南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

水田安則詩集『夏のこども』

水田安則詩集『夏のこども』。息子夫婦が別居して孫の姉弟がその母と暮らしはじめる。小学生の姉弟が次第に成長する姿が丁寧に描かれるが、その境遇に打ちひしがれるのは孫以上にジジである自分の方らしい。「夏のこどもはやがて/夏の若人へと羽ばたく/さびしく老いぼれてゆくぼくらをしり目に」。

初夏に寄す

In early Summer
初夏に寄す
Dogwoods are talking with cherry blossoms,
 Remembering an old story,
Two countries presented each other
their respective lovely trees.
ドッグウッド 桜とかわす 物語
In early summer,
A helicopter is flying over the sky,
Along the edge of uneasiness.
初夏の 不安の縁を かわすヘリ
The summer shines over the park,
Mothers are talking.
And children are having fun.
夏日射す 空き地ママ友 子は騒ぐ
Spring has gone,
Summer has come.
Children are running around
春過ぎて 夏来たる裸子 駆け回る
Stops a moment.
In front of a fence,
Along which Spirea flowers are in bloom.
こでまりの 垣根のそばで 立ち止まる

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』

竹内敏喜詩集『夢みる宝箱の冬』。圧倒的な詩想の豊かさとそれを表現する知識や言葉の該博さに驚嘆する。「ヴォルフィー変奏」と「蛇足から」の二部構成。日常生活、歴史、文学、音楽、科学、哲学等大きな引き出しから文明批評、時代認識、未来予想等が箴言のような趣のある詩篇として繰り出される。

大家正志詩集『しずく』

大家正志詩集『しずく』。孫娘らしい「しずく」の0歳から7歳までの成長記録。日常生活の中でのしずくのしぐさや言葉を愛情深く見つめる祖父の視線とともに、著者自身の物理学的関心や人間存在や宇宙のさまざまな事象への深い問いかけを融合させた不思議な世界を創り出した魅力的な詩集となっている。

池田康詩集『ひかりの天幕』

池田康詩集『ひかりの天幕』。この世にあることの不安や不穏な感覚を縦横無尽のイメージと語彙と言葉遊びを駆使して詩に体現させている。どこか芝居の一場面のような情景の設定や見栄を切るようなセリフが深刻な中にも笑いを呼び起こす。幅広い知識と経験が詩に深さと厚みを与えていて読み甲斐がある。

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』

柊月めぐみ詩集『星降る森の波音』。緻密な現実観察が幻想的イメージへと移っていく。知的で上品で想像力に富んだ詩の構成や豊富な語彙や言葉の使い方が読者を様々な世界へ連れて行く。キーツを始め英詩にも通じた教養の広さがロマンティックな詩空間を創り出している。「松煙の聲」に特に惹かれた。

立花咲也詩集『光秀の桔梗』

立花咲也詩集『光秀の桔梗』。関西弁でなされる家族との会話がなんとも軽妙で思わず笑ってしまう。実際にあった話をもとに巧みに詩作品に仕上げてしまう力量は大したものだ。しかも笑いを通して感じられる人生の喜怒哀楽や生老病死への鋭い洞察にも感心させられる。光秀のエピソードも一味添えている。