
混乱の さなかにありて 迷う道 しるべなければ 探りつつ行く
のびのびと 小さな公園 こどもたち 遊んでいるよ どうかこのまま
知り過ぎた 目耳口に 暇をやり なにも思わず 歩いていこう
躓いて 起き上がっては 深呼吸 いつか来た道 えっこらしょっと
おはようと あなたに言えば おはようと 返るうれしさ さよならコロナ

ため息

ちっぽけな 自分であれば 沈黙が ふさわしいとも 思いつつ生く
愚かなる 自分であれば 賢明な 知者の言葉に 耳を傾く
さりながら 自分は自分 ほかならぬ 生きるため息 漏らすことあり
結局は 良心的に 迷いつつ 決めるしかない 危機のさなかに
晴れた日の 大きな緑地に 子供らは ラグビー野球 自転車をこぐ

カレンダー

コロナより 怖い偏見 憎しみを 弱める薬 開発望む
思い出す 違う意見を 排斥し 罵り合って 叩き殺した
絶望を 希望に変える 魔法薬 危機の今こそ 投入の時
できるだけ こきおろさない けなさない ちがういけんを もつのはしぜん
全力で 取り組む人も いわれない 批判浴びれば 心折れるよ
自分だけ 正しいはずは ないのだと 思ったうえで 力合わせる
カレンダー 予定を消して ひきこもる 春夏秋冬 いつまでかかる?
何曜日? 日にちの感覚 ずれてきた  寡黙な鏡 へのへのもへじ

ツイート・アディクト       

真率の 思い述ぶれど 届きえぬ 空しさあれど 筆は絶つまじ
真実は すこし退屈 読み過ごす ツイート消えて 溢れる噂
深く問う 意味はわからぬ ただすこし 寄り添いてみて なにかが通ず
ツイートは ある種アディクト だとしても ぎりぎり漏らす 心の奥処
落ち込めど 気持ち切り替え リセットし すこし前向き ちょっと横向き
崖っぷち しがみついたり もがいたり よじ登ったり 這いずり上がる
これほどの 試練に遭えど めげはせず ひたすら愚直 じっと耐え抜く 
褒められも けなされもせず ここにいて 玄米三合 味噌と野菜と
通勤は なかなか減らず なりわいの 狭間にありて 苦悩は深し
逼塞は いかなるかたち 生きるため 家にありても 遊びの心
八割の 自粛要請 守りつつ 効果出でよと ひそかに願う
家にあれば けに盛る飯を ひきこもり 家にしあれば 今日もけに盛る
ひきこもる ひとりぽっちの ひかげから ひめいあげても ひとにとどかず
こうなれば ここしかないよ こんなにも こまっていても こたえはでない
できるだけ でかけないでと でぶしょうの でっぱりをはう でんでんむしみる

換気に走る

花冷えの 春の嵐に 煽られて 歓喜無くして 換気に走る
散歩する 急傾斜地の 住宅地 はじめて下る この兎坂
細長く 曲がりくねった この坂を 昔は兎 走り過ぎたか
家並に 隠されてある 土の坂 ひとり辿れば 古偲ばゆ
今日もまた 新たな感染 死者数が 報告されて 心落ち込む
8割の 外出自粛 2週間 どうか数字が ゼロに近づけ
ひきこもる 家をいこいの 園として 表情筋の 体操をする
王冠の 支配を避けて 生き延びる 人類は今 戦う味方

王冠

王冠を 剥がし脱がせて 無力化す 壊し崩して 溶かし流して
コロナん坊 洗い消毒 封じ込め ひとにうつるな ひとを殺すな
泣き笑い 怒り喜び 悲しんで 感情線を 伸ばし縮める
右目にて コロナ睨んで 左目は 娯楽番組 笑いつつ見る
接するは 花鳥風月 犬や猫 悲しき世界 ソーシャルディスタンス
コロナ危機 緊急事態 終息し 元の暮らしに 戻ってほしい
危機来たり すこしやさしく なるひとの 距離はあっても 心近づく 

食事

うららかな 春は誘えど 自粛中
食卓に 陽光射して こもりびと
窓辺にて 霞は深し 山遠し 

なんだかんだ言っても楽しむのが生活 

緊急の 事態が来ても おれたちは 冗談言って 無邪気に笑う 
追い詰める コロナするりと かわしつつ ラジオ体操 気持ち軽やか
この自粛 いつまで続く 縛めか とらわれ人は いつ抜け出せる?

メランコリー

身中に 巣食う病変 じわじわと 真綿の如く 命脈を絞め 
病変の 一つや二つ 抱えつつ 生き延びんとす 治癒は望まず
悄然と 肩を落として 嘆く身に 一人の客も 来たることなし 

*逼塞す 窓から桜 軽体操
*救世主 食料品の 配達車
*感謝のみ 医療従事者 そのほかの

*トンネルは どこまで続く 身構えて 歌を歌って 歩いていこう
*楽観と 悲観の揺らぎ 真実も 虚偽も見えない ぬかるみを行く
*これ以上 なければ生きて いかれない 最低限を 思い知る時
*これほどの 危機が来るとは 予想外 逃げ場もなくて おろおろとする
*弱きもの なんじの心 わが憂い 離隔のほかに なすすべもなし

*手を洗い めくる暦は 残酷へ  
*罪のない 笑いも消えて 四月バカ  
*免疫を 強めて笑え エープリル

*絶望の 淵にあれども 花は咲く 一人歩みて 花の香を嗅ぐ
*錯乱の 街はゴースト 我が家にて 手料理食し 今を安らぐ
*パンデミの 見えぬ災禍に 襲われど  焼きたてのパン ちぎる手洗う

自衛策

できるだけ 外出控え ひきこもる ラジオ体操  鼻歌歌う
室内で テレビラジオと パソコンと 食事楽しみ 家族と話す
あれこれと 煩わずして 辛抱す 開き直って 終息を待つ

エイプリルフール

手を洗い めくる暦は 残酷へ
残酷か 寛大なのか 四月来る
罪のない 笑いも消えて 四月バカ
免疫を 強めて笑え エープリル
花冷えも 笑う門には 福来る

追悼 志村けん

失って 知るは世の常 コメディアン 笑いの芸に 泣き笑いする
引きこもる 閉鎖の時の 只中に 笑わせるひと 去るは悲しき 
いつの世も ホラーエログロ ナンセンス 危機の時こそ 笑っていたい
無表情 不安不信が 蔓延す 笑わせてくれ 笑わせてやれ
しんみりと むなしさともる らんたんに けうなわらいを うんともたらせ
在りし日の ドリフターズの 様浮かぶ いまこそひとを 笑わせるとき

花は咲く   

絶望の 淵にあれども 花は咲く 一人歩みて 花の香を嗅ぐ  
錯乱の 街はゴースト 我が家にて 手料理食し 今を安らぐ
パンデミの 見えぬ災禍に 襲われど 焼きたてのパン ちぎる手洗う
咳飛沫 マイクロ飛沫 遮断する 防護ウェアに 毒ガスマスク
ふたしかな いのちの危機に さらされて 不安と懸念 増殖恐怖
クラスター オーバーシュート ロックダウン 医療崩壊 社会崩壊
引きこもる 時代となれば 在宅の 暮らしビジネス バーチャル社会
重要で 急いですべき 用事でも 不要不急に 引き止められる
急ぎでも 重要でもない わが暮らし 不要不急が 積もる室内

桃園

桜咲く 道をたどれば 桃園に 桃か桜か 八重の花咲く
梅散って 桜も散って つつじ散る あじさい散って 花は散り継ぐ
コブシ咲く 丘に登れば 遥かなる 富士の姿を 晴れ晴れと見る
コロナには 勝てぬ算段 界隈の 道をたどれば 桃の花咲く
引き続く 凶事に打たれ のめされて 倒れんとして 踏みとどまりし

楽観

悲観的 茫然自失  自暴自棄 剣が峰なら 打っ棄ってやる
世の中は 絶望のみの 博覧会 反転させよ 希望の星へ
はかなさの 跳梁跋扈を 蹴倒して 楽天主義の 仮面をかぶれ 

痛み

突然の 痛み激しく 術もなく 横たわりては 収まるを待つ
かのような 痛みの記憶 蘇り 息苦しくて 眠れぬ責め苦
つかのまの 沈静あれば 診察の 医師の手先を すくいとぞ見る

それでも自分は

生きるとは 無間地獄に 投げ出され 魑魅魍魎に 肝冷やす日々
どこまでも 自らとして 生きていく 納得できぬ 役であろうと
かまびすし 人あるところ いつの世も それでも我は わが道を行く 

乱調

突然の 乱調来たり 戸惑えば 悪夢跋扈し 悪寒取りつく

パンデミック

1918の スペイン風邪の 我が国の 死者は38万 世界で4000万人
2002の SARSの感染は 32か国・地域 8千人 死者は世界で700人余
いかにして パンデミックは 収まるか 猛威を奮う ウイルスに勝ち
未知ならば 手探りの処置 積み重ね 祈りのうちに 終息を待つ
おろおろと 瘴癘跋扈の 霧深し 人事を尽くし 天命を待つ

3.11

地は揺れて 首押さえられ 沖よりは 怒涛押し寄せ 逃げる間もなく
災いの 博覧会か 世の中は 昨日も今日も 明日も涙の
予測だに できぬウイルス 人類は 瘴癘跋扈の 沼に沈むか
嘆く間に 人は去り行き われもまた 幻と化す 瀬戸際の今
人類の すべての英知を かき集め コロナ地獄の 終息祈る