南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

村田諒太の言葉

村田諒太は、2022年4月9日のWBAIBF世界ミドル級王座統一戦でゲンナジー・ゴロフキンに敗れたが、互いにリスペクトしながら死闘を繰り広げたのは称賛に値するものだった。
 
後日、あるテレビ局のインタビューに応える中で、村田諒太は、「人は桜の花にばかり目が行くが、桜の花を咲かせるのは幹であり根だ。ボクシングも試合は花だが、闘うのは人間だ。花を咲かせる人間力が大切だ。」というようなことを言っていた。
 
文学にも同じようなことが言えるだろう。「詩歌や小説は花だが、それを咲かせるのは作者だ。作者が地道な努力を続けて強靭な根を張り幹を太くすることではじめて美しい花を咲かせることができるのだろう。」

 

岸本嘉名男詩集(新・日本現代詩文庫)

『岸本嘉名男詩集』(新・日本現代詩文庫)。地元せっつへの愛着をベースに書かれたさまざまなスタイルの詩。一貫しているのは誠実な人柄が観察し経験した多くの事柄だ。英語に訳した詩も興味深い。萩原朔太郎の研究書もあり、幅広い活動は着実な成果を上げている。CD化された『沖縄の女』もある。

シェークスピア ソネット 137

 

ソネット 137

 

       W. シェークスピア

 

 

盲目にしておバカさんのキューピッドよ、おまえはわたしの目に

何をしようというのだろう

わたしの目は世間を観察しているが、見ていることさえ見えないと思わせることだろうか?

わたしの目は美が何であり美がどこにあるのかを知っているのに

最悪のものを最良のものにとりちがえてしまう、

もし目が余りに誘惑的な容貌に眩惑されて

あらゆる男がたむろする湾に錨を下ろすなら

わたしの心の分別が結び付けられているフックを

おまえはなぜ目の偽りから造り上げたのだろうか?

わたしの心はそれが広い世間の共有地であると知っているのに

なぜわたしの心がそれを私有地であると考えなければならないのだろうか?

あるいはわたしの目は そのことを見ていながらそうではないと言うのだろうか?

そんなにも醜い顔に美しい真実を塗るために、

正しいものや本当のものの中にありながらわたしの心と目は誤りを犯してしまった

そしてそれらは今やこの偽りの疫病へと引き寄せられてしまった。

 

 

 

Sonnet CXXXVII

 

        W. Shakespeare

 

Thou blind fool, Love, what dost thou to mine eyes,

That they behold, and see not what they see?

They know what beauty is, see where it lies,

Yet what the best is take the worst to be.

If eyes, corrupt by over-partial looks,

Be anchored in the bay where all men ride,

Why of eyes' falsehood hast thou forged hooks,

Whereto the judgment of my heart is tied?

Why should my heart think that a several plot,

Which my heart knows the wide world's common place?

Or mine eyes, seeing this, say this is not,

To put fair truth upon so foul a face?

   In things right true my heart and eyes have erred,

   And to this false plague are they now transferred.

細田傳造詩集『まーめんじ』

細田傳造詩集『まーめんじ』。子供時代のこと、韓国のこと、孫のこと、筑波山のこと、パリのこと、なにを書いても巧みな話術に引き込まれてしまう。下世話な事や俗っぽい事が多くてもユーモアとたしかな人生への洞察力が読者を上質の詩の世界に連れて行ってくれる。思わず笑いがこぼれる至福の時間だ。

望月遊馬詩集『燃える庭、こわばる川』

望月遊馬詩集『燃える庭、こわばる川』。広島の地形をなぞり伝承に分け入り自らの物語を形作ってゆく。切なくも悲しく美しい時空を呼び覚ますために、自らの思い出は伝承と一体化し新たな神話がポリフォニックに無限旋律の波のように語られる。被爆者への鎮魂曲通奏低音のように聞こえて肺腑を抉る。

美容師

 

       美容師
 
ある映画の原作を読んだら夢中になってしまった
どんなに調べたり取材をしても限界があるから
その先は想像力が勝負なんだろうね
美容師は話術に長けていて
見た目だけでなく内面を飾るのも巧みなので
世間話で盛り上がらせ
かっこよくなったと満足させる
またねと言って帰る客の心はお見通しだろう