南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

福岡伸一「生物と無生物のあいだ」

 福岡伸一は、京都大学ハーバード大学等で分子生物学の研究を行ってきたたいへんなエリートであるようだ。

 しかし、この新書版で出版された「生物と無生物のあいだ」では、素人にも実にわかりやすくかつドラマティックに医学の最先端の情報が紹介されている。

 ひさしぶりに本を読む興奮を覚えた本だった。

 福岡伸一は、文学的な才能も豊かだ。詩や小説を読むように、分子生物学の世界に連れて行ってくれる。

 そこには、さまざまなエピソードが紹介されている。
 たとえば、野口英世のこと。彼の評価がアメリカではいかに低いかを知って愕然とした。

 遺伝子の本体がDNAであることを見抜いたエイブリーのこと、
 DNA複製技術を発明したマリスのこと、
 ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の発表にまつわる暗いうわさ、
 生命とは何かということへのシュレーディンガーの問いかけ、
 生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れであることを見抜いたシェーンハイマーのこと、
 福岡自身が経験した「細胞膜のダイナミズム」についてのはらはらどきどきの研究成果、
 などなど、
 ミステリー小説を読むようなおもしろさで一冊の医学入門書を読み終えてしまう。

 今回のノーベル医学賞の受賞者は、ノックアウトマウスについての研究が評価されたようだが、そのへんの情報もくわしく紹介されている。

 この本の最後に、福岡は、「私たちは、自然の流れの前に跪く以外に、そして生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはないのである。」と書いている。

 最先端の研究者であるがゆえの謙虚さということだろう。そういう姿勢にも共感を覚えた。

 ポエジーのわかる医学研究者、福岡伸一
 新たな才能の開花を歓迎したい!