吉田隶平詩集『青い海を見た』。人生の終わりを意識しながらも紡ぎ出される言葉はおだやかだ。静かに自分の人生を振り返りさまざまな出会いや出来事を思い出す。「何かをしなくてはいけないか//森の木が/陽の光を浴び/風にそよぐように//ただいるだけでは/いけないか」(「時を忘れて」全篇)。
冬と春のスパイラル
冬と春のスパイラル
酔い覚めの 唯我独卑か 春の夢
世捨て人 眠る孤底の 水ぬるむ
夢先の 湖底に眠る 春の魚
飛び出して 名のみの春に すくむ足
冬の海 魚人となりて ひれを打つ
嘘ばかり 尽誠を吹く 春一番
化石似の アンコウ鍋に 時忘れ
疑似涙 仮病しりごみ 春芝居
身は魚類 心は春の 夢遊病
姿なき 命の声か 春霞
深海の 暗き淵より 春の泡
氷山の 真冬を染める 活火山
着て脱いで ゆるく立ち去る 冬の影
下手な比喩 春の嵐を 引き起こす
虚飾捨て 身を捨てて吹く 春の風
四月並 嫌う言葉よ 今二月
季節感 言いようのない 四季を去る
昨日春 今日は冬かと 確かめて
寒暖の 上り下りは 冬外れ