南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

桜談義・補遺

桜を詠んだ和歌には秀歌がたくさんあるが、

特にすぐれた和歌を2,3あげるとすれば、

万葉集

    梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや

古今集

    久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ     紀友則

    花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに   小野小町


新古今集

    花にあかぬ歎はいつもせしかども今日の今宵に似る時は無し     在原業平


 いろいろな歌がある中で、個人的には、 小野小町の、歌が最高傑作だと思う。

 思うに、花の色の美しさとはかなさが、いろいろなものを連想させるからだろう。

特に、女性の人生の比喩としてとらえると切実な思いにつながる。

 どんなに若くて美しい女性でも、年老いて、美貌を失っていく。その思いが、花にたとえられる。散っても美しい桜の花びらなら、女性も納得できるだろう。嘆くさまがまた絵になるから。

 男から見た歌には、そこまで痛切なものはなさそうだ。

 男と女の違いが歌にもあらわれているような気がする。