南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

春の雨

 

春の雨

雨は降る 景色は煙り 風も吹く 家々に聞く ため息深し

この雨も やがては上がる 空晴れて 窓より遠く 稜線を見る

くつろいで 過ごすつもりの 一日も 明日の予定が 立たぬ苛立ち

くりかえし 沈む気持ちを 励まして 浮かぶ不安を 笑い飛ばそう 

嘆きつつ 憂いを流す 春の雨

この道は いつか来た道 ハナミズキ

親密に なれない世間 八重桜

鶯の 声をまた聞く 兎坂

ぬかるみを 歩き続けて 日は暮れる 春の嵐に 芯から冷える

強風と 大雨の降る 予報あり 身を縮めこめて ひっそり暮らす

荒れ模様 過ぎれば嬉し のびやかな 春の日差しを 浴びてくつろぐ

うららかな 春は満ち来る わが家にも まぶしき光 消えることなく

目を閉じて 夢みる人は ふわふわと 無菌の園へ 誘われていく

ありえない これが現実 迫りくる 危機は過ぎよと ただ祈るのみ

春の風 肌寒く吹く 山野辺に 隠れ花咲く 離れ里あり

おだやかな 晴れの日のあと 風強く 一時雨降り 曇りの空へ

常ならば 目は口よりも 物を言う ゴーグルした目と マスクした口

心配に 押しつぶされる 心肺の 鼓動激しく 息吐かんとす