南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『 金融危機その後 』

  
 『 金融危機その後 』


 昨年秋の金融危機の世界経済への影響は予想以上に大きいようだ。

およそ世界の主要国で、景気がいい国は一国もなさそうだ。程度の差こそあれ、いずこも、不景気や倒産や雇用不安にあえいでいる。やはり、百年に一度の不況というのは過大な表現ではないようだ。

 日本の経済指標を見ていても、前年比、前期比などが大きなマイナスになっているという指標ばかりが目に付く。戦後最悪の事態と言ってよい。

 そこで、政府もさまざまな対策を講じているが、与野党の攻防により、予算も法案もなかなか成立していない。これはまずい。しかし、これが民主主義に基づく今の日本のシステムだから、その中で少しでもいい結論が出るように世論が圧力をかけるしかない。

 それもまた異なる多数の意見の間の競争ということにあいなるので、事態はややこしい。

 景気対策という大きな目標の中で、いくつか気になる出来事も発生している。

 たとえば、中川前財務大臣の辞任のことだ。

 ローマまで忙しい中を駆けつけて、日本としての立場をしっかりと主張し、国際的な協調に努めようとした努力は否定しないが、その中であのような記者会見をしてしまったのはまことに遺憾であり、本人も慙愧に堪えないであろう。

 予算成立を待たずに辞任したのは当然だと思われる。
 こうした予想外の事態はこれからもいくつか発生すると思われる。

 そのつど最善の判断をし、対応をすることが求められる。

 麻生総理は、忙しい中を、オバマ大統領に招かれて、アメリカにとんぼ返りの訪問をした。オバマ就任後最初にアメリカを訪れた首脳ということで日本の顔を立てたのだろうが、晩餐会の機会ももてない殺風景な首脳の顔合わせと言えなくもない。ともあれ、訪米は無事に済んだことは両国にとっても両首脳にとってもよかったと言えよう。

 さまざまな声が飛び交う中で、麻生総理に期待されることは、原点を忘れないでほしいということだと思う。
 つまり、金融危機対策は、昨年秋以来さまざまな施策が講じられつつあるが、とにかく基本的な施策を着実に実施することが肝要である。

 復習すれば、施策は、大別して、

 1. 金融安定化策
 2. 景気刺激策
 3. 雇用安定化策

 の三つである。

 さらに、国際協調という観点が不可欠の視点であろう。

 これらの施策は、国の予算成立が必要なもの、関連法案の成立が必要なもの、日銀や日本政策投資銀行などを通して国会の承認を要せずして実施できるもの、などに分かれる。

 資金供給については、国会の承認を待たずにできる施策もある。金利水準の設定や資金の供給などである。
 
 国会の承認を得る必要のある施策については、与野党の折衝を通じて一刻も早い実施を期待するしかない。マスコミや国民の世論がさまざまなツールを通じて政治にものを申すことも有効だろう。

 金融危機はいまや実体経済に深刻な影響を及ぼしている。こういう緊急事態においても、ルールを守ることは不可欠だ。いらいらしながらも、国会の成り行きを見ている多くの国民がいる。失業や生活不安のどん底で絶望的な気持ちで与野党の攻防を見守っている多くの国民がいる。

 麻生総理は、とにかく基本的な施策の実現のために最大限の努力を傾注してもらいたい。ある程度の妥協や修正はやむをえないだろうし、若干の遅れが生じることもありうるだろう。

 全力をつくしてもうまくいかなければ、解散総選挙もありうる。民主党政権の誕生もありうるし、自公が政権を取り返すこともありうるだろう。

 それが政治というものだろう。

 しかし、日本という船が浮かび上がって順調に航海できるかどうかは、かなりの部分政府にかかっていると言える。国民も一体となって、危機を乗り切る努力をする必要がある。おそらく、すべての国民が同じ意見でまとまることはありえないにしても、可能な限り協力しあうことはありうることだと思う。

 世界全体もまた協力協調を強めて、沈没をまぬかれるような努力をしていると思う。日本も世界の一員として最大限の努力が求められていることは言うまでもない。