南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

詩について思うこと(その2)

 「詩について思うこと」の続きである。

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 六.詩はだれのものか

 一般に商品は消費者に購入されてはじめて、その目的を達成します。商品の場合は、生産者がその技術やデザインや使いやすさなどの優越性を誇りに思うことはあっても、究極の決め手は、「売れるかどうか」だと言ってよいと思います。
文学作品について言えば、小説の場合は、ベストセラーになるとか、流行作家になるとか、有名になり原稿料が稼げるとか、そういう観点がある程度明確になっていると思われます。そういう名声と実益は、主として、商品としての本が売れることを通じて獲得されるわけですから、小説は第一義的には、やはり読者のものだと言ってよいのではないでしょうか。
けれども、ふしぎなことに、詩の世界では、少なくとも今の日本の場合においては、ほとんどの詩が売れない状況にあるのではないでしょうか。原稿料をもらって詩を書くのでなく、掲載料を支払って詩を発表する場合がほとんどだと思われます。そこに詩にかかわる美点もあれば弱点もあるのではないでしょうか。つまり、すぐれた商品が市場機構を通じて選別されるという場合が少なく、いわば「玉石混交」状態が維持されやすいということです。最近書かれた詩の中にもすぐれたできばえのものはないわけではありませんが、残念ながら、多くの詩は平凡なレベルの仕上がりとなっているような気がします。詩は、小説に比べると、比較的短時間で書け、発表もしやすいです。仲良しクラブのなかで、生きがいを見つける手段として機能していると見ざるをえない場合も多いのではないでしょうか。その状況をどう見るかはひとによって異なると思いますが、詩は読者のものであるという意識は小説の場合よりも希薄なのではないでしょうか。

七.詩の評価

 詩がひとつの文学のジャンルであるとすれば、きちんと評価することが求められると思います。これまでにも、詩の評価についてのさまざまな視点や基準や考え方が示されてきましたが、元来、自然科学のような客観的な法則や基準は不可能でしょう。それでも、できるだけ説得力のある評価基準のようなものを持とうとする努力は必要だと思われます。ワインの格付けのような評価方法や実際にワインを飲んで評価するソムリエのような役割が詩においても望まれるところです。好き嫌いを超えた判断基準がなければ、芸術の発展はないと思うからです。
 私見によれば、詩の評価は、要約すれば、「第一に、人間や社会への洞察力、第二に、それにふさわしい表現力」が満たされているかどうかをチェックするということになるのではないでしょうか
 人間洞察については、あらゆる社会事象への関心と活き活きした感受性の維持が必要とされます。
 また、表現力については、表現技術の鍛錬が必要とされると思います。

八.おわりに

 以上、思いつくままに、わたしが最近詩について思うことを書いてきましたが、理屈ではいろいろ言えても、実際に詩を書くことはとてもむずかしいことだという実感があります。だからと言って、鹿爪らしく詩作をするのもどうかという思いもあります。
どうせ、詩を書くなら、芸術性もさることながら、おもしろいものであってほしい、エンターテインメントの要素も欲しい、『生活』する人間の感性と言葉を基礎として、その喜怒哀楽を的確に表現したい、朔太郎の言ったような「新しき欲情」を現在においても求めたい、さらには、詩を書くことを通じて、常に「真理を見抜く眼力」と「自由で偏見のない精神」を確保したい、自分の独自性を見出す中で普遍性も実現したい、等々いろいろな願望が沸き起こってきてしまいます。そういう願望を少しでも実現できたらうれしいですよね。
最後に、わたしがさまざまな詩作品に触れるたび、また、自分で詩を書くときに、しばしば感じることを述べたいと思います。
それは、詩作についての基本的な技巧を再認識する必要があるということです。最近の詩作についての一般的な傾向としては、シリアスな内容をとりあげることに気をとられる余り、言語技術がおろそかになりがちであることが指摘できるような気がします。もう一度、自分の書いた詩作品を技術的な面から再チェックする必要があるように思います。
 たとえば、起承転結、イメージの展開、比喩、倒置法、リアリティ、象徴性、ユーモア、エスプリ、風刺、新鮮さ、意外性、現代性、遊び感覚、テーマと文体の適合性、最適な言葉の選択、一字一句の細部に至るまでの吟味・推敲、レトリック、適切なリズム、過不足ない分量等が的確に配慮されているかどうかをチェックするということです。
このような諸点が、いま現在わたしが詩を書く際に自分に言い聞かせていることであり、こうしたポイントをチェックしつつ、これからも、自分なりのこだわりと情熱をもって詩作を続けられたらいいなと思っています。詩を書かれる方々、詩を読まれる方々、さらには、詩にあまり関心のない方々を含めて、親しくお付き合いをいただければ幸いに存じます。どうぞよろしくお願いいたします。