水平線の向こうを想像する
空の消えゆく先を想像する
記憶のうすれゆく縁を想像する
かすかな風の音が途切れる丘陵を想像する
すれ違ったひとのマスクを外した顔を想像する
窓辺に訪れたのはハクセキレイだったと想像する
走り去っていったのははだれの飼い犬だったのか
同じ時を生きている人々が罵り合うのを想像する
距離を縮めるのは勇気があるか恋に落ちたひとだと想像する
一歩前進二歩後退とつぶやく隠居を想像する
砂漠の彼方へと足跡は消えたと想像する
タイムマシンは不可能だと言う学者の論理を想像する
もはや感性に任せるしかないとうそぶく料理人を想像する
考古学者が歩き回って突き止めた遺跡の地層を想像する
花が咲いたころに亡くなったひとを想像する
天変地異を克明に記した資料を収めたアーカイブを想像する
すべては途中でしかないと見切ったひとを想像する