南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

句集『あきらめの夏』

  句集『あきらめの夏』

   
   (あきらめの夏)

これでもか お化けを見ても 魂消ない

もうろうと 魔羅炎天に 誘われず

しんねりと ふて寝の野猿 雷落ちて

  (夏女・夏男)

とりあえず 善男善女 浴衣がけ

花火って 胸キュン空で ぱっと散る

水平線 おまえに決めた 水着っこ

   (不意打ち)

不意打ちの 鞭重なれば 夏に伏す

涙涸れ 血走る目にも 夏の汗

めまいして 黙す真夏に ねじ切れる

   (夏のイメージ)

発掘隊  そろりと掃う  炎天下

乱流の  ごとくに夏を  もてあそべ

地は揺れて  深く落ち行く  夏の闇

一閃の  光が漏れて  夏の洞

噴水も  間歇的に  飛び上がる

  (猛暑日

転寝(うたたね)の つもりで熟睡 夏の勝ち

猛暑日は もうろうとして 踏み外す

また殺し 孤独な夏よ 眠りなさい

万人の 切れかかる夏 バンドエイド

傷ありて 病もありて 暑気払い

  (夏の恋)

寝ては夢  覚めてはうつつ  夏の恋

快眠と  快食ありて  夏男

ゆったりと 休むふりして 夏は萌え

一念に 炎天に立つ 棒使い

すっぱだか 猛暑に挑む 朝稽古

ひまわりの 陰でむき出す 下半身

誘い水 幻想花火 夏休み

夏の海 人魚の群れにも うごめかず

ふらふらの 頭ぶつけて 目に花火

香りにも 近寄らぬ夜 夏ばてて

食欲も 情欲も失せ 夏の果て

ただここに ひからびている 夏の虫

  (ジューシー・ゴシップ)

ゴシップは 蜜の味かも かき氷

うわさして 笑い合えれば 夏凉し

半裸人 見て見ぬふりの 夏の海

からかって あざむきあって 夏盛る

好きだよと 小声で言った 遠い夏

会いたいな ずばりと言った 近い夏

迷い子の おじさんもいる 夏祭り

とにかくも 手をとっていく 夏の夜

一発の 花火に燃える 夏休み

汗みどろ 生きる証しか 夏が好き

   (多重構造)

見えぬまま 重なる層を 抜ける夏

幾層も さえぎる視線 曲げる夏

古生層 にせの化石を 埋める夏

  (時間という薬)

時だけが いやしてくれる 夏の虚

あじさいの 花陰深し ひと逝きて

ねじれては 涙をこぼす 夏に逝く

  (酷暑荘)

意地悪も  共同住民  酷暑荘

いやなひと  だれの顔して  梅雨もよう

ひねくれて  当たらし散らして  夏をやる

しあわせは  どんなかたちか  入道雲

ふしあわせ  涙は見せぬ  すだれ越し

弱いのは  罪じゃないよね  夕涼み

   (蚊帳の外)

死ぬまでは  生きるしかない 炎天下

収穫を 上回る付け 背負う夏

この世には たったひとりで 梅雨に泣く

だれひとり 心開けぬ 夏の闇

当り散らす 猛暑の拳 空を切る

愛せない さまよう心 蚊帳の外

ぐらっと来て 梅雨びたる地を 突き崩す

  (悪夢の後)

血をぬぐう 現場を夏日 照りかえす

まちがいの 文脈ばかり  団扇振る

とりあえず つながってるよ がくあじさい

  (冷やし蕎麦)

伸びすぎた 髪をなびかせ  夏の庭

どたばたの 外出すれば  梅雨の顔

隠れ家に なにを隠して 冷やし蕎麦

   (ホラー)

ビアホール 髄までしゃぶる うろ深し

肉そいで 骨まで砕く 夏の闇

見れば汗 触れれば小水 化け屋敷

   (まんだらけ

いやなやつ いなくならない 夏だって

おれだって 奇人変人 梅雨浴びて

まんだらけ いぼを削って ベアルック

はだかんぼ 散らしておきな 熱い砂

脳漿を せせる地虫に はまだら蚊

ホルモンを 焼酎でやる 狂い梅雨
 
気の薬 やわらかな夏 来てちょうだい!