南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

あらためて、「鈍感力」(渡辺淳一著)を推す!!!

渡辺淳一(敬称略)は、ぼくの尊敬する作家である。
いつも人間の本質的なテーマに立ち向かう。
大胆にして繊細。
取材も念入り。
たとえば、「愛の流刑地」でも、愛の絶頂で恋人を絞め殺すに至る状況を仔細に描写している。
医学的に、そしてまた法医学的な観点からも。
もちろん、検事や弁護士の役割。裁判の様子。被告人の立場から囚人の立場への移行による状況の変化。刑務所での生活の様子。手紙のやりとり。テレビや新聞が自由に読めない。面会の様子。など、相当勉強しなければ正確には書けないことばかりだ。
ストーリーの展開に当たって、綿密な取材を心がけていることが読み取れる。渡辺淳一は医学部出身、ぼくは法学部出身だが、法律の現場については、渡辺淳一のほうが詳しいかもしれない。
スキャンダラスなテーマ設定や大胆な描写によって話題にも上りやすいが、聡明な渡辺淳一のことだから、計算済みだと思う。そういう意味でも「売り込み」方まで天下一品だ。
小説も抜群のうまさだが、実は、エッセイの名手でもある。最近出た「鈍感力」は、ベストセラーになっているようだが、当然のことだと思う。さらっと読めるが、内容は深い。生き方への大きなヒントを与えるものだ。もともとは、「PLAYBOY日本版」に連載されたものらしいが、おそらく、PLAYBOY誌では、読者は限られていただろう。単行本として、だれでも気軽に手にとれるようになって、爆発的に売れたということだろう。それにしても、相当の筆力がなければそんなに売れるはずはない。小説との相乗効果もあっただろう。さらには、小泉前首相の安倍首相に対するアドバイス=「いろいろな批判に対して『鈍感』でなけりゃ首相は務まらないよ」=がマスコミで報じられたのも大きなプラスだったかもしれない。最近、「鈍感力」を読み返してみて、やっぱり面白いと思った。まだ、読んでない方がいたらぜひ読んでみることをお勧めします。それによってぼくは一円ももうかるわけじゃないですけどね(笑)。
渡辺淳一は、講演会の講師としてもひっぱりだこのようだし、最近では、テレビのコメンテーターとしても活躍している。ご同慶の至りである。
ぼくの心の中では、渡辺淳一は、文学の師であり、人生の師である。
いつか直接会える機会があればいいなあ!と鈍感にも願っているしだいである。
師のますますのご活躍を祈りたい。