南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

『 死への恐怖 』(価Ⅲ=14)

 

         『 死への恐怖 』

                            価値観の研究第三部 その14)

1.死への感情は複雑だろう。恐怖感、絶望感、錯乱、無気力、あきらめなど。
 漠然とした不安や自分がいなくなってしまうことへの恐怖感や精神的な錯乱にふりまわされるのはごく自然なことだと思える。

2.漠然とした死の観念とは別に、死に至るまでにさまざまな苦しみを経験することも大きな不安材料だろう。

 たとえば、脳こうそくで全身あるいは半身不随になるとか、言語障害になるとか、がんの進行で強い痛みにさいなまれるとか、事故や病気でで体の一部を失うとか、介助者なしには日常生活が営めないとかの状況に陥ることは大きなプレッシャーとなるだろう。

 視力や聴力、味覚や嗅覚、触覚などが低下することも耐えがたい試練と言えよう。

 
3.突然死は別として、人間は死ぬまでの過程においても苦悩にさいなまれるおそれをかかえているわけだ。

 そして、いかなる道筋で死を迎えるかもあらかじめ予知することがむずかしいので、ほとんどの場合、不幸は不意打ちでやってきて、否応なく人間にとりつくというものだ。

 
4.死は世の中にごくふつうにみられるもので、めずらしくもなんともない。だが、個人にとっては、死は一回限りで特別で絶対的なものだ。

 死に至るまで悟りを開くこともなく乱れた感情を持ち続けたとしても不思議はないと思う。

 死はそんなにかんたんに受け入れることができるものだとは思えないからだ。