南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

小歌集「秋風に寄す」

   
    小歌集 『 秋風に寄す 』


        (オレンジの縁)

つらいなど 口にはしない シルエット 光り射す手に オレンジの縁

たいへんな 一日だけど 心して ぬくもり拾い 眠りの園へ

泣き喚く みずからの胸 見据えれば 絶海の島 おぼろに浮かぶ  


       (通い路)

秋風の 心静かに 吹き寄せて 扉は固く 通い路を閉づ

       (秋風)

紅葉より 導かれては さらさらと 光こぼれる 山里に入る

うつむいて 歩く道の端 水たまり 映るもみじ葉 揺れ浮く枯れ葉

ときたまに 憂きこと絶えて 秋風の 便りは届く 牧神の午後

      (葉擦れ)

葉が擦れて 風は生まれる 鳥たちは  花より実へと 飛び移り行く

      (フォーカス)

顕微鏡 拡大すれば 朦朧と 過ぎて戻って 確かなピント

郷愁に ひたる背中を 見て育つ 振り向いて行く フォーカスのずれ

ここを見て 今にいるおれ きみだって 遅れて来れば 切捨て御免

      (いのちの伝承)

秋の日の 光は届く 臨月の 手よりこぼれし いのちのバトン      

      (りんご狩り)

紅玉の 青空に萌え 捥ぐ指の カリウム放つ 体感覚野


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小歌集『光る秋』


      (ひかり)

限りある いのちは光 目の中に 動きの先に 涙とともに

逝きてなお こころに灯る 光あり ぬばたまの闇 照らすいのちの

ただひとり 別れも告げず 去るひとの 背中は透けて 声も届かず


     (とらわれびと)

危うさの 何かに気づく 今ここの 捕われびとは 誰とも知れず

 
     (秋冷)

ジャケットを ひっかけて来る 群衆の 小雨の中を ワイシャツで行く

とにかくも 命ながらえ 行く日々の こここのときに すがるものとは

見かけより 危ういガラス 心身の 構造機能 だれが管理す


     (花くたす)

花くたす 時の歩みに 耐えかねて 揺らぐ葉陰に 枯れ果つる枝


     (片恋)

片恋の こころ静かに 成熟の 道行き遠く 秋の日は落つ

かりそめの 恋の想いは 過ぎ去りて 朝日まぶしく 手をかざす時

恋情の 赴くままに かき抱く ひとは異国に 旅立ちしまま

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