南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

南川優子の詩を読む(その2)

 南川優子のホームページから、「テーブルクロス」を紹介したい。

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    テーブルクロス


あなたを思いながら
庭を眺めるダイニングルーム
洗いたての 白いテーブルクロスを
たたむ
職場のあなたは 今ごろ
ディスプレイの中の設計図を見つめ
点と点を
つなぎあわせている
わたしの仕事も
あなたと同じぐらい
精密だ
四つ折にした布の
ふちをそろえ
倍数に折りたたんでいく

庭の 白いバラが
首ごと落ちている
花びらはやがて腐り
土に溶けるのだろう
わたしは布の折り目を
手のひらで押さえる
正確な四角
満ち足りて 手を離すと
布は抗い
見る見るテーブルをおおう

粉石けんの香りが
テーブルの木の香りに
巻かれ
四角い折り目が 碁盤の目のように
連なっていく
布を 指でたどると
庭で死んだはずの バラの首が
みっつ よっつと
四角の中から浮かぶ
萼から 花びらが絶え間なく
押し出され
互いを 窒息させると
茶色くなって
再び死を迎える

あなたが帰宅するころ
布の折り目は 消えていて
おとなしくテーブルを
包んでいる
その上に わたしは
輪切りのフランスパン
チーズの皿を置いて
グラスに赤ワインを注ぐ
あなたの手は
パンをちぎって
パンくずを落とし
赤ワインをこぼして
テーブルクロスにしみをつくる

Dorothea Tanning Some Roses and Their Phantoms を見ながら

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 この詩は、内容、構成、レトリックともに、非常に洗練されている。

 たぶん、完成度という点から言えば、トップクラスにはいる作品だと思う。

 おだやかな家庭生活。夫は精密な設計図を書く仕事をしているらしい。

 妻は、家できっちりと家事を行う。

 テーブルクロスの折りたたみ方や折り目、それを広げてテーブルにかける流れは

 手品を見ているような美しさがあって引き込まれる。

 いかにも幸福そうな生活の上にも、首ごと落ちた庭の白いバラがかげを落とす。

 仕事から帰ってきた夫とゆっくりと食事を楽しむだろう。

 赤ワインとフランスパンとチーズ。

 しかし、そのかげには、いつこの幸せが失われてしまうかもしれないという不安がかくされている。

 真っ白いテーブルクロスの上にこぼれた赤ワインがそうした不安を浮き上がらせる。

 実に巧みなエンディングだ。

  女性らしい繊細さと清潔さと折り目正しさが。詩にほどよい緊張を与えている。

 幸福は永遠に続かないのだという思いが痛感できる。

  なにげない場面となにげない材料だけでこれだけイメージがふくらむ作品はめずらしいと思う。

 この詩もまた、傑作と言ってよいのではないだろうか。