南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

マーサ・ナカムラ詩集『雨を呼ぶ灯台』。

なんという想像力と創造力の持ち主だろう。

巧みな語り口に感心している間に現代の中に隠れている異界へと誘い込まれてしまう。

怖いもの見たさをくすぐられる。

家族や近所や学校や電車などありふれた日常がちょっとしたきっかけで異常な光景や暴力や狂気や死や赤ん坊や口を利く犬などの出現によって恐怖の世界に変わってしまう。

文体は散文的ながらストーリーは緊張感をもってよどみなく場面転換も巧妙である。

物語はおもしろいが小説とは違った飛躍が詩としての雰囲気を醸し出す。

溢れるイメージや言葉の豊かさはまれにみるものがあり、

次々と生み出される詩の多様性と意外性と言語表現のレベルの高さは驚くばかりである。

これだけの粒ぞろいの詩作品を書き続ける勢いとレベルアップの潜在力は驚嘆に値する。

「出せ」という詩はこの詩集の中で最も長く詩のエネルギーを強く感じさせる力作だ。その他の詩篇もそれぞれに味わいがある。

「新世界」は、宇宙船で水星に行く話だが、英訳が添えられているのが興味深い。

ふしぎなのは、詩集のタイトル『雨を呼ぶ灯台』という詩がないこと、そういう詩句もないことである。雨が降る情景はしばしば現れるのだが、どうしてこういうタイトルを付けたのか考えさせられる。

いずれにしても、マーサ・ナカムラは前詩集『狸の匣』からさらに進化を続けており、今後益々発展することが期待される。たぐいまれな詩才を惜しみなく花咲かせてほしいと心から望むものである。