南原充士『続・越落の園』

文学のデパート

ジークフリート

 きのう、ゲルギエフ音楽監督になるマリンスキーオペラ、「ジークフリート」(ワーグナー作)を観てきた。

 ニーベルングの指輪の一部。タイトルだけは知っていたが、実際に観たのははじめて。ワーグナーというビッグネームの音楽世界もあまり知らなかった。

 3時開演。二度の長い休憩をはさんで、終演は8時40分ごろ。長いというのが第一の感想。

 あと、高額なチケット代にもかかわらず、満員に近い盛況だったこと。

 ゲルギエフという指揮者が特別の存在になっているからなのだろう。リストラとか日本人の懐具合もきびしいのではないかと思っていたが、芸術にお金をおしまない愛好家がずいぶん多くいることに驚くとともに、日本の未来にも期待が持てると思った。芸術を愛せないなんて、精神的に貧しいということにほかならないから。わが詩集もやや難解かもしれないが、もっと読まれていい、なんて変なところで、手前味噌の感想にふけったりした。

 さて、本題にはいろう。

 ストーリーは予想外に、子供っぽかった。メルヘンかファンタジーといった感じ。つまり、童話とか神話世界を感じさせるものだった。ワーグナーというのは、もっと厳粛でとっつきにくい世界を作り出しているのかと思っていたので、意外だった。

 歌手は、ジークフリートをはじめ、うまいひとばかりで、感心した。特に、長時間歌い続けたジークフリート役は、のどを酷使したと思うが、最後まで声がよく出て、クライマックスの恋のエンディングも最高の盛り上がりを見せた。文句のないできだったと思う。

 舞台演出も、前衛的だが、巨人族のイメージや指輪を守る大蛇のイメージさらに森の中で炎に包まれて眠るブリュンヒルデのイメージとうまくマッチして効果的だと思った。照明も大胆な色使いがあって、物語の雰囲気を盛り上げるのにおおいに貢献していた。

 オーケストラも、さすがにゲルギエフが率いるだけあって、ステージをしっかりと支えていた。

 全体に、すばらしいできばえだったと感動した。

 ひとつだけ気になることがあったとしたら、ストーリーだ。最近はやりのテレビゲームやハリーポッター指輪物語などと同様に、ファンタジーあるいはメルヘンといってよいと思われる。

 ほかのオペラのように現実社会を映したストーリーだったら、インパクトは別の種類のものとなっただろう。

 だが、おとなの童話としての、神話的なスケールの大きさや奇想天外な登場人物、波乱に満ちたストーリーの展開、哲学的な洞察、恋愛讃歌など、独特の魅力は否定し得ない。大蛇を退治する場面などは、日本でも、やまたのおろちを退治するすさのうのみこと、の物語を連想させておもしろい。

 オペラの壮大なスケールに引き込まれそうな予感がする。