南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

令和初詠 令和元年(2019)5月~7月

令和初詠(2019年5-7月)


CMの 現場知れども 商品の 売れる店先 血沸き肉躍る
高台の 植物園より 見晴るかす 沖行く船の  針路を思う
小舟漕ぐ 水の抵抗 感じつつ 孤影は深く 湖水に沈む
おそらくは 急変するは 天候も ひとの様子も 届かぬ仕業
その知らせ 受け入れがたく 身は固く 心はやわに 崩れんとする
おいおいと 嘆いてみても なにひとつ 変わらぬことを 知りつつ呻く

ともすれば 折れんとするは 細枝の 重みに堪えず 落ちるに似たり
ペシミスト オプティミストか 泣き笑い 辛い時こそ 笑ってみせる
あそこにも ここにもあるよ エレベーター 開けば嬉し 老若男女
切迫の 順位によって なすことの 論理を超えて 自分の味方
介護士の 顔色を見る 入居者の 老いは深まり 幼稚に帰る
来るたびに 驚かされる 心身の 状況変化 老いの深まり
自らの 明日の姿を 見る心地 かくも衰え 寂しさ募る
さはされど 昇りて沈む 太陽に 照らされる日々 三度の食事
唄歌い 書道楽しむ 日課にて トイレの後の 入浴至福
愚痴を言う 手前で止めて 深呼吸 作り笑顔も 心に浮かぶ
人はみな 不完全だと自覚して 過ごす日々にも 鶯は鳴く
梅雨曇り 籠り聞こえる 鳴き声は セミと知れれば 夏は来たれる
この気持ち うまく言葉に できたとき 千年の愉楽 ここに極まる
黙々と 鉱脈探る 削岩機 掘り当てるとき 瞳輝く 
収穫の 時期は未定の 不定量 日々いそしめば 歓喜は実る
隣り合う 肘と肘とが 触れあえば 一触即発 敵意目覚める
雨傘を 押し付けられて 沁みとおる 嫌悪に濡れて 体をひねる
無視しつつ 背け合う顔 近すぎる 無辜の民にも 紅蓮の炎
鈍重な 扉のねじが 外れ落ち 閉まらぬ部屋は 恐怖の住処
怪談も ご無沙汰してる 冗談も 乏しい日々に 自撮りの変顔
現実と 感覚のずれ 大脳の 破調の徴 調整急ぐ
期日前 投票済まし 蒸し暑い 道歩きつつ 夢想に耽る
少々の 躓きあれど やり過ごし 失策粗相も 何食わぬ顔
憎しみの 錆びたナイフを 握りしめ 見境もなく 人を刺すとは
失った 大きなものと 引き換えに 手に入れたもの 小さくはあれど
流れゆく 川面眺めて 物思う 知られざるまま 消え去るものよ
常ならぬ 人世にあるを 憂うより 生きとし生ける 浮沈楽しむ
変わらざる 物はなければ さらばえて 蛇蝎のごとく 草むらを行く
お笑いに 興じる我も 聴衆を くすぐるを壷を さぐりつつ書く
物書きが 言わずもがなと 黙しつつ 言わぬが花と 山道を行く
気がかりが いっぱいになる ひとりでは こらえきれずに 投げ出せもせず
この父に この娘たち この母に この息子たち いっぱいの遺伝子
にぎやかな 子供たちだね ずれ込んだ 梅雨にも負けず 駆け回ってる
自らを 無愛想と知る 友がらと 不器用ながら 会釈を交わす
次はない 知りつつともに ためらえば 機会はついに 訪れはせず
日照を さえぎる雲を 突き抜けて 高く羽ばたく 無人の翼
ひとくくり またひとくくり 名状の し難き今日の 心身一擲
退屈は 紛らすものか 傲慢か 飢餓も苦痛も 背中合わせに
愚痴ばかり 吐き出すひとと なりはてて わずかに残る リセット本能
見極める 術などなくて 出たところ 勘が頼りの 日々の選択
見回せば 不信の笑い ばかりなり なにを信じて 生きればよいか
つつじ過ぎ 校門横の 掲示板 衣替えとある 行事予定に
下着から 上着までする 衣替え すっかり夏に なってしまった
忍び寄る 梅雨の気配を 憂いつつ 見上げる空の 透明な青
半袖の シャツ着た幼児 愛らしく 気づいてみれば 盲目の愛
きょうもまた どんなわたしに 会うのだろう 自分であって 自分じゃないから
さよならと 告げねばならぬ 日は近し 無言のままに 流れゆく川
病み上がり すっきり治癒し 金曜の 巷に混じる 一人でありたし
実印 認印 捨て印 ゴム印 訂正印 会社印 代表者印 記名押印 安心の形式
すれ違う 少年少女 笑いつつ 話し続ける 言葉が流行る
桜散り つつじは枯れて あじさいは 散らず枯れても 枝にとどまる
沈黙が 得意なわけじゃ ないけれど 言わないことや 言えないことや
自信持ち 身振り手振りで 話す人 沈黙だけが 苦手なのかな
その場所を 仕切る少女は 話上手 友達をみな 言葉でつかむ
開けない 心であれば 表情と 言葉と行為 物的貢献
唇を 重ねてみても わからない 心の奥を 開いて見せる
読唇術 読心術と 間違えて 独身同士 キスしちゃったの
風船を 膨らませたり しぼめたり 破裂するまで 待ちきれないよ
だれもみな 宇宙の一部 なにもかも 変化しかない 滅びるまでは
あらよっと 宇宙の果てに 呼びかける 一瞬にして 谺が返る
攪乱の 収まり行けば 空腹も 透き通り行く 湧水のごと
偏屈な 人も笑わす 芸人の 爪の垢でも 煎じて飲まな
日々変わる 天気のような 心身の 調子に合わせ なんとか生きる
並襟は 並じゃないねと 店員に 聞いてみたけど 迷いは解けず
いい調子 鼻歌も出る 帰り道 暑からずして なお寒からず
たわむれに リュック背負いて ふらつけば すっぽんまむし 生薬を飲む
自らを 意地悪と思う 者はなし 心優しき ひと世に満ちよ
自らを 悪人と思う 者はなし 善人ばかりの 現世であれかし
このたまは こういうふうに こう持って そんな感じで ああしておいた
聞き飽きた 憎まれ口を たたきつつ さてこの辺で 次の座敷へ
ハイウェーの つもりがバイウェー どこまでも 迷路が続く これぞマイウェー
広告は 羞恥心など 捨て去って 露出に耐える 美肌でありたし
割り込んだ 顔見てみれば ラブリーな 女性じゃないか 裏切るなかれ
この言葉 そのあの言葉 消してみる 無言のままで 川面を眺む
晴れ渡る 空の青さと 言ってみて 青とはなにか しみじみと見る
静止とは 理論の世界 現実は 動きやまない 止めようがない
初夏の 甘い空気を 踏み台に 大きくジャンプ 空飛ぶダンボ
からからと 笑い飛ばして 駆け出して 川のほとりで つまずいて落つ
強がりは 誰に向かって するものか 連休明けの 空は曇りぬ
自虐的 妄想の海 加虐的 底なし沼に 毒舌を入れ
十連休 いろいろあった 過ごし方 気づいてみれば 人ごみの中
両家族 おもちゃ売り場で 出会ったと スマホで寄せる 証拠の写真
この胸の どこに嫌われ 虫が住む 小異を捨てて 高く飛び行け
ふと見上ぐ 空の彼方に 翼あり 重たい心 乗せて飛び行け
夢のごと 逃げる人影 追い詰めて 切り捨てごめん とどめ一刺し
生来の ひねくれ坊主 引き連れて 草地の上を 裸足で走る
初夏に 誘われる人 思い出の バラの彩り 重なる香り
風邪薬 飲めば睡魔が 訪れる 巣窟を出で 夢の園へと