南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

異なった価値観は常に存在し続ける(価Ⅱ=40)

  【異なる価値観は常に存在する】(価値観の研究第二部 その40)


1.ことし(西暦2008年、平成二十年)の世界経済は、アメリカの金融危機に端を発して、全世界を巻き込む史上稀な不景気に突入した。

 幸い、過去の大恐慌バブル経済の破綻という経験を教訓として、世界各国が協調してこの難局に対処しているので、とりあえず最悪の事態は回避できそうに見える。しかし、経済は人知を超えた要因もあるので、楽観は許されない。

 日本を見ても、麻生内閣は、金融安定化策や景気刺激策や雇用安定策などを逐次展開して最大の努力をしているといってよい。もちろん、与党内にも異なる意見の持ち主はいるし、野党が対決姿勢をとるのはやむをえないところなので、予算案や法案がかんたんに成立しないのはある意味では避けられないことだ。

 問題は、さまざまな紆余曲折はあっても、大きな方向として、望ましい政策が実施されているかどうかだ。麻生首相には、「おバカ総理」などと揶揄される面もあるものの、私見では、前向きな姿勢でわが国の危機的な状況を乗りきるべく最善の努力を傾けているように見える。

 来年早々には国会も召集して第二次補正予算や来年度の予算や法案、税制改正案等の審議に入ろうとしている。こんなに早い時期に国会を召集するのは異例の事だ。

 国会の仕組みを知らない人は、年内にでも対策を講じるべきだと主張するが、どんなに急いでも一定の時間がかかるのが民主主義のシステムだ。審議が不十分なまま 拙速である施策を実施する事には、不正や不当が紛れ込むおそれがある。したがって、民主的な手続きを否定するのは、一時の激情にかられて猪突猛進する類であるといえよう。

 今回の施策は、大別して、3つあると言えよう。

  ・金融安定化策  金利引下げ、資金の供給、預金保護

  ・景気刺激策   財政出動、資金の供給促進

  ・雇用安定化策  非正規雇用者・派遣社員対策、公的助成の充実、セーフティネットの拡充

 今後は、こうした対策が着実に実施され、諸外国の対策とあいまって、少しでも早く内外の景気が回復するのを待ちたい。いずれ、解散・総選挙となるだろうが、どのような結果になっても、わが国の経済と国民の生活の安定を目指すべきであることは言をまたない。

2.ここで、ひとつ指摘しておきたいことがある。
 
 それは、複数の価値観というものは、勝ち負けがつくこともあるが、一般的には、それ以後も、顕在化するか潜在化するかはあるにせよ、少数派や反対派の価値観も生き続けるということである。

 つまり、家族でも地域でも会社でも国家でも、およそ、人間のいるところには異なった価値観が存在し、それらは、さまざまな局面で衝突しあっているのである。
 
 たとえば、オバマアメリカの次期大統領に選ばれたにしても、多くの反対者はなお存在し、なにかにつけて、オバマの足を引っ張ろうとするだろう。そして、折りあらば、オバマを大統領から引きずりおろしたいと願っているだろう。それが人間社会の本質である。

 人類を理想化して、平和や正義や博愛平等といった理念に生きる聖人君子の集合体であるなどという考えを信用する事は危険だ。

 小生だって、平和で豊かな世界であってほしいと願う気持ちでは人後に落ちないつもりである。しかし、歴史を振りかえり、現実の世界を冷静に見てみれば、利害や宗教や民族といった要素が対立や争いを生み続けてきたこと及び今後も生み続けていくであろう事を否定することは難しい。

 人間社会は多かれ少なかれそういう争いや交渉を通して、その都度便宜的な妥協をくりかえしているのであり、ひとつの価値観のもとに団結しているなどということはありえないのである。このようにとらえると、絶望的になるおそれもある。しかし、冷厳な現実というものを踏まえて、個人や社会や国家がそのときどきに最善の選択をしていくためには、そうした知恵が不可欠であり有効であると考えれば、明るい展望も開けるだろう。

 世界の平和と繁栄を願い、それに貢献したいというひとびとを賞賛し支援する社会は望ましい。そういう価値観が生き残る社会であり世界であってほしいと心から願うものである。