南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

ダニエル・バレンボイム

 最近、NHKのハイビジョンで、不定期ながら、バレンボイムによるベートーベンのピアノソナタ全曲演奏会のもようが、放映されている。まだ生演奏は聴いたことがないので、最終的な評価はさしひかえたいが、これまで、6回にわたる放映を見た感じでは、傑出した演奏だと思う。

 ベートーベンのピアノソナタは32曲ある。それを全曲演奏するということはたいへんなことだろう。才能と意欲と運がそろってはじめて可能になるのだろう。

 2005年6月から7月にかけて、ベルリン国立歌劇場でライブ録音されたものだ。

 どこがすごいのだろう?

 ・音楽の解釈が深くて正確。

 ・作曲家の意図を読み取る力。

 ・いくつかの楽譜にもとづく演奏法についての精密な研究。

 ・演奏技巧がきわめて高い。

 ・強弱がほどよい。

 ・リズムやテンポがほどよくて正確。

 ・調性や和声の意味を的確に把握。

 ・細かい部分にも細心の注意をはらう。

 ・クレッシェンド、シンコペーション、レガート、間、といった技術的な正確さ

 ・リラックスした姿勢とやわらかな指使い、タッチ

 ・音楽の全体的な構築力。

 ・聴衆への快感の提供

 など、ほかのピアニストを上回る総合力があると思う。

 指揮者としても活躍しており、それが音楽の解釈を深くし、ピアニストとしての力量を高める効果を上げているのかもしれない。

 1942年アルゼンティン生まれ。10代でイスラエルに移住。ユダヤ人として、パレスティナ問題に取り組んだり、ワーグナー音楽の演奏をめぐってイスラエル国内で批判にさらされたり、困難な立場に置かれながらも、情熱的に音楽活動を展開している。

 最初の妻は、ジャクリーヌ・デュ・プレ。才能あるチェリストだったが、不幸にして病魔に冒された。
再婚した相手も音楽家で、子供をもうけたそうだ。

 バレンボイムの天才的な才能は、モーツァルトを連想させるものがある。
 作曲家と演奏家のちがいはあるが、早熟で、早くから才能を発揮し、認められた。

 バレンボイムは、65歳。さいわい夭折することなく元気に指揮者としてまたピアニストとして活躍を続けている。 ますますの活躍を期待したい。

 この秋には来日が予定されており、ぼくも、演目のひとつである、「トリスタンとイゾルデ」を観にいくのを楽しみにしている。できれば、ピアノ演奏を聴く機会もいつか持ちたいものだ。

 CDやDVDも発売されるだろう。
 バレンボイムにのめりこみそうな予感がしている。