南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

小句集『夏から秋へ』

  小句集『夏から秋へ』



    (お取り寄せ)


奪い合う 秋の新作 在庫無し

寝静まる 家屋露わに 稲光る

廃屋は すすきに隠れ 人の声  

    
     (現 物)


極小の ドラムを叩く 虫の声

極大の 夢幻広げる 秋の空

現物の あるがまんまの 秋の影


    (ガラクタ)


ラクタも 光を浴びる 秋の午後

老人も 彫像となる 街の秋

雨宿り おれを見下ろす 秋の空


   (稲 妻)


稲妻は 眠るガラスを 叩き割る

秋の日は 怒る市民の 背を撫でる

コスモスの 隠す匂いを 焼き捨てて


    (獣道)


一滴の 笹の露さえ 熊を飼う

秋来れば 血凝りを踏む 獣道


    (実りの秋)


真ん中を くり抜く栗の 香り立ち

蟹殻を 剥きとる指に われ忘れ

実り来る 稲穂の中で 落涙す


    (夏から秋へ)


成り行きは 別に気にせず 秋の宿

手を握る それで十分 秋の旅

淫らでも 淡くてもいい 秋の恋

男女差は 計れないけど 夏は行く

強すぎる 握力ってなに 夏の夜

真実を 見えなくするよ 惚れた夏

とりつかれ 臆面もなく いたす夏

ピントはずれ 一枚の写メ 夏に泣く

体だけ 合わせてみても 夏淋し

思うほど 満足せずに 夏終わる

子はいても 離婚しちゃうの 夏の雨

めんどうで 恋もセックスも しない夏

メール魔は 苦手だ勝手に したい夏

別れたら 次の相手が 欲しい夏

発情期 あるのかないのか 人の四季

マンネリを ほかの相手で 超える夏

すれちがい その気にさせて 夏無情

衰えて 干からびてぽい 夏の暮れ

まあまあまあ 下ネタぐらい 夏の川

強迫の セックス捨てて 夏涼し

プラトニク 軽いタッチの 夏もよし

さわやかな 想いでつなぐ 夏淡し

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