南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

日原正彦詩集『はやく来てー子どもの詩ー』

日原正彦詩集『はやく来てー子どもの詩ー』。大人が子どもの目を借りて書いた、楽しくて面白くて辛くて怖い、29篇。若い頃から今日まで溢れる詩心を存分に発揮してきた著者の創作の秘密を垣間見るような純粋な目と心の動きが魅力的だ。何歳になっても詩を書かせるのは子どもの目だと気づかされる。

シェークスピア ソネット 141

 

ソネット 141

 

             W. シェークスピア

 

実を言えばわたしの眼はあなたを愛してはいないのですよ

なぜならあなたがたくさんの過ちを犯していることに気づいているからです

でもわたしの心はわたしの眼が軽蔑するものを愛してしまうのです

心は眼と相反して盲目的に愛してしまうのです、

わたしの耳もまたあなたの声音に快さを感じることはなく

触れ方も繊細ではなくややもするといやらしい感じになり

味覚も嗅覚もあなたと二人きりで快楽に耽ることを欲しないのです

でもわたしの五つの知恵も五感も

わたしの愚かな心があなたに仕えてしまうのを引き留めることができず

わたしの心が抜け殻のような男をコントロールできないので

男は気位の高いあなたの心の奴隷あるいは従者になってしまうのです、

    ただこの恋煩いだけがこれまでにわたしの得たものなのです

 わたしに罪を犯させた彼女こそわたしに痛みを与えるのです。

 

 

 

 

Sonnet CXLI

 

       W. Shakespeare

 

In faith I do not love thee with mine eyes,

For they in thee a thousand errors note;

But 'tis my heart that loves what they despise,

Who, in despite of view, is pleased to dote.

Nor are mine ears with thy tongue's tune delighted;

Nor tender feeling, to base touches prone,

Nor taste, nor smell, desire to be invited

To any sensual feast with thee alone:

But my five wits nor my five senses can

Dissuade one foolish heart from serving thee,

Who leaves unswayed the likeness of a man,

Thy proud heart's slave and vassal wretch to be:

   Only my plague thus far I count my gain,

   That she that makes me sin awards me pain.

葉山美玖詩集『春の箱庭』

葉山美玖詩集『春の箱庭』。ホームにいる父のこと、心を病んでいた母のこと、試練に満ちた自分のことなどがありのままにだが確実な表現技巧により述べられる。最後に、希望に向けて旅立とうとする姿勢が見えるのが救いだ。「この小さな私の箱庭のような街から/春は出航する」(「春の箱庭」から)。

シェークスピア ソネット 140

 

ソネット 140

 

       W. シェークスピア

 

あなたは残酷なのと同じくらい賢く振舞ってほしい

言いたいことも言わずにいるわたしをあんまりいじめないでほしい

悲しみのあまりわたしが言葉を発し その言葉が

憐みを懇願するようなかたちで表現されるのを避けたいから、

わたしがあなたに賢い振舞い方を教えたほうがよかったのかもしれない

あなたはわたしを愛していないにしてもそうわたしに言うことを

ちょうど不機嫌な病人に死期が近づいていても

聞こえる医者の言葉は快方に向かっているということだけであるように、

なぜならもしわたしが絶望したらわたしは狂気におちいるだろう

そして狂乱の余りあなたの悪口を言ってしまうかもしれないから

今や世の中は曲解が横行してひどいことになっていて

狂った中傷者の言うことが狂った聴衆に信じられている、

 わたしがそんなふうにならないように、またあなたが中傷されないように

 あなたの目をまっすぐわたしに向けてほしい、いかにその誇り高い心がよそ見をするとしても。

 

 

Sonnet CXL

 

       W. Shakespeare

 

Be wise as thou art cruel; do not press

My tongue-tied patience with too much disdain;

Lest sorrow lend me words, and words express

The manner of my pity-wanting pain.

If I might teach thee wit, better it were,

Though not to love, yet, love to tell me so;

As testy sick men, when their deaths be near,

No news but health from their physicians know;

For, if I should despair, I should grow mad,

And in my madness might speak ill of thee;

Now this ill-wresting world is grown so bad,

Mad slanderers by mad ears believed be.

   That I may not be so, nor thou belied,

   Bear thine eyes straight, though thy proud heart go wide.

シェークスピア ソネット 139

 

ソネット 139

 

             W. シェークスピア

 

おお!あなたの冷たさがわたしの心を悩ましているのに

そんなひどい仕打ちを弁護するようにとわたしに言わないでください

言葉ならまだしも視線でわたしを傷つけないでください

わたしの命を取るなら計略ではなく力づくでやってください、

ほかの男を愛すると言うのはやむをえません、でもわたしの面前では

どうかあなたの視線をほかの男に向けるのを避けてください

あなたの攻撃力がわたしの脆弱な防御力を上回っているのに

なぜあなたは狡猾な戦略を用いてわたしを傷つけようとするのですか?

でもあなたを許してあげましょう、ああ!わたしの恋人は

その愛らしい容貌がわたしにとってはずっと敵であったことをよく知っているからです

だからこそあのひとはわたしの顔からその顔をそむけるのです

もっともその視線はほかの男たちになら矢を射当てるかもしれませんが、

いやむしろそんなことはせずに、わたしは死んだも同然なのですから

今すぐその目で殺してください、そしてわたしの痛みを取り除いて下さい。

 

Sonnet CXXXIX

 

      W. Shakespeare

 

O! call not me to justify the wrong

That thy unkindness lays upon my heart;

Wound me not with thine eye, but with thy tongue:

Use power with power, and slay me not by art,

Tell me thou lov'st elsewhere; but in my sight,

Dear heart, forbear to glance thine eye aside:

What need'st thou wound with cunning, when thy might

Is more than my o'erpressed defence can bide?

Let me excuse thee: ah! my love well knows

Her pretty looks have been mine enemies;

And therefore from my face she turns my foes,

That they elsewhere might dart their injuries:

   Yet do not so; but since I am near slain,

   Kill me outright with looks, and rid my pain.

シェークスピア ソネット 138

 

ソネット 138

 

        W.シェークスピア  

 

わたしの恋人が自分は本当のことしか言わないと誓う時

わたしは彼女が嘘をついているとわかっていてもその言葉を信じる

彼女がわたしを世間のまやかしの機微を悟っていない

世慣れない若造だと思えるように、

彼女がわたしの絶頂期は過ぎたと知っていても

彼女がわたしを若いと思っているとそんなふうにわたしは虚栄心から思い

ただただ彼女の嘘つきの舌を信用する

どちらからもそのように明らかな真実が隠される

だがなぜ彼女は自分が不誠実だと言わないのだろう?

そしてなぜわたしは自分が老いていると言わないのだろう?

おお!愛の最善の特質は信じるふりをすることにあり

恋する年配者は年齢には触れられたくはない、

だからわたしは彼女に嘘をつき 彼女もわたしに嘘をつく

 そして嘘という過ちによってわたしたちはいい気分でいられる。

 

 

Sonnet CXXXVIII

 

        W. Shakespeare

 

When my love swears that she is made of truth,

I do believe her though I know she lies,

That she might think me some untutored youth,

Unlearned in the world's false subtleties.

Thus vainly thinking that she thinks me young,

Although she knows my days are past the best,

Simply I credit her false-speaking tongue:

On both sides thus is simple truth suppressed:

But wherefore says she not she is unjust?

And wherefore say not I that I am old?

O! love's best habit is in seeming trust,

And age in love, loves not to have years told:

   Therefore I lie with her, and she with me,

   And in our faults by lies we flattered be.