南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

途中

水平線の向こうを想像する

空の消えゆく先を想像する

記憶のうすれゆく縁を想像する

かすかな風の音が途切れる丘陵を想像する

すれ違ったひとのマスクを外した顔を想像する

窓辺に訪れたのはハクセキレイだったと想像する

走り去っていったのははだれの飼い犬だったのか

同じ時を生きている人々が罵り合うのを想像する

距離を縮めるのは勇気があるか恋に落ちたひとだと想像する

一歩前進二歩後退とつぶやく隠居を想像する

砂漠の彼方へと足跡は消えたと想像する

タイムマシンは不可能だと言う学者の論理を想像する

もはや感性に任せるしかないとうそぶく料理人を想像する

考古学者が歩き回って突き止めた遺跡の地層を想像する

花が咲いたころに亡くなったひとを想像する

天変地異を克明に記した資料を収めたアーカイブを想像する

すべては途中でしかないと見切ったひとを想像する