南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れ』

日原正彦詩集『主題と変奏ーポエジーの戯れー』。「くそまじめな言葉の仕事から離れて、言葉と遊んでみたい、戯れてみたい」という意図の下、「悲遊曲」「かのん」「うた(立原道造へのオマージュ1~5)」「誕歌 嘆歌 啖呵」「主題と変奏」「路上(本詩取り詩篇)」等で思い切り遊んでみせる。

大谷選手の結婚を祝って

 

『大谷選手の結婚を祝う』
春匂う ビッグ・ヴァレーの ファンファーレ
そっと寄せたい 祝いの言葉
 ある線を 超えればひとり 彷徨いて
疎外のグラフ 手探りで描く
感覚は 説明不能 デリケート
依拠するものは ほかになければ
ただひとり 粋に感じる 色合いを
頑なまでに 守る筆先
冬去りて 裏の細道 ぶらつけば
ここから先は 春のきらめき
湧き出づる 秘密の泉 水汲めば
憂さを忘れて 力漲る
溺れ谷 涸れ谷魔谷 隠れ谷
ビッグ・ヴァレーに 谺が響く
月移住 一日一週 一月は
どんな暦に なるのだろうか
予想外 降り出す雨は 春雨と
傘もささずに 男を気取る
無口でも 黙り続ける 胸中は
すっからかんの 食料置き場
激流の 小舟に乗って 下り行く
映像の主 リアルの自分

春の空

 

    春の空

 

口喧嘩 決裂までは 行かぬ春

言う言わぬ 齟齬の寒さも 春遠し

好きだよと 言ったことなし 春まだき

ガムランの 夢に鳴るのか 時は春

どうしても おれは消せない 春の火事

そろそろと ドルチェの似合う 春近し

本当は 言えないことの 春クレド

たいせつな 視野は乱すな 春の風

祈る空 ここだの春の 乱れても

ドローンに 埋め尽くされる 春の空

ずっとずっと 泣いているよな 春まだき

錯乱を 詫びる間もなく 寒戻る

負い目なき 一日を生きる 寒の土

狂乱を 教訓にして 春うらら

独り言ち はらりと落ちる 冬一葉

朝来れば 夕べを思う 春を待つ

風来坊 途中の春は 風任せ

すれちがい 途方に暮れる 春何処

 

深遠な 理念も言葉 無力でも いつか花咲く 未来を創る

吉田隶平詩集『青い海を見た』

吉田隶平詩集『青い海を見た』。人生の終わりを意識しながらも紡ぎ出される言葉はおだやかだ。静かに自分の人生を振り返りさまざまな出会いや出来事を思い出す。「何かをしなくてはいけないか//森の木が/陽の光を浴び/風にそよぐように//ただいるだけでは/いけないか」(「時を忘れて」全篇)。

良くも悪くも


   良くも悪くも

良くも悪くも 自分は自分。
愚かでも 弱くても 貧しくても 
それ以上でもそれ以下でもない。

ぼんやり考え込んでいるうちに
すっかり日は暮れて
鏡に映るのは白髪しわだらけの老人だ。

「時間を大切に!」と若者によびかけ
自分は自分の日々を生きるために
ちょっぴりの元気を奮い起こす。

冬と春のスパイラル

 

   冬と春のスパイラル

 

酔い覚めの 唯我独卑か 春の夢

世捨て人 眠る孤底の 水ぬるむ

夢先の 湖底に眠る 春の魚

飛び出して 名のみの春に すくむ足

冬の海 魚人となりて ひれを打つ

嘘ばかり 尽誠を吹く 春一番

化石似の アンコウ鍋に 時忘れ

疑似涙 仮病しりごみ 春芝居

身は魚類 心は春の 夢遊病

姿なき 命の声か 春霞

深海の 暗き淵より 春の泡

氷山の 真冬を染める 活火山

着て脱いで ゆるく立ち去る 冬の影

下手な比喩 春の嵐を 引き起こす

虚飾捨て 身を捨てて吹く 春の風

四月並 嫌う言葉よ 今二月

季節感 言いようのない 四季を去る

昨日春 今日は冬かと 確かめて

寒暖の 上り下りは 冬外れ