南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『春の夢』(俳句系)

 

    『春の夢』

 

 

        (俳句系)

      (2021年4月)

 

 

外よりも 内なる敵を 春散らせ

 

自滅気味 暗示のごとき 春の空

 

楽天に 振れる秤の 春うらら

 

自らを 納得させて 生きる春

 

歌うごと 調べ軽やか 春の川

 

自らを だまし励まし 春の風

 

地震来て 風雨も襲う 春に泣く

 

鬱屈の 沈み浮かべて 春の川

 

友の顔 ズームに並び 春来たる

 

一夜過ぎ 人世に目覚む 春の夢

 

おおよそは 春の模様と 腑に落ちて

 

歯磨きの 仕方直され 桜咲く

 

花咲かす 見えない影に おびえつつ

 

マスク群 桜並木を 歩まする

 

心して 避ける三密 立ち花見

 

春本番 出番なけれど 首を出す

 

人知れず 川のほとりに 咲く桜

 

山里へ 訪ね分け入る 桜花

 

変調も 一時停止の 春うらら

 

刻々と 暖気上りて 桜頃

 

瞼にも 目にも焼き付く 桜花

 

娘たち 花咲く野辺に スキップす

 

春の画布 ボッティチェッリの 筆の先

 

春らしき アフロディーテの 誕生日

 

3月が 終わる日に書く 雑記帳

 

四月とは すこしうれしい 心持

 

新学期 背より大きな ランドセル

 

梅桜 つつじへ移る 花バトン

 

四月への 暦をめくる 心映え

 

窓辺にも そっと寄り添う 春霞

 

一面の 靄を浮かべて 春の空

 

昼下がり 眠気再び 春うらら

 

自らを 見直す機会 衣替え

 

冬物を 洗って干して いい気分

 

心まで 洗う妙薬 春を呼ぶ

 

春は春 去年の今日を 振り返る

 

灰色の 春の日もある ひきこもり

 

春色の 雲に乗ったら 歌を聴く

 

春の寺 極彩色の 釈迦の像

 

ある意味で 霞んでるのも 春の知恵

 

春風に 心を飛ばす 空想家

 

眠っても 眠り切れない 春の夢

 

見下ろせば げんげの畑も あの辺に

 

思い出に 変わってしまう 春の園

 

止まれとは 言ってみたけど 桜散る

 

あいさつを しても届かぬ 春もある

 

思うより 少し愚かな 春の主

 

見かけより ちょっと善人 春の爺

 

寂しさを 畳んでみても 泣ける春

 

眼に映る 開幕試合 大リーグ

 

悲し身の 宿る心に 春よ来い

 

喜びに 気づかぬままの 春霞

 

そよ風が 吹き荒れるのも 春の相

 

花曇り すこしうつむく ひとの顔

 

自分とは なにほどもなく 花筏

 

春の空 はたはたなびく 旗を見る

 

泳ぐ春 努力は必ず 報われる

 

いつまでも 見て居られるか 春の夢

 

眠られぬ 苦み走った 春の夜

 

あなたにも 言えぬことあり 春の雨

 

言わぬまま 軒を過ぎゆく 春の影

 

春風よ 宇宙の果てまで 吹いていけ

 

猶予でも 春を気ままに 過ごせるよ

 

先見えぬ 人の世に満つ 春霞

 

負に向かう 心を飛ばせ 春の空

 

ともすれば 愚かに濡れる 春の雨

 

とりあえず 春に寝転ぶ 野に歌う

 

時を去り 空を去っても 惜しむ春

 

忘れ去り 思い出すのも 春の恋

 

春ならば 犬より先に 跳ね回る

 

春暁は 果てしない夢 覚めがたく

 

激流と 思えばすくむ 春の足

 

つつましい わが春もある 空き地裏

 

自らに 腹を立てても 春のどか

 

どこまでも 行けそうな気がする 春が好き

 

子供たち いるだけでいい 春の風

 

意地悪が 目立たない子の 入学式

 

凄惨な 事情はあろう 新入生

 

いいひとで いられなくても 春のどか

 

ひねくれた じじいもいるよ 春温泉

 

釉薬の ごとき人生 遠い春

 

今は春 惜しむか人の 別れとて

 

去年の春 思い出させる 脳細胞

 

突き詰めて 真実を見る 春の神

 

わき見して すこし脱線 春はよし

 

信じては いけないことが あるも春

 

人知れず 泣けば降り出す 春の雨

 

空しいと 言えるはずなし 春来たる

 

堰切って 流れる涙 春朧

 

煙幕を 張って忍者は 春霞

 

猛烈に 行きたいことも あった春

 

神さびて ひとり分け入る 春の峰

 

自堕落を 肯定してよ 春だから

 

春眠を 分かつ半身 まどろみて

 

王朝の 仕儀真似びたる 春の宵

 

閑居して 笙篳篥の 春の夢

 

かたくなな 君を去れよと 春が言う

 

なにゆえに かくも頑固と 春が言う

 

おおらかに 生きればいいと 春が言う

 

もうすこし 羽目を外せと 春が言う

 

わけもなく 落ち込むわけを 春に問う

 

空白の ページを埋めよ 春の声

 

悪霊を 追い払う風 春一陣

 

ほとんどは 沈黙してる 春ちゃん

 

たいくつを 凌ぐ相手は 花の春

 

ひそやかに 野心を抱いて 春を跳ぶ

 

春ちゃんと 名付けてみたい あのひとに

 

春男くん 呼ばれているよ あのひとは

 

常春の 心情あれば 文句なし

 

たけのこは 傷みやすいぞ 早く食え

 

勘だけを 頼りに掘った 竹根っこ

 

えぐみさえ 男を上げる 春の鍋

 

春介が 颯爽と行く アレグロ

 

気まぐれは 春の心の 正体よ

 

有機無機 無限の春の 揺曳期

 

動植物 海山川も 春の中

 

桜咲く 土も空気も 花盛り

 

春霞 融通無碍の 時空図絵

 

春はどこ 喜望はあそこ あの岬

 

春だから 夢にあなたが 出てきたか

 

人の出ぬ 夢は見ないよ 春だとて

 

亡霊が 春の夢見を 操れる

 

摩訶不思議 春愁深く 破れ傘

 

無味無臭 無色に帰る 春の夜

 

ややこしい 利他と利己とを つなぐ春

 

おはようと 言われた朝は 春弾む

 

消し去った 一句の余韻 春を詠む

 

絵の中の 首筋濡らす 春の雨

 

いそいそと 鰆の切り身 持ち帰る

 

リモートの 春の画面に 火星見る

 

俳句という ヴァーチャルありて 春の園

 

俳句とは イデアルティプス 春爛漫

 

一回り 二回り目は 春の裏

 

現実の 季節のかなた 夢の春

 

雨季乾季 送り合いたる ここは春

 

春爛漫 みんな勝手に するもよし

 

好き放題 春の許しよ 能天気

 

傍若無人 広大無辺 春うらら

 

無限遠 そこも春よと 仮に置く

 

今更に 春の生まれる 日の記憶

 

いつのまに 春の消え去る 影薄し

 

神仏 機嫌直して 春だから

 

怒りっぽく なったわれらを 春笑う

 

わけもなく いらいらするなと 春が言う

 

それならば 一緒に遊ぼう 春の原

 

新しい 光を見たい 真の春

 

真実を 逃しはしない 春視覚

 

うれしくて 眠れぬ春は 何求む

 

くだらぬと 言っちゃおしまい 春愚か

 

ばかだから 春ボケで行く わたしです

 

ほるまりん はるのうたりん なふたりん

 

春の朝 予感の萌える 空見上ぐ

 

なんだこりゃ 緑萌えたつ 野のはずれ

 

だれもいぬ 空き家に伸びる 春の蔓

 

路地裏を 踏み分け入れば 下がり藤

 

掘り起こす 雑貨の影の 春ジャック

 

接続の 罠に引き込む 春の午後

 

癖になる 春が過ぎても 治るまい

 

疲れたと 倒れるように 眠っても春

 

スイート スイート スイートな 春だね

 

中古品に 囲まれるのも 中古の春

 

雑用五つ 粋にも感ず 春の宵

 

春の裏 秋たけなわの ゴールドコースト

 

乾季には 雨季を思える 四季の外

 

流れゆく 喜怒哀楽の 春の川

 

春の日の 川面を見れば 万華鏡

 

春の淵 踏み外しては 肝冷やす

 

驚くは どっちに向いて 春男君

 

そむけるは だれの方位か 遥かさん

 

生みそを 脳みそと見る 春の暮れ

 

特産の 売り場巡れば 春匂う

 

新入の はとこのようす 知らせ来る

 

もやってる 春の夜空を 見上げます

 

思い出す つつじの花の 咲いた頃

 

PDCA 乗り損ねても 春は来る

 

PTSD もやもやもやと 春は行く

 

COVID-19 なじめないなあ 外は春

 

春の外 嘆きは同じ 喜びは?

 

悲しみは 春の彩り 失せていく

 

喜びは 春に恥じらう 人の影

 

メランコリー 春のうららに 紛れ込む

 

春向こう 子供の声の 滑り台

 

もやもやと 春に抱かれて うたたねす

 

裏側の 秋の景色を 春に見る

 

幾たびの 春 かくも長き コロナ

 

ときめきを 春の野原に 飛ばす風

 

渦巻いて 流れ落ち行く 花筏

 

レンゲソウ 妖精の舞う 夢の中

 

喜望峰』一億人の 春の歌

 

春の精 夢から夢へ 運ぶ蜜

 

春風の 心に届く 文字の色

 

うなされる ウイルス宿る 春の夢

 

選んだり 選ばれたりの 春の恋

 

留守がちな 表を過ぎる 春は行く

 

少女たち 花と緑の 萌え始め

 

能天気 春の広さを 上回る

 

地球上 ベストな季節 春にいる

 

地球儀を 色分けすれば ここは春

 

ひたすらに たどれる先は 秋の風

 

浮遊する 野原を雲と 思う春

 

沈みゆく 雲間に春の あの夕日

 

過去の春 重力レンズが プレゼント

 

始原より 春へとつなぐ 夢御膳

 

過剰なる 見識 春だ 文化人

 

リセットを 願う春眠 さめやらず

 

支払いは いかなる価値に 春そぞろ

 

目利きとは だれのことかと 春おぼろ

 

目力に くらくらとする この陽気

 

春ボケの 迷子になって 街を知る

 

二ケ領の 用水に沿い 春の道

 

家康も 思い出したか 春の水

 

好き勝手 春はもうまい 鞭打って

 

流星も 火球も見えぬ 春の闇

 

見損なう 落胆深し 春の淵

 

木偶の列 泣いて蹴倒す 春の夜

 

数あれば 思わぬ春の 友来たる

 

眠られぬ 春の夜に見る 白昼夢

 

小突き合う いさかいもある 春の内

 

ちと怒り うんと笑って 春うらら

 

度量衡 狭量な胸 開け春

 

売り物を わずかに並べ つつじ園

 

藤棚に 透けて見えるは 淡い恋

 

自らを 否定するよな 春寒し

 

目覚めても 春は春なら おれはおれ

 

如意棒を 宇宙の果てに 春の夢

 

回転は 春のしずくの 甘い水

 

春の目よ 零れ落ちける 我が涙

 

急所とは 霞も雲も 定めなし

 

疲れては 眠るしかない 春の夜

 

物憂さに 兎飛び出す 春の夢

 

素粒子を 魔法の指で 春の指揮

 

絵も音も 文字も描けよ 春景色

 

マスク越し 隔靴掻痒 春おぼろ

 

居直りて 開き直りて 春凌ぐ

 

激情を すこしあやして 春の午後

 

さようなら また会う日まで 春の内